Blood will tell.

スタイルも良く可愛らしく、それに加えて学校一の天才と名高いエステファニア・マリア・スタークはファンクラブまで密かに結成される程の人気だ。今までに告白されたことは星の数。おそらく父親に似たのだろう、エストは非常にモテた。だが、当の本人は異性に興味がないらしく、『ミス・スタークは告白しても玉砕する、アベンジャーズタワー並の高嶺の花』と、彼女はLA中で有名だった。

ある日の放課後。友達と市内に出来たカフェに行く約束をしていたエストは、学校の門の外で待っていたのだが、そこへ他校の男子学生が近づいてきた。その男子生徒は、今までの経験からすると、おそらく自分に告白しにきたのだろう。
(また?もう…嫌になっちゃう!)
自分はモテると思っているのだろうか、髪形を気にし、笑みを浮かべながら近づいてくる男子生徒は、エストのタイプとは正反対だったのだ。
馴れ馴れしく近寄って来たその男子生徒は、キリアンと名乗った。
「スタークさん、付き合って下さい!」
「ごめんなさい」
ものの1秒ほどで返ってきたありえない程俊敏な返答に、余程自信があったのか、キリアンはしばらく呆然としていたが、やがてすごすごと帰って行った。
そこへやって来たのは待ち人である友達。彼女たちは先程のやり取りを最初から遠目で見ていたので、エストが彼をこっぴどく振るところを目撃していたのだ。
「エスト、あの子、隣の学校の超人気の男の子なのよ?!」
「どうして断るの?」
非難めいた口調で矢継ぎ早に叫ぶ友達を見渡すと、エストはくるりと目を回した。
「だって、タイプじゃないもん」
毎回こうなのだ。『タイプじゃない』と、言い寄る相手をこっぴどく振るのがエスト。一度たりとも告白を受け入れたことがないエストだが、果たして彼女の理想のタイプは一体誰なのだろうかと、気になった彼女の友人はこれを機会にと尋ねてみることにした。
「エストのタイプって?」
「パパ!」
これまたあり得ない程俊敏に返って来た答えに、理想は芸能人の名前が挙がるだろうと予想していた友達はみな目を白黒させた。
「え?」
口をポカンと開けている友達に気付いていないのか、エストは目をキラキラさせている。
「パパみたいに、頭が良くてカッコよくて、それから一緒にいると楽しい人。私ね、パパとママみたいな夫婦になりたいの。パパと一緒にいる時のママって、とっても幸せそうなの。それにね、パパにキスしてもらうと、ママはどんなに疲れていても元気になるんだって!だから私もパパみたいな人と結婚して、ママみたいに幸せになりたいの」
両親を思い浮かべているのか、うっとりとしているエストをしばらくポカンと見ていた友達だったが、一人が笑い始めたのを契機に、その場は爆笑の渦に包まれた。
「…何で笑うのよ…」
どうして友達が笑っているのか理解できないエストは、悲しそうに口を尖らせた。
「そりゃ、あんたのパパみたいな人はそうそういないわよ…」
「現実を見なさい」
頭はいいのにこういうことには疎いエストに苦笑した友達は、彼女の背中をポンっと叩くと、まだ口を尖らせているエストの手を引っ張りカフェへと向かった。

***
帰宅するや否やキッチンへ向かったエストは母親の姿を見つけると、カバンを放り投げ椅子に座った。
「ねぇ、ママ。聞いていい?」
「何?」
いつもなら真っ先におやつを要求する娘が、やけに真剣な面持ちで自分を見つめている。それでもおやつのドーナツを用意したペッパーは、娘の正面に腰を下ろした。
「あのね。どうしてママはパパと結婚したの?」
突然どうしたのかしら…と思ったペッパーだが、幼い頃から好奇心旺盛なエストなのだから、いつもの好奇心かと思い、ペッパーは言葉を選びながら話し始めた。
「そうねぇ…。一言で言うと、パパがママにとって必要不可欠だったからね。それはパパも同じでしょうけど」
結婚指輪に触れたペッパーは、不思議そうな顔をしている娘に笑みを向けた。
「ママは昔、パパの秘書だったって話したわよね?あの頃のパパは自分で靴紐も結べないような人だったの。ママの方が随分年下なのに、パパの方が子供みたいだったわ。あ、今もそうだけどね。その頃からずっとママはパパの面倒をみなきゃって思ってたの。でもね、パパはいざとなったらいつもママのことを守ってくれた。どこにいても必ずママのことを助けてくれたの。パパもママもお互いに好きだったのに、自分の気持ちに素直になれなくて、何年も経ってしまったわ。でもその間に、パパとママはお互いのことを自分のこと以上に知ることができたの。素直になれたのは突然のことだったわ。今思えば、お互いに我慢の限界を超えていたんだと思うけど。その時、ママは思ったの。トニーがそばにいて支えてくれるから、私は頑張れるんだって。それはパパも同じだったの。だからパパとママは結婚して、お互いにずっと支えていこうって決めたのよ」
両親がお互いの存在を自分以上に大切に思っていることは、幼少時から知っているが、直接言葉で聞いたことはなかったため、エストはひどく感心してしまった。
「ふーん…」
頬杖を付き浮かない顔のエストにピンときたペッパーは、にんまりと笑った。
「好きな子でもできたの?」
母親の言葉に我に返ったエストは、慌てたように首をブンブンと振った。
「ち、違うわよ!また告白されたの。キリアンっていう人」
ため息を付いたエストは口を尖らせると、俯き加減に話し始めた。
「でも全然タイプじゃなかったから断ったの。そしたらね、友達がもったいないって。その子は人気者だから、付き合った方がいいって言うの。だから私ね、パパみたいな人じゃないと付き合わないって言ったの。そしたらみんな笑ったの…」
その時のやり取りを思い出したのか、エストの大きな目から涙が一粒零れ落ちた。
(この子もそういうことを考える年頃になったってことかしら…)
娘の成長が嬉しい反面、ちょっぴり寂しさも感じたペッパーだが、母親としてアドバイスしようと、娘の背中を撫でた。
「エスト、あなたがそばにいたいと思う人が現れるまで、そのままでいいのよ。周りの人がどう言おうが、あなたはあなたなんだから。でもね、お友達から始めてみるのも一つの方法よ。お互いのことを知ったうえで、それからどうするかはあなたが決めればいいんだから」
母親の言葉に首を傾げたエストは、不思議そうな顔をしている。
「そういうものなの?」
クスっと笑ったペッパーは、娘の頭を軽く撫でた。
「どうかしらねぇ。人の気持ちなんて変わるものだから」
父親とのことを思い出しているのだろうか、母親はとても幸せそうで、エストはもやもやした気持ちが吹き飛んだ気がした。

その後、学校での出来事を喋り続ける娘の話を聞いていたペッパーだが、ふと思い出したように唇に指を当てた。
「それにしても、あなたが告白されてるって知ったら、パパは卒倒するわね」
「え?どうして?」
突然父親の話題になり、エストは身を乗り出した。
「パパはあなたが生まれた日にね、あなたを抱っこして、大事な娘を知らない男に取られる!って将来のことを早速妄想してたから」
その時の父親の様子を想像しているのだろうか、ニヤニヤとしている娘の姿に苦笑したペッパーだが、ふと気付いた。
キリアンって、聞き覚えがあるわね…と。
だが、どこで聞いたのか思い出せる訳もなく、紅茶でも用意しようとペッパーは立ち上がった。

※エストがモテル話。キリアンくんはこの後も出てくる予定です。

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