トニー・スタークに困ったファンレターやら脅迫状が届くのは日常茶飯事なのだが、今回は違った。狙われたのはあろうことかスターク夫妻の子供達。
長女のエストが幼稚園で遊ぶ様子や、長男のエリオットが母親であるペッパーと買い物に行く様子を撮影した写真と共に送られきた『スタークの血筋は断たねばならぬ。抹殺あるのみ。覚悟しろ』というメッセージは、いくら分析しても何の手がかりも見つからなかった。
『外に出れば狙われる』と考えた2人はほとぼりが冷めるまでは…と、子供たちを片時も離さず、セキュリティを強化させた家に閉じこもった。
そんなある日、ペッパーがD.C.に出張に行くことになった。トニーや子供たちと離れたくないが、仕事は仕事だ。それに一緒にD.C.に行けば、危険な目に遭う可能性もある。ということで、子供たちはトニーとマリブの家に留守番、ペッパーはハッピーを護衛にD.C.へ行くことになった。
出発の朝、玄関まで見送りに来た子供たちをそれぞれ抱きしめたペッパーは、心配そうなトニーにキスをすると抱きついた。
「大丈夫よ、トニー。ハッピーがいるわ。それよりあなたこそ気をつけて」
「あぁ、何かあればすぐ連絡しろ」
妻をギュッと抱きしめたトニーは、後ろに控える頼れるボディーガード兼友人に向かって頷いた。
「ハッピー、頼んだぞ」
***
昼食を食べ、トニーはリビングで子供たちに本を読み聞かせていた。
「パパ、お外で遊んでいい?」
幼稚園にも行けないばかりか、家の庭でも遊べない。大好きな両親と四六時中一緒にいることができるのは嬉しいが、外で遊ぶことも大好きなエストは、この一週間、閉じこもってばかりの状況に少々飽きていた。
眉を吊り上げたトニーは絵本を閉じると首を振った。
「ダメだ。話しただろ?しばらく家の中からは出られないんだ」
唇を尖らせたエストは立ち上がると、可愛らしく小首を傾げた。
「パパ、プールもダメ?」
娘の仕草は母親であるペッパーそっくりで、可愛らしい娘のお願いに思わず許可しそうになったトニーだが、今は状況が状況なのだ。
「ダメだ。諦めろ」
いつになく仏頂面で答える父親に頬を膨らませたエストは、せめて外の景色を眺めようと、窓際へと向かった。
「パパ、これよんで」
膝の上によじ登ってきた息子の手には、アベンジャーズの絵本。
「エスト、あまり窓際に行くなよ」
娘に声を掛けたトニーは、声色を変えて絵本を読み始めた。
「パパ!見て!」
しばらくして、窓の外を見ていたエストが大声を上げた。
顔を上げたトニーは、娘が指差している物の正体に気付くと顔色を変えた。
窓の外には複数のドローン。そしてドローンは自分たちの方へ向かってくるではないか。
「エスト!」
息子を抱きかかえ窓際に走ったトニーは娘の手を引っ張ると、窓から遠ざかるように走り出した。と同時にドローンが発射したミサイルが室内へ突っ込んできた。
背後から爆風に襲われたトニーは、子供達を守るように身を屈めたが、床に叩きつけられた。
(とにかく子供達を安全な場所に…)
腕の中ではエストとエリオットが泣いている。泣きながらしがみついてくる子供達を安心させるように、トニーは頭にキスをした。
「大丈夫だ。パパがいる」
力強いその言葉に、2人は泣き止むと父親に抱きついた。
立ち上がろうとしたトニーだが、どういう訳だか足が動かない。見ると、足の上には瓦礫が積み重なっている。しかも厄介なことに、左の大腿部にはガラスが深々と刺さっており、止めどなく血が溢れているではないか。
(早くこの子たちを逃がさなければ…)
次々と室内に侵入してくるドローン。もはや一刻の猶予もない。
「J!コード・レッドだ!用意しろ!」
ジャーヴィスに命じたトニーは、何とか瓦礫を取り除くと子供たちを抱き上げラボへと向かった。
「J!子供達を頼むぞ!」
二人を車に押し込んだトニーだが、痛みと出血のため顔を顰めると、その場に膝をついた。青い顔をし脂汗をかいた父親の足元には血溜りが出来ており、エストは顔色を変えた。
「パパ!けがしてるわ!」
手を伸ばそうとしてきた娘を押しとどめたトニーは、痛みを追い払うかのように頭を何度か振った。
「いいか、ジャーヴィスの言うことをよく聞くんだ。絶対にここから動くな!」
二人にキスをしたトニーは、自分のことを求める子供たちの声を遮るかのように、車のドアを閉めた。
アーマーを装着しようと格納庫へ向かったトニーだが、背後に何かいることに気付き振り返った。
相手は機械。気配がない上に、子供たちのことで頭がいっぱいだったトニーが気付かなかったのは当然かもしれないが、ぴったりと背後に立つドローンに、注意散漫だったのは自分せいだと、トニーは思わず舌打ちした。
「J!マーク…」
ジャーヴィスにアーマーを用意させるよりも、ドローンの方が早かった。ドローンはトニーの首を掴むとラボを飛び出した。
リビングエリアまで来ると、ドローンはトニーの体を床に叩き付けた。リビングは破壊され、瓦礫の散乱する床でトニーは嫌という程背中を打った。
「っ!」
(こうなったら、子供たちが脱出するまで、こいつらの注意を引きつけておくしかない)
何か武器になるものはないだろうかと頭を持ち上げたトニーだが、その頭を掴んだドローンは、トニーが呻き声を上げるのを楽しむかのように、床に何度も叩き付けた。
(成程…狙いは私一人ということか…)
そうなれば、ジャーヴィスが呼んだであろう援護が来るまで、持ちこたえれることを祈るしかない。
だが、ドローンは立ち上がろうとしたトニーを持ち上げると、窓の外に向かって放り投げた。
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