One life ends…another begins.⑤


「どういうことなの…」
病院へ駆けつけたペッパーは、スティーブたちから状況を説明されたが、すぐには理解することができなかった。
「スタークは…逃げなかったんだ…。つまり…」
口ごもったブルースを援護するかのように、ナターシャが言葉を続けた。
「あなたたちに何があったのかは知らないわ。でもね、ペッパー。スタークは特にこの数日、見ていられなかったわ…。まるで死んだも同然だったの。自ら危険な任務を希望して…死に場所を求めているようだったわ。だから今回も…スタークは…」
ナターシャの目に涙が浮かび、ペッパーはようやく事態を把握した。

トニーは自ら命を絶とうとしたのだと…。

「そんな…」

その場に座り込んだペッパーは、震える身体を両手で抱え込んだ。

トニーが…どうして……。
もしかして…私が…私があの時言った言葉が…彼のことを…死を選ぶほど追い込んでしまったの?

真っ青になったペッパーが唇を噛みしめたその時、手術室から執刀医が出てきた。
ペッパーに気付いた医師は小さく頭を下げると、トニーの状態を説明し始めた。
「スタークさんは…非常に危険な状態です…。全身の熱傷もですが、頭部にかなりのダメージを受けています……」

(トニーは…死ぬの?トニー…)

呆然とするペッパーの耳に医師の説明は全く入ってこなかった…。

***

気が付くと、ペッパーはトニーの枕元に座っていた。
誰かが連れてきてくれたのだろう。あれから何時間経ったのかは分からないが、ICUにはほとんど人気がなく、トニーに付けられたモニターと呼吸器の音が室内に響き渡っていた。
「トニー…」
顔も身体もガーゼと包帯だらけだが、トニーは最後に会った時よりも痩せていた。
「トニー……」
彼の胸元のリアクターだけが、変わらず青白い光を放っている。

ふとそばの机に置かれたトニーの私物に目をやったペッパーは、そこに焼け焦げた小さな箱と自分の写真があることに気づいた。
血に染まったその写真は、別れを告げる前に家で撮った写真だった。
幸せそうに微笑む自分とトニーはもう何年も前のように思え、どうしてこんなことになったのだろうかと涙を拭ったペッパーは、箱をゆっくりと開けた。
そこには小さな指輪と”Merry Me”と書かれたメッセージカードが入っていた。
「これ…もしかしてあの時…」
おそらく彼はこれを渡そうとあの時やって来たのだろう。
あの時謝りに来た彼を突き放したのは彼を思っての行動だったが、結果として極限まで追い込むことになってしまった…。
後悔の念に酷く襲われたペッパーは、写真の裏に何か書かれているのに気付き、裏返した。

『ペッパーへ
すまなかった。私が悪かった。理由も話さず君を勝手に遠ざけた罰だな。君に愛想を尽かされるのは当然だ。だが、これだけは言わせてくれ。君のことを守りたかった。ただそれだけなんだ…。君を守るためなら、私は命だって惜しくないんだ…。
ペッパー、こんなダメな男のそばに今までいてくれてありがとう。私といたばかりに、君の人生を無駄にさせてしまった。すまなかった。だが、感謝してる。君と共に歩んだこの十年、特に君と恋人になった月日は、私の人生の中でも最良の瞬間だった。ありがとうペッパー。だが、これからは自分の人生を歩んでくれ。私のことは忘れてくれ。私は君の目の前から…いや、君の人生から消える…。
さよなら、ペッパー。今さら遅いが…私が愛してるのは君だけだ…。
トニー』

やはりそうだ。
トニーは自分が生きていることで私が苦しむと思っていたのだ…。だから自らの存在を消すことで、私が自由になれると思っていたのだ。

「トニー…違うわ…。私…あなたがいないと…」
トニーの手を取ったペッパーの頬を涙が零れ落ちていく。大粒の涙が次々と流れ落ち、トニーの手を濡らしていった。
「ごめんなさい…トニー…。私も…あなたのこと、愛してるわ…。ジャーヴィスに聞いたの…。本当は…そばにいてあなたのこと、支えたかった…。でも…あなたの思いも分かるから…。あなたを苦しめたくなかったの…。でも…ごめんなさい…。結局あなたのこと、苦しめただけだったわ…。それからね……。あの日、あなたに言えなかったことがあるの…。……あなたの赤ちゃんが出来たの…。でも…もう…遅いわよね…。あなたのこと…こんなにも追い詰めてしまったんだもの…。トニー…許して…」

⑥へ…

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