⑥
数日後、トニーの家へ行ったペッパーをジャーヴィスが出迎えた。
『ペッパー様…あの時、戻ってくてくだされば…』
ジャーヴィスの悲痛な叫びにペッパーは何も言えなかった。
俯き黙ったままのペッパーにジャーヴィスは主人の言葉を伝えようと、あの日のデーターを呼び出した。
『ペッパー様、トニー様の最後のメッセージです…』
ジャーヴィスの静かな声にペッパーが顔を上げると、トニーの声が聞こえ始めた。
『今さら遅いんだ。今さら言ってどうする。彼女を苦しめるだけだ…。それに彼女はもう私のことは……。さすがに死んだら許してもらえるだろ?彼女は私に会ってくれるだろ?だからこれを渡してくれ…。私の願いはそれだけだ。J…ペッパーにすまなかったと伝えてくれ…。これで君は自由だと伝えてくれ…。頼ん……』
トニーの声は嫌な雑音と共に終わった。
トニーは最後まで私のことばかり考えてくれていた…。私を守るために…。
目をキュッと閉じたペッパーは、顔を手で覆い嗚咽を漏らし始めた。
「ジャーヴィス…ごめんなさい…。私のせいなの…、。私が彼を追い込んだの…。だから…」
ペッパーのその姿は、主人の姿と重なった。毎晩酒に溺れ、後悔し続けた主人の姿と…。
もう手遅れかもしれない。だがまだ可能性は残っている。
そう考えたジャーヴィスは、主人の最愛の女性に真実を告げることにした。
『ペッパー様、トニー様も後悔されていました。トニー様はペッパー様が家を出て行って以来、食事も睡眠もろくに取られていませんでした。トニー様は毎晩お酒を飲まれ、酔っぱらうとペッパー様のことを思い出し涙を流されていました。そして毎晩言われていました。『彼女に話をすべきだった。だが彼女を巻き込みたくない。守りたいんだ。この世の全ての悪から…。ペッパーは私の全てだ。彼女なしでは生きている意味がないんだ…。だが、私と離れることで彼女が幸せでいてくれるなら、私はこの世から消えてもいい…』と言われていました。トニー様にとってペッパー様は全てなのです。ですから、ペッパー様。トニー様が目を覚まされた時、そばにいて頂きたいのです。まだ可能性はあるのですから…』
その場に泣き崩れたペッパーは、ジャーヴィスの言葉に何度も頷くと、そっとお腹に手を当てた。
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