116. Harm

「…誰の仕業だ…」
冷たく感情のない声。そんなトニーの声は長年付き合いのあるハッピーですら聞いたことがなかった。

ペッパーが襲われたのは、数時間前。
帰宅しようと車に乗り込もうとしたペッパーは、ハッピーの目の前で倒れた。
背中を貫通した銃弾は、彼女の白のジャケットをみるみるうちに真っ赤に染めていった。
その時の光景が蘇り、ハッピーは残影を振り払うかのように頭を振った。
「スタークさん、奥様を狙撃した犯人は現在捜査中です。ですから…」
ベッドに横たわったペッパーを見つめていたトニーが振り返った。
その瞳は鋭く、そして声同様に暗く、怒りに燃えている。
「早く見つけろ!君たちがやらないなら、私が見つける!!そしてそいつの息の根を止めてやる!」
ドキっとした。
彼の怒りの炎でこちらが燃え尽きそうだった。
今すぐにでも飛び出していきそうなトニー。最愛の女性を傷つけられた今、彼が暴走するのは目に見えている。下手をすれば暴走の果てに自滅する可能性すらあるトニーは、誰も止めることはできない。いや、たった一人を除いては…。

「…とにー……」
か細い声にトニーが振り返った。
「ペッパー!」
駆け寄ったトニーは目を覚ましたペッパーの手をそっと握り締めた。
「ハニー…よかった…。君を失うところだった…」
最愛の男性の目に浮かんだ涙を拭ったペッパーは小さく笑みを浮かべた。
「トニー…大丈夫よ…。私はどこにもいかないわ…」
何度も頷いたトニーだが、顔を上げた時には、あの怒りに満ちた瞳は消え、いつものトニーがそこにはいた。

「ハニー、犯人は必ず見つける。だから…」
トニーの声色から彼が何をしようとしているのか悟ったのだろうか、小さく首を振ったペッパーは腕を伸ばすと、トニーの頬に触れた。
「お願い…あなたはずっとそばにいて…」
ペッパーの言葉に一瞬目を丸くしたトニーだが、彼女の手を取ると甲にキスを落とした。
「…分かった。犯人捜しはハッピーに任せる」
ふぅと息を吐いたトニーは振り返るとハッピーをじっと見つめた。
「おい、ハッピー…」
トニーを手で制したハッピーは、胸元を叩いた。
「ボス、任せて下さい。ペッパーを襲った奴はコテンパに懲らしめてやります!」
「頼んだぞ」
小さく笑ったトニーが座り直したのを確認したハッピーは、一刻も早く犯人を捕まえようと病室を後にした。

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