One life ends…another begins.③


「誰かしら…」
久しく聞いていなかったチャイムに首を傾げたペッパーは、相手が誰か確認せずにドアを開けた。
ドアを開けるとトニーがいた。頬はこけ、目にクマを作った彼は、幽霊のようにその場に佇んでいるではないか。
(彼は私に助けを求めにきた…)
駆け寄り抱きしめたかった。大丈夫よとただそばに寄り添いたかった。
(でも、彼が私を拒絶した…。私を守るために…。ここで彼を受け入れれば、彼は私のせいで破滅の道を辿るかもしれない…。)
そんな考えが浮かび、駆け寄り抱きしめたい気持ちをぐっと堪えたペッパーは感情を押し殺すと拳を握り締めた。
「何か用?」
ペッパーの冷たい視線にいたたまれなくなったトニーは視線を足元に落とした。
「…ペッパー、すまなかった…。頼む…もう一度チャンスをくれ…。勝手だということは分かっている…。だが…君がいないと…。私が悪かった…だから…」
トニーの震えるその声は、彼の心情を表していた。彼は限界だ。もう1人ではどうしようもないところまできている。
抱きしめようと手を伸ばしかけたペッパーだが、その考えを追い出すかのように拳を握りしめると頭を何度か振った。
「悪いけど…もうあなたのこと信じられないわ…。帰って…お願い…」
今にも消えそうなペッパーの声。もしかしたら同じ気持ちなのかもしれないと思ったトニーは諦めなかった。そこでトニーは顔を上げると懇願するようにペッパーを見つめた。
「ペッパー…私は君のことが…」
泣き出しそうな瞳に見つめられ、ペッパーは唇を噛みしめると目をキュっと閉じた。
(ダメよ、ペッパー!今はまだダメ!)
何度か深呼吸したペッパーは、全ての感情を捨て去るかのように叫んだ。
「帰ってよ!あなたが私を捨てたのよ!私には何も話さず…。あなたが選択したの!だから、私は必死であなたを忘れようとしたの!それなのに、今さら何よ!勝手すぎるわよ!あなたの顔なんか見たくないわ!私のことは放っておいて!」
悲痛な叫びにその場は凍り付いた。
「ペッパー…」
自分勝手な行動は想像以上にペッパーを傷つけていたと悟ったトニーは、これ以上何を言えばいいのか分からなかった。この場から姿を消せばいいのだろうが、足が動かなかった。ここで立ち去れば、もう二度とペッパーに会うことはできないだろうから…。
「お願い…トニー…。私にもう関わらないで…。私の前に…二度と現れないで…」
顔を覆い泣き出したペッパーにトニーは頭を下げるしかなかった。
「ペッパー…すまなかった…」
頭を下げるトニーに耐えきれなくなったペッパーは、ドアを乱暴に閉めると、その場に座り込んだ。

(愛してる…本当は今でも愛してる…。本当は抱きしめてあげたかった。傷つきボロボロになった彼を守りたかった。でも、彼は脅されている…。アイアンマンを辞めないと、大切なものを傷つけると…。彼は…私を守るために…私を遠ざけた。私がそばにいると、彼は何よりも私のことを最優先に考える。それが彼の命を脅かすことになるなら、私は彼から離れざるを得なかった。だって…世界は彼を…アイアンマンを必要としているから…)

「トニー…ごめんなさい…ごめんなさい…」
抱えた膝に頭を付けたペッパーは、先ほど言えなかった言葉を、ドアの向こうのトニーに言い続けた。

会いに行けば話ができるかも…というトニーの淡い期待は打ち砕かれた。
「もう手遅れか…」
自業自得とはいえ、あれほど拒絶する彼女を見るのは初めてだった。つまり、彼女の心は完全に離れてしまったのだ。
彼女が出て行って、二週間。眠ろうにも眠れないトニーは身も心もボロボロだった。
車に乗り込んだトニーは、胸元から小さな箱を取り出した。
もし、彼女が許してくれたら渡そうと思っていた物だ。だがもう必要ない…。
再び胸ポケットにしまいこんだトニーは、ポケットを探ると一枚の写真を取り出した。眩いばかりの笑顔のペッパーの写真。裏に何か書き始めたトニーだが、書き終わるとため息をつき、車を発進させた。

④へ…

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