102. Sick

「おい、ブルース。聞いてくれ」
いつものように切り出したトニーは、僕の目の前に腰を下ろすとベラベラと話し始めた。
正直、トニーの話は長くて退屈だ。毎回途中で眠ってしまい、そのたびに彼に怒られているのだが、それでも彼は僕に話すのをやめない。
彼の恋人のペッパー曰く『誰かに聞いてもらえるだけでいいみたい』らしいけど…。

「…また聞いてなかっただろ?」
気が付くと話は終わり、トニーが顰め面で僕を見ていた。
「そういう類の…」
言葉を続けようとした僕を遮ったトニーはわざとらしく肩を竦めた。
「医者じゃないんだろ。知ってる。毎回聞いてる」
ため息をついたトニーは、鼻を啜った。

そういえば、今日のトニーは鼻声だ。それに顔も赤し汗もかいている。
つまりそれは…。

「おい、トニー…君、もしかして…」
顔色を変えた僕は勢いよく立ち上がるとトニーの額に手を当てた。
「すごい熱じゃないか!どうして黙ってるんだ?!」
燃えるように熱い額。高熱があるのは間違いない。
ペッパーに連絡を取るようジャービスに告げると、トニーが文句を言う前に彼をペントハウスまで連れて行こうと立ち上がった。

***
「トニーったら、朝から鼻水が出てたの。病院へ連れて行こうとしたのにいつの間にか姿を消してて…。あなたの所に行ってたのね?」
ベッドに潜り込んだトニーの頬を撫でたペッパーは、「子供みたいなんだから…」と苦笑い。
マリブと違い冷え込むNYの気温に身体が付いていかなかったのだろう。
「僕はこういう類の医者なんだ。任せてくれ」
注射を取り出した僕に向かって、トニーは口を尖らせた。
「…注射は嫌いだ」
本当にいつまで経っても子供じみているんだよね。でもそれが彼の面白いところでもあるんだけど。
「知ってるよ。でも風邪にはよく効くんだ。君だって早く治したいだろ?」
チラリとペッパーを見上げたトニーは、小さく頷いた。
「大丈夫よ、ハニー。私が手を握っててあげるから」
クスクスと笑ったペッパーに手を差し出したトニーは、目をぎゅっと閉じると僕に告げた。
「おい、さっさとやってくれ」

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