103. Withdral

「しばらく匿ってくれる?」
突然やって来たペッパーは大きな荷物を抱えている。
「また喧嘩?」
苦笑しながらもクリントにペッパーの荷物を押し付けたナターシャは、今日はどんなネタかしらと胸の内ではワクワクしながらペッパーをリビングへと案内した。

座るや否や語り始めたペッパーの話をまとめるとこうだ。
出張のため3日間留守にしていたペッパー。自分が留守の間に子供たちを予防接種に連れて行くよう頼んでいたのに、帰って来てみれば、トニーは連れて行っていなかったのだ。
「自分が注射が嫌いだからって子供たちの予防接種には関係ないでしょ?だから私は思わず言ったの。『あなたの好き嫌いなんてどうでもいいの。どうしていつも言われたことができないの!』って。そしたら彼、言い訳のように言ったの。『子供たちが注射は嫌だから、パパとママと一緒に行きたいと言ったんだ。君が帰って来てからでも遅くないだろ?子供たちには今日君が帰って来てから行くと約束しているんだ』って。本当は自分が注射が嫌だからよ。だってあの子たち、今までそんなこと言ったことないのよ!」
金切り声を上げたペッパーは、持っていたハンカチを握りしめた。
ナターシャとクリントは思わず顔を見合わせた。それがどうして家出の理由なんだろうかと。
「で、どうして家出したの?」
首を傾げたナターシャに、ペッパーは俯いたまま話し始めた。
「トニーが出て行くって…。自分の言うことが信じられないのなら、一緒にいられない…、だから出て行くと言ったの。でも、私は出張帰りで荷物を持ってたから…」
「あなたが出て来たって訳ね」
頷いたペッパーにクリントは目をくるりと回した。
「相変わらずだな。どうせすぐにスタークが………痛っ!!!」
ナターシャの肘鉄を食らったクリントは、腹を押さえて悶絶している。
そんなクリントを一瞥したナターシャは、ペッパーの手をそっと取った。
「でもね、ペッパー。スタークの言うこと、正しいと思うわ。彼、あなたには嘘をつかないでしょ?」
ナターシャに言われなくても分かっていた。トニーはいつも家族のことを考えてくれているのだから…。
「そうなの…。冷静になって考えれば、彼は本当のことを言ってるって…。でも、家を飛び出したから、帰るに帰れなくて…」
そう言うと、ペッパーはしくしく泣き出してしまった。
大体いつもこうなのだ。その場でカッとなったペッパーが家を飛び出し転がり込んでくる。彼女がひとしきり不満を漏らし反省した頃合いを見計らったかのように、玄関のチャイムが鳴る…。だからそろそろ現れるだろうと、ナターシャが立ち上がった時だった。

ピンポーン

来たぞ?とばかりに頷いたクリントにペッパーを任せたナターシャは、玄関へ向かうとドアを開けた。
玄関先に立っていたのは、もちろんアイアンマン。
「いるんだろ?」
マスクを上げたトニーは、眉を吊り上げた。
「えぇ。泣いてたわよ」
肩を竦めたナターシャに続いてリビングへと向かったトニーは、泣いているペッパーに駆け寄ると彼女を抱きしめた。
「トニー…」
アーマーの胸元へ顔を押し付けたペッパーは、くぐもった声を出した。そんな妻の頭にキスを落としたトニーは、優しい声色で謝罪した。
「ペッパー。すまなかった。君に一言連絡しておけば良かった。なぁ、ハニー。君がいないとダメなんだ。知ってるだろ?私は君がいないと靴紐も結べない男だということは…。それに子供たちもだ。君が出て行って泣いている。それに、あの子たち、あの後注射も頑張ったんだ。だから、戻ってきてくれないか?」
トニーの言葉に何度も頷いたペッパーは、彼の背中に腕を回した。
「…私こそごめんなさい。勝手な思い込みであなたのこと信じなくてゴメンなさい…。私…いつまでたってもダメな妻ね…」
再びシクシクと泣き始めたペッパーをトニーはさらに強く抱きしめた。
「そんなことはない。君は完璧だ。妻としても母親としても…それから1人の女性としても…」
何度も謝るペッパーを優しく抱きしめていたトニーだったが、しばらくすると立ち上がり、ペッパーに手を差し出した。
「さぁ、ハニー。帰ろう」
差し出された手を取ったペッパーもゆっくりと立ち上がった。
「子供たちは?」
「ハッピーに留守を頼んだ。そうだ、戻るのは明日でもいいと言われた。つまり…意味は分かるだろ?」
悪戯めいた笑みを浮かべたトニーに、ペッパーもにっこりと笑った。
「えぇ」
妻の笑顔を見たトニーは、ペッパーの身体を抱き寄せると、呆れた様相のナターシャとクリントに向かってウインクした。
「そういうことだ。邪魔したな」
そう言うと、妻を抱きかかえたアイアンマンはキスをしながら玄関へ向かうと、そのまま空高く飛び去って行った。

「また惚気ていっただけじゃないか…」
ポツリとつぶやいたクリントは、どっと疲れが出たのか、ソファーに倒れこんだ。だが…。
「ホントね。でも、少し羨ましいかも…。あんたもスタークみたいに甘い言葉の一つや二つ、たまにはくれてもいいでしょ?」
というナターシャの言葉を耳にすると、クリントは要望を叶えようと彼女を抱きしめたのだった。

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