「やっと参加できるぞ!」
そう叫んだトニーは嬉しそうに笑うと、大きくなったお腹を撫でながら微笑むペッパーの手を繋ぎ、部屋へと入って行った。
今日はバースクラス。
今までペッパーは出産の準備のために受講していたが、トニーは忙しく一緒に参加できなかったのだ。だが、出産が間近なのだ。何が何でも出席しようと、トニーは大切な会議を延期させ、フューリーの頼みを断り、今日ようやく参加することができたのだ。
だが…。
『トニー・スタークがバースクラスに現れた!』
部屋に入ってきたスターク夫妻の姿…いや、特にトニー・スタークの登場に他の母親たちは色めきたった。そして付き添いで来ていた父親たちは、毎回目の保養だと楽しみにしていたペッパーが今日は旦那付きではないかと、がっくりと肩を落とした。
そんな周囲の反応を諸共せず、部屋の中を見渡したトニーはふんっと鼻を鳴らした。
「おい、ペッパー。今日は何をするんだ?」
「今日は赤ちゃんのおむつ交換と入浴のさせ方よ。それから…」
何か言いかけたペッパーだが、タイミング悪くバースクラスの担当者がやって来た。
いつも一人で参加しているペッパーの横に、夫であるトニーがいることに気付いた彼女は顔を輝かせた。
「あら?スタークさん、今日はご主人と一緒なんですね?」
「えぇ。そうな…」
ペッパーの言葉を遮るように立ち上がったトニーは、白い歯を見せ笑いかけた。
「初めてお目にかかる。ペッパーの夫のトニー・スタークだ。妻が毎回世話になっているようだな」
普通に挨拶しただけなのに、トニーの笑顔に頭がクラクラした担当者は、その場に卒倒してしまった。
「どうして倒れたんだ?」
自分はいつものように挨拶しただけだと首を傾げるトニーにペッパーは苦笑い。
と言うのも、先ほど倒れた担当者はトニーの大ファンだったらしく、ペッパーと顔を合わせる度に『ご主人はいつ来られるんですか?!』と楽しみにしていたからだ。
結局担当者は不在、代理を呼ぼうにも人が足りないらしく、今日のバースクラスは中止になってしまった。
「折角参加できると思っていたのに」
頬を膨らませたトニーにキスをしたペッパーは、彼の手をそっと握りしめた。
「仕方ないわ。来月また参加しましょ?それに、家でも練習できるから」
「そうだな」
ペッパーの肩を抱き寄せたトニーは車に向かって歩き始めたのだが、ふと先ほどペッパーが言いかけた言葉が気になった。
「ところで、今日のクラスはおむつ交換と入浴と、それから何をする予定だったんだ?」
「…何だったかしら?と言おうとしていたの」
一瞬間があったのは気になるが、ペッパーが忘れるくらいなのだから大したことではないのだろう。
そう考えたトニーは助手席にペッパーが座るとドアを閉め、いそいそと運転席へ向かった。
だがペッパーは、今日のクラスのもう一つの課題…すなわち『離乳食の作り方』を思い浮かべると、その場が大惨事にならなくてすんだわ…と、ペッパーはこっそりと汗を拭った。
【7ヶ月のペッパー。】