クリスマス前日。
クリントとナターシャがいたのは、暖かな家の中でも、賑やかなパーティー会場でもなく、闇と静寂の支配する森の中だった。
「だからどうして私たちは平穏なクリスマスが過ごせないの?」
双眼鏡を覗きながら、ナターシャはため息をついた。
クリスマスなのに、2人は任務中だった。いや、今年だけではない。去年も、2年前も3年前も…実はここ数年、静かにクリスマスを過ごしたことがない。
「仕事があるのはいいことだ。働かざるもの、食うべからずだ」
どんな小さな物音でも聞き逃したくないクリントは適当にあしらったつもりだったが、逆効果だった。
「何よそれ。全然説得力ないわ。あんたは私と二人きりでクリスマスを過ごしたいって思わないの?!」
頬を膨らませたナターシャに、イラついたクリントも声を荒げた。
「それとこれとは話が別だ!俺だってちゃんと考えてる!お前のために農…」
何か言いかけたクリントは慌てて口を閉じた。
「何?」
「…何でもない。それより、ターゲットが現れた。さっさと片付けよう」
眉を吊り上げたナターシャにキスをすると、クリントは武器を手に取った。
『君のために買った農場だ。のんびりと過ごせる二人だけの場所だ』
任務が終わったらその足で向かうんだ。クリスマスのイルミネーションで飾られた二人きりの農場へ…。
ナットの驚く顔を見るためだ。農場に到着するまで絶対に口を割らないからな…。
準備を整えた2人は、足早にその場を後にすると闇に紛れた。
※ホークアイの農場ネタは、AoUの予告編より