『クリスマスなんて嫌いだ』
ペッパーがトニーの秘書になり初めて迎えるクリスマス。せっかくだから楽しもうとわくわくしていたペッパーなのに、彼女のボスはそう一言告げただけで知らぬ顔だ。
どうして嫌いなのか尋ねると、トニーは
「家族と過ごすんだろ?そんなことは物心ついてからしたことがない。親父もお袋もパーティーに出かけ、私はいつも留守番だった。大学に入ってからは、毎年パーティー三昧だから、寂しいと思ったことはないが…。別にいつものパーティーと変わりない。クリスマスだから特別ということもないんだ」
と、寂しい答えが返ってきた。
途端にペッパーの胸に、何ともいえない感情が沸き起こってきた。それは、可愛そうというものよりも、彼にも大切な人と過ごすクリスマスの楽しさを教えてあげたいという感情だった。
という訳で、翌日になるとペッパーは、ジャーヴィス、ダミー、そしてユーに手伝ってもらいながら、トニーの家をクリスマス仕様に仕立てていった。
夜になり帰宅したトニーは、様変わりした家に面喰った。
外壁は派手なイルミネーションに彩られ、玄関先には大きな雪だるまのオブジェ。
恐る恐る家に入ると、リビングにはクリスマスツリー、暖炉には靴下がかかり、クリスマスソングが流れているではないか。
「ジャーヴィス!誰の仕業だ!」
よりによって大嫌いなクリスマス一色。勝手に誰がしたのだと、トニーは電脳執事を怒鳴りつけた。
『ポッツ様です。トニー様にクリスマスを楽しんで頂きたいと、朝から一生懸命に飾り付けをされていました』
「ペッパーが?」
彼女が秘書になり半年。何事も一生懸命な彼女は、今やトニーにとって大切な女性になっていた。最も彼自身も自分の気持ちに気付いていないので、そんなことは微塵も態度に出していないが…。そのペッパーが自分のために動いてくれた、そのことだけでもトニーの気持ちは温かいもので満ち溢れ始めた。
「そうか。ペッパーの仕業か。それならこのままでいい」
頷いたトニーは、ペッパーのいるキッチンへと向かった。
「トニー、おかえりなさい」
エプロンを付けたペッパーは可愛らしく、そのまま抱き締めキスをしたい衝動に駆られたトニーはその気持ちを誤魔化すように、冷蔵庫へ向かうとミネラルウォーターを取り出した。
「家中クリスマスだらけで、正直戸惑った」
素直に感謝の念を言えないトニーは、わざとらしく肩をすくめた。
「勝手にしてごめんなさい。あなたを驚かせたかったんです」
しょんぼりと俯いたペッパーに、トニーの胸はチクリと痛んだ。
本当は『私のためにありがとう』と伝えたい。だが、どう伝えればいいのか分からない。
鼻の頭を擦ったトニーは、ポンと手を叩いた。
「ペッパー、クリスマスの予定は全てキャンセルしてくれ。今年は家で過ごす。もちろん君も一緒に…だ。それからハッピーとローディも呼ぼう。どうせ恋人もいないんだ。暇に決まってる。4人で楽しくクリスマスを過ごそう」
顔を上げたペッパーはトニーの耳が真っ赤になっているのに気付くと、笑顔で料理を温め始めた。