トニペパ。白昼夢を見たトニーの元に現れたのは…。
「はぁ…」
些細なことだったんだ。
昨晩のパーティーで勧められるまま、つい呑みすぎて…。
何とか帰宅したが、そのまま玄関で眠ってしまい、今朝になってペッパーに叩き起こされた。
『酒は飲みすぎないこと』と日々健康を気遣ってくれる彼女と約束したのはつい先日。
早速、約束を破ってしまった私が悪いのだが、売り言葉に買い言葉。
いつの間にか言い合いとなり、頭に血が上って家を飛び出してしまった。
いつものドーナツ屋の屋根の上に座り込んだトニーは、マスクを脱ぎ横に置くとため息をついた。
しばらくして、
「あ!あいあんまんだ!!」
眼下から聞こえてきたかわいらしい声。
見ると、小さな女の子が自分の方を指さしているのが見えた。
「ねぇ!あいあんまん!おりてきてよ!」
そんな気分ではないのだが…と思いつつも、小さな子供を邪険に扱うことはできず、小脇にマスクを抱えるとトニーは地上へと降りて行った。
トニーの脚が地面に着くと、その小さな少女は満面の笑みを浮かべ駆け寄った。
4歳くらいだろうか。好奇心旺盛なオーシャンブルーの大きな目をし、柔らかな癖っ気の髪は綺麗にポニーテールにしてある。
どこかで見たことがあるような顔だが…。だが、知り合いにこんな小さな子供はいない…。
顔をじっと見つめるトニーに、その少女は手を伸ばした。
「ねぇ、だっこして?」
「なぜだ?」
「いいでしょ?あいあんまんなんだから?」
子供らしいよく分からない理由にトニーは苦笑いすると少女を抱き上げた。トニーに抱き上げられた少女は嬉しそうに歓声をあげた。
「もういいか?」
「うん!」
少女を下に降ろしながら、トニーはふと思った。
子供が生まれたらこんな感じなのか?
一瞬ペッパーが嬉しそうに子供を抱き上げる姿が脳裏をよぎったが、それを打ち消すようにトニーは頭を軽く振った。
ダメだな…。何を考えても、やはりペッパーに結びついてしまう…。帰って謝るか…。
頭を振りながら近くにあったベンチに腰掛けると、先ほどの少女もトニーの隣にちょこんと座った。
「まだ用があるのか?」
「ねぇ、どうしてそんなかおしてるの?」
この子…鋭いな…。
大きな目で自分をじっと見つめる少女。誤魔化すこともできるのだが、なぜか分からないがトニーは少女に向かって話始めていた。
「大事な人と喧嘩をしてしまったんだ…」
「だいじなひと?」
「あぁ。世界で一番愛している女性をな…」
「ふーん。どうしてケンカしたの?」
「私が、彼女との約束を破ってしまったんだ…」
「ダメよ。やくそくはまもらなきゃ。あたしのパパはいつもいってるよ。やくそくはまもれって」
非難めいた顔で自分を見つめる少女。その表情は、どこか懐かしい感じもし、そしていつも見ている気がする…。
「…そうだな。君のパパが正しい。約束を破ったんだから、私から謝らないといけないな」
トニーの顔をじっと見つめていた少女は、ニッコリと微笑みトニーの手を握った。
「だいじょうぶよ。そのおんなのひと、しんぱいしてるわ。はやくおうちにかえってあげて」
「そうか?」
「うん!ホントよ。ちょこれーとどうぞってすれば、きっとなかなおりできるわ」
「そうだな。じゃあ、とっておきのチョコを買って帰るよ。ありがとな」
トニーが微笑みながら少女の頭を撫でると、照れ臭そうに笑った少女はベンチから飛び降り走り出した。
少女が走り去るのを見届けたトニーはベンチから立ちあがった。
ペッパーの好きなチョコレートを買って帰ろう。それから、きちんと謝ろう。
トニーがマスクを被ろうとした時、立ち去ったはずの少女の声が背後から聞こえた。
「ケンカはダメよ、パパ!ママとなかよくしてね」
え?
パパだと?!
…待てよ…。あの表情…。誰かに似てると思っていたが…ペッパーに似てるんだ…。もしかして…あの子…。
いや…そんなことは非現実的だ…。だが、もしかしたら…。
「おい、もしかして君…」
トニーが振り向いた時には、その少女の姿はどこにもなかった。
白昼夢だったにせよ…まさか未来の娘に喧嘩の仲裁をされるとはな…。
それにしても『約束は守れ』か。未来の私からの忠告か?
早く帰って謝ろう。ペッパーに泣かれるのだけは勘弁だ…。
トニーは地面を蹴り、青い空へ向かって飛び立った。