89. Heal

恋人になり、トニーは時折ペッパーに膝枕をさせてくれと頼むようになった。何をするわけではない。ただペッパーの膝に頭を乗せ目を閉じる。それが彼にとってリラックスできるひとときとなったのだ。そしてそれは夫婦になった今でも変わらなかった。

その日もトニーはリビングでソファーに寝転んでいたのだが、もちろん彼の頭はペッパーの膝の上。そしてペッパーは目を閉じるトニーの髪の毛を優しく梳いていた。
そこへやって来たのは、二人の娘であるエスト。
父親は母親に甘えるように眠っている。まるで自分がよく両親にしてもらうように…。
そっと近寄ったエストはトニーが眠っていることを確認するかのように、父親の鼻を摘まんだ。が、父親は鼻を摘ままれても身動き一つしない。
「パパ、ねんねしちゃったの?」
首を傾げたエストは、ペッパーを見上げた。
「そうね」
トニーが狸寝入りしていると知っているペッパーは、おかしそうに笑った。くすくす笑う母親に、幼いエストは両親が何をしているのか理解できなかった。
「どうしておとななのに、ママのおひざのうえでねんねしてるの?」
素朴な疑問を投げかけてきた娘。
「それはね…」
とペッパーがどう答えようかと内心迷っていた時だった。
「パパの癒しの時間を邪魔するな」
と、トニーが目を閉じたまま不機嫌そうに唸った。
「あ!パパ、おっきしたのね!」
顔を輝かせたエストはトニーの頬をペチペチと叩いた。ゆっくりと目を開けたトニーは身体を起こすと首を回した。
「リラックスできた?」
「あぁ。可愛らしい邪魔が入ったがな」
苦笑したトニーはペッパーに軽くキスをすると、伸びをした。
キスをする両親をニヤニヤと見つめていたエストだが、先ほどの父親の言葉を思い出した。
「ねぇ、パパ。いやしいのじかんってなに?」
卑しい時間ではないのだが…と噴き出しそうになったトニーとペッパーだが、娘は真剣な面持ちで自分たちを見つめている。トニーに似たのだろう、分からないことがあるとすぐに尋ねてくるエストは同時に物覚えも良かった。すなわち、下手なことは教えられない訳で…。座り直したトニーは、娘を膝の上に座らせると、ペッパーの肩を抱き寄せた。
「癒しの時間だ。ママの膝を借りて、パパはエネルギーを補充しているんだ。明日からエストと遊んだり、仕事をしたり、敵と戦っていけるようにな。パパの大好きな時間なんだ」
「ふーん。そうなんだ」
納得したように頷いたエストの頬を擽ったトニーは、娘の頭をくしゃっと撫でた。
「でも、充電完了だ。後はエストがパパにチューしてくれたら満タンになるぞ!」
「わかった!チューしてあげる!」
そう言うとエストは小さな口を尖らせ、トニーの頬にキスをした。

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