アベンジャーズ~IM3の合間。(IM3公開前に書いた物です)
「眠れないの?」
隣にいたはずの温もりが薄れ目を覚ますと、ベッドに腰掛け頭を抱えるトニーがいた。
最近不眠気味なトニー。
あのNYでの決戦後、彼は眠れなくなった。夜中に何度も目を覚ましているのに気づいたのは、破壊されたスタークタワーの修理も終盤に入った頃だった。
あの戦いで何があったのか、詳しいことは話してはくれない。昔から心の内に一人で抱え込むタイプだし、人一倍我慢強いから、私に心配をかけないように黙っているのだろうけど。
環境が変われば…と思い、マリブの家に帰ってきたのは一週間前。だけど…。
「あぁ…。大丈夫だ…。」
トニーは無理に笑顔を作ると私の横に潜り込んだ。
「君がいれば…眠れる…」
腕の中に私を閉じ込めた彼は、私の顔中にキスの雨を降らせた。
眠れない彼は、前にも増して私を求めるようになった。私がいると心が休まるのか、私を抱きしめていると少しは眠れるようだ。
「トニー、ずっとそばにいるから大丈夫よ」
小さく震える身体を抱きしめると、私の髪に頭をうずめた彼は小さく頷いた。
「悩みがあるなら言って…。私はあなたを支えるためにいるんだから…。」
広く大きな…でもたくさんの物を背負い傷ついた背中をゆっくり撫でていると、彼は安心したように寝息を立て始めた。
何度も何度も求められ、先に気を失ったのは今夜も私の方だった。
耳元にかかる彼の心地よい寝息を感じられなくなりふと目を覚ますと、彼は私とは反対を向きうなされていた。
「トニー?トニー!」
脂汗をかき苦悶の表情を浮かべるトニー。肩を揺さぶると彼は叫び声をあげて飛び起きた。
「ペッパー?」
大きく息を吐き出した彼は額の汗を拭った。
「うなされていたけど…また悪い夢?」
「…あぁ…」
肩に毛布を掛け、その背中を抱きしめる。
「どんな夢?」
「…とんでもない夢だ…。君が…目の前で…」
「え?」
「世界中の人間が…私を倒そうと…。そしていつも…ペッパー…、君が捕まって…。目の前で倒れる君を…いつも私は…守れないんだ…」
そう言うと、膝を抱えた彼は顔を伏せ黙ってしまった。
いつか言われたことがある。彼の…トニー・スタークの弱点はペッパー・ポッツだと。
彼は私のためなら命だって投げ出すだろう。
それはもしかしたら、彼の果たそうとしている責任や使命を妨げているのかもしれない…。
私がそばにいると…彼の負担に…。
「トニー…私…」
言葉を濁したけれど、私が言おうとしていることに気づいたのだろう。
「ダメだ、ペッパー。離れるなんてやめてくれ。君がいるから私は生きていけるんだ…。君だけは…何としても守る…。だから…ずっとそばにいてくれ…」
彼は私の目を見つめた。
泣き出しそうなその瞳を見つめる私の目から涙が次々零れ落ちた。
「…そばにいてもいいの?」
彼は私の涙をそっと拭うと、力強く抱きしめた。
「当たり前だ。そばにいてくれ。君だけだ。私が心から欲してやまないものは…。それに…」
「何?」
彼の胸元に顔を押し付けられ真っ赤になった私の耳元で彼はイタズラっ子のように囁いた。
「君がいないと私は眠れないんだぞ。それなのに、いなくなるだと?君はそんなに…」
「私も!あなたがいないと…」
ニヤニヤしているトニーを見て、私はしまった…と思った。
だって、こういう時のトニーは……。
「君も私がいないと眠れないのか、ペッパー?じゃあ、よく眠れるように…」
「もう…いじわる…」
彼の首元に抱きつき唇にキスを落とすと、彼は私の腰に手を回し甘いキスをたくさんしてくれた。
「いじわるだけど…愛してるわ、トニー」
「いじわるなだけじゃないだろ?こんなに優しいのに…。まぁいい。ペッパー…愛してる…。世界で一番愛してるよ…」
彼から与えられる心地よいリズムに身を任せ、いつしか私は眠りについた。
でも、トニーは…。
私を抱きしめたまま…朝まで天井を睨みつけていたのを、私は知らなかった…。
そんな日々が何日続いたのだろう。
私以外の人には弱みを見せない彼は、人前では何事もないように振る舞ってはいるけれど、相変わらず夜になると私を求め、悪夢を見ては飛び起きるという眠れない夜を過ごしていた。
心と身体のバランスが崩れ始めたトニーは、ある日会議中に些細なことで激怒してしまった。
「トニー…」
声を荒げたトニーの肩にそっと手を乗せると、我に返った彼は、怒りの矛先を向けられ真っ青な顔をした社員たちに頭を下げた。
「すまない…。悪いが…少し休ませてくれ…」
青い顔したトニーは、足早に部屋を出て行った。
「トニー?」
しばらくして社長室を覗くと、トニーはソファーに頭を抱え座っていた。
「トニー?大丈夫?」
横に腰掛けそっと背中をさすると、
「あぁ…大丈夫だ。すまなかった…」
と、私の手を軽く握った。
大丈夫じゃないわ…。一人で抱え込まないでよ…。このままじゃ…トニーは…。
身体を抱き寄せると、トニーも私の背中に手を回し、ギュッと抱きついてきた。
「ねぇ、トニー…。一度診てもらいましょ?このままじゃ…あなた…」
壊れちゃうわ…
LAで著名な専門家が自宅を訪ねてきたのはその翌日だった。
なかなか話し出そうとしなかったトニーだが、
「ペッパー…ここにいてくれないか?」
と、少し離れた所にいた私を自分の隣に座らせると、あの日の出来事をぽつりぽつりと話し出した。
フィルがロキに殺されたこと、街が破壊され、大勢の人が倒れたこと…。そしてミサイルを宇宙へ運びながら、もう二度と戻って来られないかもしれない…私に会えないかもしれないという恐怖と闘っていたこと…。
異世界からの侵略者は強敵で今までの敵とは違っており、まだ見ぬ強敵に、そして大勢の人々が自分を…そして私を殺そうと襲いかかる悪夢を見るようになり、眠れなくなったこと…。
テレビの画面を通して断片的にしか入ってこなかったあの日の出来事を知った私は、思わず彼の手をギュッと握りしめた。
昨日の会議中の激昂については私が電話で話したので、トニーの話をゆっくりと聞いた先生は、彼の手を握りながら言った。
「PTSDです。あの日の出来事が…」
先生は薬を処方すると、1週間後の同じ時間に来ると約束し、玄関へ向かった。
玄関まで見送りに来た私に、先生は小声で言った。
「ミス・ポッツ。あまりスタークさんに無理をさせないで下さい。そして、今まで以上に支えになってあげて下さい。後は…マスコミの対応などもしっかりしてあげて下さいね…」
リビングに戻ると、トニーはソファーに横になり眠っていた。
まさかトニーが…あのNYでの出来事でそんなに傷ついていたなんて…。あれから何ヶ月も経っているのに…。毎日そばにいたのに…。何でもっと早く気付いてあげられなかったのかしら…。
「トニー…ごめんね…。私がもっと早く気付いてれば…」
丸くなって眠るトニーの頬にキスをおとすと、夕方になり冷え込んできたため彼にブランケットを掛けた。
トニーの好きなものを作ってあげよう…と立ち上がった私の手を、寝ていたはずのトニーが掴んだ。
「ごめんなさい…起こしちゃった?」
「……」
「トニー?」
何も言わないトニーの顔を覗き込むと、トニーは私の腕を引っ張った。
よろけて倒れそうになった私は、トニーの腕の中に閉じ込められた。
「トニー?どうしたの?」
黙ったまま私を抱きしめているトニー。しばらくすると私の髪に顔をうずめながらぽつりとつぶやいた。
「ペッパー…。私は…君なしじゃ生きていけない…。私が望むのは…大切な君を守りたい…それだけだ…」
トニーは私の首筋にキスをし始めたけど、ポタポタと冷たい雨が私に降り注いだ。
「大丈夫…大丈夫よ、トニー…。私はどこにも行かないから…」
大丈夫…。トニー…私がずっとそばにいるわ…。
いつも守ってもらってばかりだけど…私もあなたを守りたい。
あなたを傷つけようとするものから、あなたを守ってみせる…。
私を抱きしめ離そうとしないトニーの背中を、私は優しく撫で続けた。
その夜、トニーは悪夢を見ることなく、久しぶりにぐっすり眠ることができたみたい。
いびきをかきながら眠る彼を見つめながら、私はいつまでも…トニーの隣には私がいるこの幸せが続きますように…と祈った…。