クリントとナターシャがマリブのスターク邸にやって来たのは、5月のある夜。
突然の訪問にも関わらず快く出迎えてくれたスターク夫妻だが、ナターシャはともかくクリントは妙に居心地が悪そうにしている。
どうしたのかとトニーとペッパーが聞こうとする前に、ソファに座ったナターシャが放った一言で事態は一変した。
「結婚したの」
その一言に、スターク邸はおろか、マリブ全体が静まり返った。
一瞬、何の話か分からなかったトニーとペッパーは顔を見合わせたが…。
「け、け、結婚?!」
目を見開いたトニーは、コーヒーのカップをテーブルに置いた。が、投げつけるように置かれたカップは見事にひっくり返り、読みかけのPC雑誌は琥珀色に染まってしまった。
「結婚式…。来月だったでしょ?!」
ポカンと口を開けていたペッパーだったが、やっとの思いで一言発すると、気が動転しているのだろう、隣に座るトニーの膝の上に座った。
「あぁ…それが…」
言葉を濁したクリントは、隣に座るナターシャをチラリと見た。
「そうなの。あ、でも、式もパーティーも予定通りするから。是非家族で出席してね」
一人冷静なナターシャは、コーヒーを啜るとお土産だと持ってきたケーキを頬張った。
しばらくしてペッパーとナターシャは女同士で盛り上がり始めたため、トニーはクリントを連れてバーカウンターに移動した。
祝いの酒だとクリントにとっておきのスコッチを出したトニーは、結局未だに分からない真相について聞いてみることにした。
「おい、バートン。一体どうしてまた急に…。お前、そんなに待ちきれなかったのか?」
グラスを軽く掲げたクリントは、スコッチを飲むとため息をついた。
「スターク。俺がそんなに辛抱のない男に見えるか?」
首を振ったトニーの脳裏に、あの女性の顔が浮かんだ。
「…ロマノフか…」
首を縦に振ったクリントは、ペッパーと楽しそうに話をするナターシャをちらりと見ると頬杖をついた。
二人が電撃結婚に至った経緯はこうだ。
任務先で銃撃戦に巻き込まれた二人。
結婚前に死にたくないと冗談めいたクリントの言葉に
「じゃあ、今しましょ?」
とナターシャは銃弾が飛び交う先を指さした。
偶然なのか、陰謀なのか、その先には教会があるではないか。
ナターシャに半ば強引に引っ張られ、教会に向かったクリントは、その場で夫婦の誓いを立てたとか…。
話を聞き終わったトニーは苦笑い。
「成る程…。お前たちらしいじゃないか」
来月には結婚する予定だったのだし、その場で拒否しなかったのだから、クリントにもその気はあったのだろう。
「確かに俺たちらしいだろ?それに、ナットが喜んでた。俺はそれだけで十分だ」
そう言って笑ったクリントは実に幸せそうだ。
「そうだな。バートン、結婚おめでとう」
グラスを合わせ乾杯したトニーは、友人の背中をポンと叩いた。