67. Male

仕事中、ふと思った。
トニーを男性として意識し始めたのはいつだったんだろうと…。

ハッキリと意識したのはいつだろう。彼のことを『愛している』と自覚した時にだろうか。
正直な話、彼のことは出会った時から『好き』だった。でもそれは上司として、そして年の離れた兄のような存在としての『好き』だった。『好き』という感情が、異性として彼を意識し、やがて愛情に変わっていったのはきっとあの出来事以降だろう。

それは彼の秘書になって数年経った時だった。
ヨーロッパへ出張へ向かった私たちは、とある国の人里離れた小さな街に降り立った。だが、予約していたホテルは手違いでダブルの部屋。しかもその日に限りホテルは満室。同行していたスタッフが部屋を譲ると言ったが、冬空の下に彼らを放り出すなんて私もトニーもできなかった。
「大丈夫だ。どうにかなる」
そう言ったトニーは私を部屋へ引っ張り込んだ。
だが、さすがに一緒に寝るのはマズイと思ったのか、彼はソファで眠ると言い始めた。部屋にあるのは小さなソファが一つ。長旅でクタクタなのだから、そんな小さなところでは休めるはずがない。だから、体の小さな私がソファで眠ると言うと、
「女性をソファに寝かせられると思うか?」
と、彼は断固として譲らない。
しばらくお互い譲り合っていたが、終わりの見えない議論に飽きたのか、
「分かった。端と端で眠ろう」
と彼は提案してきた。

大きなベッドの隅っこで落ちそうになりながらも横になった私たち。
でもなかなか眠れなかった。彼と同じベッドにいるという状況に、私は胸が高まった。
何度も寝返りを打つ私に同じく起きていた彼は
「ペッパー…」
と私の名前を呼んだ。
「な、何です?」
彼のいつもより低い声に、私は口から心臓が飛び出そうになった。
その時、ギシっとベッドが軋んだ。彼の気配が先ほどよりも身近に感じる。

もしかしたら…と期待してしまった。

クルリと身体の向きを変えると、彼は私をじっと見つめていた。
今まで見たことがないような情熱的で色っぽい瞳。
距離が縮まり、彼の息遣いがいつもより間近に感じる…。

その胸に飛び込みたい…。
広く力強い腕の中に飛び込みたい…。

その唇で…繊細な指で…星の数程の女性を愛したように…私も…。

あらぬ考えが浮かび、私は慌てて頭を振った。
ちらりと彼を見上げると、彼はまだ私を見つめていた。そして彼の瞳に燃え上がるものを見つけてしまった私は、キュっと目を閉じた。
「お、おやすみなさい…」
シーツを被り目を閉じた私だけど、結局一晩中眠ることができなかった…。

そう、あの夜、私は彼の『男性』としての魅力を初めて感じた。そして自分の恋心に気付いてしまったのだ…。

帰ったら聞いてみようかしら。あの夜のことを覚えているかって……。
彼は『忘れた』というかもしれないけど、きっと本当は覚えているわよね。だって私たちの記念すべき『初めての夜』だったんだから…。

クスっと笑ったペッパーは、急いで荷物をまとめると、部屋を後にした。

※68.Femaleのペッパーサイドです

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