会社からの帰り道。
後部座席に座り車窓から外の景色を眺めていたトニーは、鼻歌を歌う運転席の男に気づくとチラリと視線を送った。
そういえば、この男とは長い付き合いだ。実は、恋人であるペッパーよりも付き合いが長いのだ。
どのくらい長いかというと…。
「お前と出会ってもう何年だ?」
不意に聞こえてきた声に、ハッピーはバックミラー越しに視線を送った。
「20年以上ですよ、ボス」
相変わらず景色を眺めている彼のボスだが、その口元に笑みが浮かんでいるのにハッピーは気が付いた。
「覚えてますか?最初に顔を会わせた時のこと」
横目でハッピーを見たトニーだが、彼が自分を見つめているのに気付くと、視線を逸らせた。
「…忘れた」
「そうですか。遠い昔ですもんね」
そう言うと、ハッピーは楽しそうに笑いながら鼻歌の続きを歌い始めた。
照れ臭くて忘れたと言ったが、本当は覚えている。
ボクサーのくせにボコボコにされるあいつをバーで見かけた時、放っておけなかった。
興味本位で助けただけなのに、あいつは翌日から私に付きまとうようになった。根負けした私は、あいつをボディーガード兼運転手として雇うことにした。それからあいつは私の忠実な部下になった。誰よりも信頼のおける忠実な部下に…。
だが、それだけではなかった。あいつは私の友人となったのだ。
そうだ。興味本位だけじゃない。あいつを初めて見た時から、この男となら、上手くやっていけそうな気がしたんだ。
だから助けた。あいつは私に救われたと言うが、実際のところ救われたのは私の方だ。
きっとあいつは分かっている。私が『忘れていない』ということを。
あんなに楽しそうに鼻歌なんか歌ってるじゃないか…。
「なぁ、ハッピー。帰ったら、久しぶりに一勝負しないか?」
「いいですね。やりましょう」
リングの上で語り合おうじゃないか。二人だけの思い出話を…。
※原作でも、ハッピーはトニーが助けた縁でボディーガードになりました。