お互いが素直になれたあの夜。
今までの思いをぶつけるかのように、二人は一晩中求めあった。
翌日、昼近くになり、ようやくトニーはベッドから抜け出した。
隣に眠る美しい女性。今まで星の数ほどの女性と朝を迎えたが、今朝ほど心も体も満たされたことはなかった。ようやく自分だけのものにできた愛しい女性。
幸せそうな顔をして眠るペッパー・ポッツの頬に口づけすると、トニーはシャワールームへ向かった。
「ジャーヴィス、どうだ?」
ラボでジャーヴィスに全身をスキャンさせながら、トニーは濡れた頭をタオルで擦った。
『全て順調です。リアクターも順調に作動しております』
モニターに映し出される結果を眺めながら、素早く血液チェックを行ったトニーは、昨日まで身体を蝕んでいた毒素の濃度も薄れてきていることに安堵した。
「トニー」
名前を呼ばれ振り返ると、身体にシーツを巻きつけた赤毛のゴージャスな美女が目の前で微笑んでいた。
「おはよう、ペッパー」
シーツを引っ張り手繰り寄せると、ペッパーはトニーの首の腕を回し、口づけしながら膝の上に座った。
「どうしたの?」
目の前のモニターを心配そうに見つめるペッパー。彼女の愛する男は、昨日まで死に直面していたのだから当然だろう。ペッパーの泣き出しそうな顔に気付いたトニーは、頬にキスを落とすと白く美しい首筋に顔を埋めた。
「もう大丈夫だ。全て順調だ」
「全てって?」
肩に冷たいものが落ちるのを気づいたトニーは、顔をあげると潤んだオーシャンブルーの瞳をじっと見つめた。
「全てさ。身体もそして君とのことも…」
頬に零れ落ちた涙を唇で吸い取ると、愛する女性は頬を赤らめ柔らかな唇と身体を押し付けてきた。
身体に巻きつけてあった白いシーツが足元に音をたてて落ちた頃には、ラボは甘い空気に包まれていた。
翌朝…。
ようやく眠りについた二人…いや、正確にはペッパーは途中で気絶してしまったのだが…そのかわいらしい寝顔を見つめていたトニーがウトウトし始めた頃だ。
『トニー様。フューリー様からお電話です』
ジャーヴィスの声に、トニーは半分眠りながら枕元の携帯に手を伸ばした。
「どうしたの?」
トニーが動いたことで、腕の中のペッパーが目を覚ました。
「あの眼帯野郎からだ…」
普段ならとっくに目覚めている時間なのだが、今朝に限っては歓迎したくない時間帯。
「…スタークだ」
不機嫌オーラ全開で電話に出るトニー。電話の向こうの相手はそれに気付いているのだろうが、事務的な口調で話し始めた。
「スターク。話がある。30分後に…」
「今忙しい。無理だ」
口なら負けないトニーがフューリーの言葉を遮ったが、さすがは長官。
「こっちも忙しいんだ!君が来ないなら家に…」
「分かった」
今、家に押しかけられたら困る…そう思ったトニーは電話を切り、しぶしぶ起き上がった。
「出かけるの?」
起き上がったトニーの腕を離そうとしないペッパー。
「すぐ戻って来るから、このまま待っていてくれ…」
ペッパーの頭にキスを落としたトニーは、大あくびをすると、ベッドの下に転がっていたパーカーとジーンズを履き出かけて行った。
指定された倉庫に到着したトニーは、目の前のファイルに目を通す。
トニーを呼び出した張本人であるニック・フューリーは、遠くから様子を伺うようにトニーを観察していた。不機嫌そうな顔をしたトニー。頭はボサボサ、寝不足で目は充血。よく見ると、首筋にはキスマークがいくつも付いている。
呼び出した間が悪かったか…。まあ、いい。全て順調そうだ。だが、さっさと家に帰した方がよさそうだ…。
ニヤついた顔を隠すように表情を作ったフューリーは、トニーの元へ颯爽と歩いて行った。
一時間後。
帰宅したトニーは、優秀な電脳執事に
「ジャーヴィス、明日まで電話は繋ぐな」
と命じると、寝室へと向かった。
ベッドを覗くとペッパーは寝息をたてて眠っている。
ペッパーを起こさないように服を脱ぎ捨て隣に潜り込んだトニーは、そっと彼女を抱きしめた。すると、求めていた温もりが戻ってきたことに気付いたペッパーが目を覚ました。
「おかえりなさい…」
嬉しそうに微笑むペッパーの唇を奪ったトニー。
「何の話だったの?」
「チームの話だ」
「??」
不思議そうな顔をして自分を見つめるペッパーに脚を絡めると、ペッパーは胸元に顔を摺り寄せてきた。彼女から醸し出される甘い香りを吸い込んだトニーは首筋に何度も吸い付き囁いた。
「ああ。その話はまた後でするよ。それよりも…さっきの続きを…」
「まだするの⁈」
よくよく考えれば、あの夜からずっとベッドの中にいる。
目を白黒させているペッパーにウインクしたトニーは
「考えてみろ。君への想いは十年分以上溜まっているんだ。それを一日や二日で吐き出すのは無理だ。せめて今日いっぱいは付き合え」
と言うと、恥ずかしそうに顔を伏せたペッパーを組み敷いた。
【IM2の屋上シーンから長官に会うシーンまでの補完。トニペパコピー本に書き下ろした作品の再録です】