「ブラックウィドウ…クロゴケグモのメスは、交尾し終わった後のオスを捕まえて食べる場合があるらしい。性欲、つまり子孫を残すという行為と生き残るための食欲は、クロゴケグモにとっては紙一重だ。何が言いたいかというと、お前の愛しいナターシャ・ロマノフことブラックウィドウは、恐ろしいオンナだ。今、お前がへばっているのも分かる。全精力を吸い取られたんだろ?お前がやめろというのに、あのオンナはお前のホークアイを離さなかったんだろ?だからあのオンナはやめておけと言ったんだ。だが、お前も鷹だ。一度狙った獲物は逃がさない鷹だ。お前の爪で雁字搦めにしてやれ。そうすれば簡単さ。あのオンナ、すぐにでもお前の上で裸に……」
目を輝かして頷いたクリントに弄り寄ったトニーだが、背中に殺気を感じ言葉を飲み込んだ。
「誰が裸になるの?」
背後から聞こえた声に恐る恐る振り返ると、恐ろしいほどの笑顔のナターシャとため息を付くペッパーが立っているではないか。
飛び上がったトニーはクリントの後ろにさっと隠れると、思いつく限りの言い訳をし始めた。
「そもそもこいつの相談にのったのが間違いだった。ナターシャと寝るのが最近怖い、朝になるとグッタリだ、どうにかしてあいつを失神させたい。いい知恵を伝授してくれと土下座するクリントを無下に出来るはずがないだろ?こいつは一応友達だ」
だが、ぺラペラと喋るトニーに怯むナターシャ・ロマノフではない。
「で、私が裸でこいつに何をすればいいのかしら?」
ニッコリと微笑んだナターシャに、思わず出しそうになった悲鳴を飲み込んだトニーは慌てて立ち上がるとペッパーの元へ駆け寄った。
「ぺ、ペッパー!急用を思い出した!ほら!今日は君のヨガの日だろ?私も参加しようと思っていたのを忘れてた!」
ペッパーの手を握りしめたトニーは、挨拶もそこそこにドアへ向かって歩き出した。
「トニー、ヨガは明日よ!それにレディースクラスなんだから、あなたは参加できないわよ!」
そこは問題ではないだろう…と、遠ざかる声に失笑していたクリントだったが、黙ったままのナターシャに作り笑いを浮かべると、殺される前に謝ろうと頭を下げたのだった。