55. Supe(rvisor)

ペッパーの妹の一人、ミアはファッション関係の仕事についている。実力で某有名ファッション誌の編集部へ移動になったミアは、つい最近へNYへ越してきた。偶然か、勤務先は姉夫婦がNYの居としているスターク・タワーの近く。
意気揚々と働き始めたミアだったが、実は彼女がこんなにも張り切っているのにはもう一つ理由があった。それは、数年前から付き合い婚約している男性が一足先に同じ編集部へ移動になっており、しかも自分の上司となっていたのだ。
だが、仕事とプライベートをきっちり分けている彼は、ミアにとても厳しかった。
家に帰れば優しく、そしてミアに思いっきり甘えてくる彼。
『君は優秀だ。期待もしている。だから厳しくするんだ』
そう言われても、同じようにミスを犯した他の女性社員には優しげに声を掛けている彼を見ると、本当にそうなのかとミアはつい勘ぐってしまうのだ。

今日も些細なミスを犯したミアは彼に雷を落とされた。
「あーあ…。何だかなぁ…」
帰り道、とぼとぼと歩いていたミアだが、ふと顔を上げた彼女の目に飛び込んできたのがスターク・タワー。偶然にも昨日から姉夫婦はNYに滞在中。
「お姉ちゃんたちに相談してみよう!」
思い立ったら即行動。ミアは携帯を取り出すと姉の番号を押した。

突然にも関わらず、姉は温かく迎え入れてくれた。
大きくなった姉のお腹に触れると、まだ生まれぬ姪っ子も元気よく挨拶を返してくれた。だが、義理の兄は姿を見せない。
「あれ?お義兄さんは?」
キョロキョロとする妹に、ペッパーは座るように促した。
「トニーはヨーロッパへ向かったわ。今朝呼ばれたの…」
不安げな姉の様子から義兄がアイアンマンの任務で呼ばれたと悟ったミア。あと数か月で出産のペッパーを気遣ってか、最近はなるべくトニーを遠方の任務に向かわせないようしてくれているのだが、呼ばれたとなるとそれなりに重大でかつ危険が伴う任務なのかもしれない。
「心配ね…」
「えぇ。でもみんなが一緒だし…。それに、今回は危険はないと言っていたし…」
一瞬不安げな瞳を見せたペッパーだが、小さく息を吐くと妹に微笑みかけた。
「相談があるんでしょ?」
「実は…」
そう切り出したミアは、恋人が自分の上司になったこと、職場では関係は秘密であるため彼はとても厳しいこと、それが時としてとても嫌になり、今後どういう風に接すればいいか分からなくなったこと、『上司が恋人』だったペッパーにアドバイスをもらおうと思ったことなどをポツリポツリと話した。
妹の話を聞いていたペッパーだが、
「悪いけど、私たちは参考にならないわよ」
と苦笑した。
「どうして?」
長年にわたりトニーの秘書だった姉なのだから、いいアドバイスを貰えると期待していたミアは首を傾げた。少々不満げな妹にペッパーは困ったように
「そうね、私は彼の秘書だったわ。それも何年もね。でもね、彼は昔からあんな感じだったから…。上司なんだけど、兄や友達という感じだったの。それに怒ってたのはいつも私。周りから見たら、私は『社長を尻に引いてる口うるさい秘書』よ。それでも彼は私のことをずっと見てくれていた。いつもお茶らけていて頼りになるのかならないのか分からないような感じだったけど、いざという時は必ず守ってくれたわ。それは今でもずっと変わらないことかもしれないけど…」
くすっと笑ったペッパーは、お腹を撫でると妹の手を取った。
「だからね、ミア。普通にすればいいの。自然の流れに任せて。あなたの彼の言う通りよ。彼はあなたにもっと成長して欲しいのよ。あなたに才能があるから。だから厳しくするんじゃないかしら。あなたなら、負けずに付いてきてくれるって知っているから」
姉の言うとおりだった。自分でも分かっていたことだが、姉に改めて言われると、心がすっと晴れた気がした。
「そうね、お姉ちゃんの言うとおり。さすがお姉ちゃんよね」
来た時よりも晴れやかな顔をしている妹にペッパーが何か言おうとした時だった。
『ペッパー様、トニー様が御戻りになられました』
トニーの帰宅を告げるJ.A.R.V.I.S.の声に、そろそろ潮時だとミアは立ち上がった。
「じゃあ、お姉ちゃん、帰るわね」
せっかくだからみんなで食事でも…と引き留める姉にミアは耳打ちした。
「お義兄さん、お姉ちゃんと二人っきりで過ごしたいはずよ」
それもそうねと苦笑した姉に別れを告げたミアは、閉まりかけのドアの隙間から義兄が姉を抱きかかえキスをしているのが見えた。
「私もお義兄さんとお姉ちゃんみたいな夫婦になれるかなぁ…」
指に光るエンゲージリングを撫でたミアは、姉の言葉を思い出すと恋人に電話をしようと携帯を取り出したのだった。

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