「どうすればいいか…」
翌日、ラボで義足の調整をしていたトニーは、ため息を付いた。改良を重ねた義足のおかげで、今では普通の生活はおくれるようになってはいる。だが、走ったりすることはできないのだ。
それでもトニーは息子の願い…すなわちトニーと一緒に走るという夢を叶えてやりたかった。
いろいろ思案していたトニーの耳にジャーヴィスの声が聞こえた。
『トニー様、ハーレイ様がいらっしゃいました』
あれからLAの大学に進学したハーレイは、頻繁に顔を覗かせていた。エドワードもマリアも本当の兄のようにハーレイを慕っており、すっかり懐いていたのだ。
「トニー、元気そう…じゃないね?何かあったの?」
浮かない顔をしているトニーから事情を聞いたハーレイは、しばらく頭を捻らせていたが、名案が浮かんだと手を叩いた。
「そうだ!アイアンマンを送り込めば?そうすれば…」
だが、トニーはため息を付くと頭を振った。
「おい、そんなことは誰でも思いつく。あいつは私に来て欲しいんだ。中身のない空っぽのアーマーではなくて」
今のアイアンマンはトニーが遠隔操作で動かしていることを知っているエドワードに、そんな手は通用しない。
「足が治ればなぁ…。そんなことは夢物語だが…」
ため息をついたトニーは遠い目をしたが、ハーレイはトニーの言葉にある事を思い出した。
「そうだよ!トニー!あれがあるじゃないか!!」
勢い良く立ち上がったハーレイだが、その拍子に椅子がひっくり返ったことにすら気づいていない。
「エクストリミスだよ!ペッパーさんを治した時に完成したって、この前言ってたじゃないか!」
『エクストリミス』…奇しくも7年前、自分とハーレイを引き合わせた事件の発端になったものだが、あれから時間が経ちすぎていた。確かに、あの時マヤ・ハンセンが命と引き換えに自分に託した資料のおかげでペッパーは治療出来たし、完成したエクストリミスを活用し、自分もリアクターを除去することが出来たのだ。だが、胸の傷が治癒すると同時に、トニーも体内のエクストリミスを除去し、資料もすべて破棄していたのだ。
トニーとて、脚を失ったと分かった時、エクストリミスのことが一瞬頭を過ぎり、全てを破棄したことを後悔したのだ。あれは本来この世にあってはならないものだ、だから破棄したことは後悔していないと思っていたが、今再びハーレイに言われると、やはり後悔が襲ってきてトニーは唇を噛みしめた。
「完成したさ。私は天才だからな。だが、7年も前の話だ。すぐに破棄して今は資料も何も残っていない。最も資料がなくてもざっとは覚えている。だが、時間がない。何もないところからあと一週間で完成させるのは不可能だ。例えできたとしても、失敗するのは目に見えている」
何も残っていないと知り、ハーレイは肩を落とした。名案だと思ったし、トニーの願いを叶えるにはそれしか方法がないとさえ思ったが…。重苦しい空気がラボを包み込んだその時だった。それまで何も言わず黙っていたジャーヴィスが、静かに言葉を発したのだ。
『トニー様、データーならございます』
一瞬耳を疑った。自分は確かに『全て破棄しろ』と命じたはずなのに…。目をくるりと回したトニーは、宙を睨みつけた。
「おい、J。破棄しろと言ったはずだぞ?」
主人の言葉にジャーヴィスはすまなそうに、だが心なしか誇らしげに言ったのだ。
『7年前、トニー様はそうおっしゃいました。ですが、このような事態を想定して、私の独断で全て保存しておりました。申し訳ございません』
全て残っていると知ったトニーは顔を輝かせた。
「ジャーヴィス!でかした!さすが私の作ったA.I.だ!」
これで息子の夢を、そして自分自身の夢も叶えることができる。
100%成功するとは限らない。失敗、すなわち命を落とすことになるかもしれない。それでもトニーは挑戦したかった。可能性に懸けてみたかった。少しでも希望があるのなら…。
「トニー、やるの?」
上ずんだ声のハーレイに振り返ったトニーはニヤっと笑った。
「あぁ、もちろんだ。お前が言ったんだぞ?メカニックなら作れって。だから手伝え」
→⑧へ…