LAの郊外にあるスターク・インダストリーズ。
世界屈指の企業の一員になりたいと願う人々は後を絶たず、今日も未来の開発者の卵たちが見学に訪れていた。
たくさんの学生で賑わうエントランスホールで、ある一人の学生は感慨深げに社名のロゴを見上げていた。
7年前、僕、ハーレイ・キーナーは凄い体験をした。
クリスマス前のとある夜、物音がしたのに気付いた僕が納屋に向かうと、そこに彼がいた。僕の憧れであり、ヒーローでもあるアイアンマンことトニー・スタークが。
テロリストの標的にされた彼は全てを失っていた。だけど彼はやっぱりヒーローだった。何もないところから立ち上がり、テロリストをやっつけた。そして細やかながらもその手伝いを僕はすることができた。
全てを片付けた彼とはそれ以来会っていない。だけど彼は僕に素晴らしい贈り物をたくさんくれた。
あれから彼は僕の目標になった。いつか同じ舞台で働きたいと。そして再会したら、あの時言えなかったお礼を言いたいと…。
だけどその機会はなかなかなく、7年が経過してしまった。
7年間、彼はずっと戦っていた。アイアンマンはチームのみんなと人々を救い称賛されていた。だけど一つだけ気がかりなことがある。半年前から、アイアンマンの姿は見るのに、トニー・スタークの姿は見かけなくなったこと…。
そんな時、学校からスターク・インダストリーズへの見学の話があった。
もしかしたらトニーに会える絶好のチャンスかもしれない…。
そう思った僕は、この見学会に参加することにしたのだ。
スターク・インダストリーズについて説明をしていた社員が言葉を切った時だった。
「あの…トニー・スタークさんにお会いしたいんですけど…」
一人の学生の質問に、その社員はまたこの質問だわ…と、作り笑いを浮かべた。
「会長にですか?」
見学の学生という身分で会えるはずはない…、いや、理由を話すことはできないが、今はとある事情で社員ですら会うことができないのだから…。無理だと伝えようとしたその時、背後から一人の女性の声が聞こえてきた。
「あら?今日はどこの学生さん?」
振り返ると、一人の美しい女性がいた。
ヴァージニア・”ペッパー”・スターク。スターク・インダストリーズのCEOであり、トニー・スタークの妻である女性。テレビや雑誌でしか見たことのない人物を前に、学生たちは感嘆の声を上げた。
相手がペッパーだと気付いた社員は頭を下げた。
「社長。今日はテネシー州の学生が見学に来ているんです」
「テネシー州?」
「えぇ、ローズヒルです。」
『ローズヒル』と聞いたペッパーは、目を丸くした。そして何かを探すように、学生たちを見つめ始めたが、ハーレイの胸元の『キーナー』と書かれた名札を見ると、目を輝かせた。
「あなた…ハーレイくん…よね?」
ハーレイに近寄ったペッパーは喜びを隠し切れないのか頬を緩めた。これに驚いたのは周囲の社員たち。社長であるペッパーが見学者に声を掛けることはないからだ。そして学生たちも、スターク・インダストリーズのCEOが、昔からいじめられっ子で目立たないハーレイのことをどうして知っているのかと戸惑った。ざわつく周囲を他所に立ち上がったハーレイは
「は、はい!」
と返事をすると直立不動になった。
「やっぱり!私はペッパーよ。あなたのこと、彼から聞いてるの」
何か思い出したのか、笑みを浮かべたペッパーはとても美しく、ハーレイは真っ赤になり顔を伏せた。
「ペッパーさんは…その有名ですから知っています。それに、トニーからも聞いていました」
トニーの名前を聞いたペッパーは一瞬悲しそうな顔をしたが、慌てて笑み作るとハーレイの手を取った。
「彼に会ってくれる?」
そう言われ、ペッパーと共に向かった先は病院だった。
「トニー、病院にいるんですか?」
車から降りたハーレイに尋ねられたペッパーは無言で頷くと、入口へと向かった。
最上階の特別室がトニーの病室だった。
あれから黙ったままのペッパーだったが、大きく深呼吸すると数回ノックしドアを開けた。
「トニー。今日はね、お客さんがいるの。懐かしい人よ。誰だと思う?」
ベッドに横たわったトニーは、ペッパーを見ると嬉しそうに笑った。そして彼女の後ろにいるハーレイに気付くと、目を丸くした。
「おい…もしかして…ハーレイか?!」
ベッドから起き上がることができないのか、トニーはハーレイに向かって手を伸ばした。
「トニー、久しぶりだね」
その手を握ったハーレイだが、彼は動揺を隠し切れなかった。
7年ぶりに会うトニーは、痩せていた。力強かった手は細くなり、あの頃よりも顔色が悪く、そして何より覇気がないのだ。
どこかぼんやりとしたトニーにハーレイはどうしたのかと聞いていいものか迷った。
重苦しい雰囲気の中、7年ぶりの再会を邪魔しては悪いと思ったのか、
「ジュースでも買ってくるわね」
と言うと、ペッパーは部屋を出て行った。
二人きりになるのが嫌なのか、何か聞かれるのが嫌なのか、トニーはドアに向かって顎をしゃくった。
「おい、荷物持ちについて行け」
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