『一瞬、油断したんだ』
そう言えばいいのだろうか…。
崩壊した建物の下敷きとなったトニーは、闇に包まれた空間で一人だった。
爆風に吹き飛ばされ、気が付いたらこの様だった。抜け出そうにも身体中が痛み、指一つ動かせない。
どれくらい経ったのだろう。見当すらつかないが、次第にぼんやりし始めたトニーの脳裏には、ペッパーと子供たちの顔が浮かんだ。身体の上に積み重なった瓦礫の重みはどんどん増してくる。痛みを感じたのは最初だけだった。身体中に走っていた激痛も今や感じることはない。そして両脚はとうに感覚がなく、次第に息をすることすら困難になってきた。
壊れかかったHUBの中では、自分を励ますJ.A.R.V.I.S.の声が響き渡っている。
だが、トニーは何も答えることができなかった。いや、すでにJ.A.R.V.I.S.の声ですら、トニーの耳には入っていなかった。
「いたぞ!」
大きな瓦礫を動かしたスティーブは、隙間から赤と金色の物が見えているのに気付いた。
トニーの存在を確認したスティーブ、ソーにハルクは、次々と瓦礫をどかしていった。
「トニー!頑張れ!もう少しだ!」
だが、トニーからは返答はない。
やがて上半身が見えてきた。アーマーは壊れ、原型すら留めていない部分もある。J.A.R.V.I.S.がアーマーを脱がせると、血塗れの身体が現れた。破壊されたアーマーの破片は体中に刺さっている。トニーは意識を失っており、呼びかけにも答えずピクリとも動かない。首筋に指を当てたナターシャが頷いた。まだ生きていると…。
クリントが連れて来た救急隊が処置を始めた。
「キャプテン・ロジャース…。早く搬送しなければ…」
言葉を切った救急隊に、スティーブ達は足元の瓦礫を動かそうとしたが動かない。見ると、瓦礫から突き出た鉄骨はトニーの潰れた両足を貫通し、地面の奥深くに突き刺さっているではないか。ハルクの力ですら動かない瓦礫。下手に動かせば、全員が瓦礫の下敷きになる危険性もあるため、ゆっくりと取り除いていくしかない。
トニーに呼吸器やモニターを付けた医師が、瓦礫の隙間から下半身の状態をチェックし始めた。
下半身からも大量に出血し続けており、一刻の猶予もない、そう医師が告げた途端、モニターがけたたましい警告音を発し始めた。血圧と脈拍が低下し始めたトニーに、医師は悲痛な面持ちで告げた。
「残念ですが…彼の命を救うには…」
最後まで言われなくても分かっていた。
トニーの命を救うには、それしか選択肢がない…。
だが、その場にいる誰もが最後の決断を下すことができなかった。
「分かった…。頼む…」
悔しそうな、そして辛そうなスティーブの決断が、一瞬の静寂の訪れた現場に響き渡った。
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