Feel the Love

日付が変わる頃、ベッドの上でペッパーとまどろんでいた時だった。
ジャーヴィスがけたたましい警報音を鳴らし、私たち二人は慌てて飛び起きた。
「ジャーヴィス!何事だ!」
「トニー様、何者かがシステムに侵入しました。未確認の飛行物体が複数…」
ジャーヴィスの音声が突然途切れたかと思うと、家中全てのシステムが停止し、辺りは闇と静寂に包まれた。
「おい!ジャーヴィス!おい!」
私のシステムに侵入だと⁈
この私が作った鉄壁のシステムにか⁈
「と、トニー…どうするの…」
私のシャツを掴み震える彼女を抱きしめ唇にキスを一つ。
「ペッパー、落ち着け。ここは危険だ。ひとまず逃げよう。」

彼女の手を握り外に向かって走り始めた時だ。ドーン!という衝撃音。彼女に覆いかぶさるように床に伏せると、天井が崩れてきた。また家を直さないといけないじゃないか…心の中で舌打ちすると、彼女を立たせ外に向かった。

外に出るとあたりは真っ暗だった。迫り来る静寂と闇。しまった。外に出たのは間違いだったか…いや、家の中にいても危険なのは変わりない。一刻も早く彼女だけでも安全な場所に逃がさなくては…。
震える彼女を抱きしめ、ジャーヴィス含め全システムがハッキングされ停止し今、アーマーの装着すら出来ない自分の無力さに愕然とした。

「トニー…」
不安そうな彼女の声に我に返った私は、自分の不安を悟られないように平常心を装った。
「大丈夫だ、ペッパー。いいか、私の言うことを聞けよ。何があっても絶対に足を止めるな。振り返るなよ。いいな。」
彼女を抱きしめると私の腕の中にすっぽりと収まった彼女は小さくうなずいた。
いいか…私に何かあっても君だけは逃げてくれよ…。唇にキスを一つ落とすと、彼女の手を取り、走り出した。

数メートル進んだところで、背後に何かが迫ってくる気配を感じた。
「ペッパー!急げ!」
私より少し先を走る彼女に声をかけたところで、足に焼けるような痛みを感じ、思わず走るスピードを緩めてしまった。
撃たれた!彼女は大丈夫か?!
そう思った矢先、腕や肩に痛みを感じその場にうずくまってしまった。
銃声に気付いた彼女が振り返った。
「ペッパー!大丈夫だから、早く逃げ・・」
その言葉を言い終わらないうちに、強い衝撃を受け、身体が宙に浮いたかと思うと、地面に叩きつけられた。
全身を叩きつけられた衝撃でクラクラする頭を振り起き上がろうとすると、襟首を何かに掴まれ、地面に叩きつけられた。闇と静寂の中、何度も与えられる苦痛。
仰向けになり、この状況から逃げ出す方法を朦朧とする頭で必死に考えていると、目の前に何かが迫ってきた。
しまった!と思った時には時すでに遅し。胸の上にとてつもなく重い何か…金属のようなものだが…が、のしかかってきたのだ。
必死に逃げようとすればする程、その重みはどんどんと増してくる。

「!!くっ…」
い、息ができない!!!

胸の上にある物を持ちあげようと手をかけたその時、重みが一層増し、鈍い音がした。
「!!!」
どんどん重みを増すその物体は、私が抵抗しようがしまいが関係なく、胸を圧迫していく。
さらに骨が折れる音とともに、胸元に焼けるような痛みを感じ、息が吸えなくなった。
必死で呼吸しようとすると、何かがせり上がってくる感触がした。と同時に喉元に広がる鉄の味。飲み込むことができず、私は大量に吐血した。

抵抗する体力も気力も失われ、なすがままの私を踏みつけていた物が突然私の上から離れた。
もういいだろ…抵抗する気はない…。

そう思ったのもつかの間、今度はアークリアクターを鷲掴みにし、奪い取ろうとし始めたのだ。

それだけは…やめてくれ…。

無理やり身体から離されようとしている心臓部。
手足をバタつかせ抵抗すると、そいつは顔を殴り始めた。何度も殴られ意識が朦朧とした私は、気がつくと首を掴まれ身体が宙に浮いていた。
抵抗しない私のリアクターを再び掴み引き離そうとしたその時、意識が朦朧とし視界も霞んできた私の目に、見覚えのある星条旗カラーの物体が飛んできた。

「おい!スタークを離せ!」

この声は…キャプテンか?
おい…遅いぞ…危うくあの世に行くところだった…。だが、助かった…。

そう思ったのも束の間、私を掴んでいた腕が大きく振られたと思うと、私の身体は宙を飛び、そのまま落下していった。

「スターク!!」
スティーブの叫ぶ声が聞こえた。そっと目を開くと目の前には海面が迫っていた。

そうだ…。ペッパーは?彼女は無事なんだろうか…。唯一の気がかりは…ペッパーの安否だが…きっとみんなが…。

その瞬間、海面に叩きつけられた私は、そのまま暗い底なしの水の中へと沈んでいった…。

スタークを投げ落とした敵を倒し、慌てて岸壁へと駆け寄ったが、暗く深い海がちょうどスタークを飲み込んだところだった。急いで助けに行かなければ…。海へと飛びこもうとしたその時、
「トニーはどこ?」
後ろから彼が愛してやまない女性の声。
「ミス・ポッツ…」
悲壮な顔をして海を覗き込んでいた私の表情で全てを悟った彼女は、フラフラと私の方へ近づいてきた。
「う、嘘でしょ…。ねぇ、スティーブ…嘘よね…。トニーは無事よね?」
私にしがみつき必死で聞く彼女に、私は何と言えばいいのか迷っていた。
ミス・ポッツは返事のない私から離れ、岸壁に駆け寄ると海に向かって泣き叫んだ。
「トニー!!ねぇ、トニー!早く戻ってきて!お願いだから…私を一人にしないで…」
ポロポロと涙をこぼし泣き崩れた彼女のそばに歩み寄ろうとしたその時、海中から何か飛び出し、岸壁を登ってくる大きな音が聞こえてきた。
「ミス・ポッツ!危ないから離れて!」
その場に座り込んだ彼女を無理やり引っ張り、安全な場所へと移動させると同時に大きな塊が先ほどまで私たちがいた場所に降り立った。緑色の大きな塊…つまりはハルクなのだが、脇に抱えていたものをそっと下ろした。
ぐったりとしたスターク。リアクターの明かりだけが光る中、顔面蒼白で血の気はなく、胸元が動いていないところを見ると…。
「トニー!!」
私の腕を振りほどきミス・ポッツがスタークに駆け寄った。
動かないスタークに縋り付き名前を呼び続ける彼女を引き離すと、口元に耳をつける。海水を飲んだのだろう…やはり息をしていない。リアクターのおかげで命は繋いでいるが、早急に手を打たないと…。
スタークの胸元を圧迫し、呼びかける。
「おい!スターク!戻って来い!」
ミス・ポッツはスタークの手を握りしめている。口から息を吹き込むも反応がない。何度も蘇生を試みるが…遅かったのか…。

どれくらいそうしていただろう…。
「スティーブ…もういいわ…」
ミス・ポッツが私の手を掴んだ。
「だが!もう少し…」
涙で目を真っ赤にした彼女はスタークの手を握りしめ、微動だにしない頬を優しく撫でた。
「トニー…ごめんなさい…一人にさせて…ゴメンね…」
そう言うと、彼女はスタークに優しく…そして別れを惜しむような長く切ないキスをした。
その光景にいたたまれなくなった私は
「おい!トニー!聞いているか?!彼女を守れるのは君しかいないんだぞ!」
思わず彼の胸元に力一杯両手を叩きつけた。

すると…

ゴホッ!

スタークの口から大量の水が吐き出された。
「トニー!?」
「スターク!」
ゴホゴホと咳き込み始めたスタークのまぶたが微かに動いた。
「トニー?聞こえる?もう大丈夫よ…」
スタークの手の指先が彼女の指に触れた。
「ぺっぱー…」
掠れた声とともに息が漏れる音がし、スタークは息が吸えないのか目を見開き苦しそうに喘ぎ始めた。
「トニー!大丈夫よ!…スティーブ!早く病院へ!」
ちょうどその時、ナターシャが要請したヘリコプターが到着。私たちはスタークを急いで病院へと運んだ。

+++++

2週間後…
ナターシャ、クリントとスタークが入院する病院へと向かった。
一時はショック状態にまで陥り、生死の境をさまよっていたスタークだが、ミス・ポッツの願いが届いたのだろう、無事生還を果たし、今日からやっと面会することができるようになったのだ。

「お見舞い、持って行った方がいいわよね」
「でも、あいつは何でも持っているからいらないんじゃないのか?」
気がつけばナターシャとクリントは手をつなぎ私の後ろで楽しそうに話をしていた。
「お見舞いと言えば…花束とカードだろ?私はちゃんと用意しているぞ。カードにはシールドの皆のメッセージ入りだ!君たちは用意してないのか?何だったら仲間に…」
私が勝ち誇ったように言うと、クリントはナターシャと顔を見合わせニヤリと笑った。
「大丈夫だ、キャプテン。ちゃんと用意しているから」
せっかくカードに2人のメッセージを書いてもらおうと思ったのだが…いや、この2人はろくなことを書きそうにないな…。と考えながら歩いていると、何時の間にか病院に到着していた。

スタークの部屋は、最上階の特別室だった。
「さすがトニー・スタークだな…」
病室へと続く廊下から違う雰囲気に驚きながら、スタークの部屋の前にたどり着いた。
「この部屋よ…」
見ると、ドアが少しだが開いており、小声だが何やらクスクスという笑い声が聞こえた。
「誰かいるのか?」
隙間から覗くナターシャとクリントに声をかけると…
「す、スティーブ!出直して来ましょ?」
と、顔を青くしたナターシャが振り返って言った。
「いや、せっかく来たのだから…スタークが起きているうちに見舞いを…」
と、隙間から覗き込もうとするとクリントまでもが
「…キャプテン…君は見ない方がいい…」
と言うではないか。仲間外れにされた気分になり、
「私も見せてくれ!」
と、押し問答をしていると、運悪くドアに身体がぶつかり、私たち3人はなだれ込むように部屋へと入ってしまった。

ベッドに横になったスタークはミス・ポッツを抱き寄せ…2人はキスの真っ最中で…そしてスタークの片手は…ミス・ポッツのスカートの中に…。

スタークに付けられたモニター音だけが聞こえる中、お互いがものも言わずに見つめ合っていたが、我に返ったミス・ポッツが顔を真っ赤にして立ち上がり、
「い、いらっしゃい…」
とベッドから飛びのいた。

「具合は…どうだ?」
「お、お邪魔だよな…」
「す、すぐに帰るから…」
「…」
鼻には酸素のチューブ、腕には点滴を付け、顔色は悪いが…明らかに不機嫌そうなスタークは、こういう状況を邪魔された時のいつものトニー・スタークだった。

「トニー…せっかくみんな来てくれたんだから…」
その場をとりなすようにミス・ポッツが声をかけると、
「わざわざありがとう。この通り、私はいたって元気だ。いや、死にかけたんだ。まだあちこち痛むから元気なわけではないな。だが、元気すぎてやりたいことがたくさんあるんだ。せっかく来てくれてありがたいんだが…つまり忙しいんだよ」
取って付けたような笑顔を浮かべてはいるが、いいところを邪魔するな、早く帰れと言わんばかりのオーラを醸し出すスターク。
その雰囲気にゴクリと唾を飲み込んだ私たち3人は
「わ、私たちも長官に呼ばれて急いでるんだ!」
「す、スターク!今度は連絡してくるわ!」
と、慌てて部屋を飛び出したのだった。

部屋の外に飛び出したはいいが、持ってきた花束を渡しそびれてしまった。
どうしようかと思案していると…

「…トニー…ダメよ…いやぁ…んん…」
と、ミス・ポッツの艶かしい声が…。

「今戻ると…殺されるぞ…」
「元気なことはよく分かったし…早く帰ろう…」
「今度はバナーに来てもらいましょ…」

戸口に花束をそっと置き、今度は事前に連絡を取ってから来よう…と心に決めた3人だった…。

トニペパ。いいところを邪魔するのは、いつもキャップとクリナタ。

2 人がいいねと言っています。

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