真夜中、マリブのスターク邸の一室。そこには夕方から一心不乱に抱き合う男女の姿があった。
ペッパーが声をあげ、身体をのけぞらすと同時にトニーもペッパーの中に全て吐き出し、2人はベッドに倒れこんだ。
トニーが身体をずらし、ペッパーの中から抜け出そうとすると、ペッパーはトニーの腰を掴み
「だめ…このままあなたを感じていたいの…」
と、トニーの腰に足を絡ませ抱きついた。
「まったく…君も好きだな…。また抱きたくなるではないか…」
苦笑しながらもペッパーを抱きしめる力を強めると、
「その時はまた抱いてね…。トニー…今日も最高だったわ…」
ペッパーは嬉しそうにトニーの胸元に顔を摺り寄せた。
どれくらいそうしていただろう。
気づけば2人はそのまま眠ってしまっていたようだ。
「トニー様…ご来客です」
ジャーヴィスの声に目を覚ましたトニーは左手にはめたままだった時計を見た。
朝の4時半。
「ジャーヴィス…一体誰だ…こんな朝早くから…」
いまだ覚醒しきらない頭を、腕の中でぐっすり眠っているペッパーの髪の中に埋めると、
「トニー様…それが…警察の方です。トニー様に至急お会いしたいと仰ってます…」
困惑した声でジャーヴィスが答えた。
「警察?」
警察が何でこんな時間に?しかもなぜ自宅に来るんだ?だが、ないがしろにするわけにはいかないな…。
大きなあくびをしたトニーは、ペッパーを起こさないようにベッドから抜け出すと、下に散らばっていたシャツとズボンをはき、身だしなみを整えて玄関へ向かった。
玄関先には2人の警官。
「警察はこんな朝早くから働いているのか?ご苦労様だな」
いつものように皮肉混じりで言うトニーの言葉を無視し、警官がトニーに詰め寄った。
「スタークさん、お聞きしたいことがいくつかある。署までご同行願おうか?」
「は?なぜ私が署に行かねばならないのだ?」
何のことか理解できず、口をポカンと開けたトニーに、警官は態度を急変させた。
「つべこべ言わずに一緒に来い!嫌なら無理やり連行してもいいんだぞ?」
「トニー?どうしたの?」
隣にトニーがいないことに気づいたペッパーが、玄関先での騒ぎに気づきやって来た。
「何でもない、ペッパー。とにかく、私には何のことか分からない。話があるのなら会社で聞こう。9時に社の方へ来てくれないか?」
理由も話さずただ来いというばかりの警官に、トニーは若干苛立ちながら追い返そうとした。すると
「おい!下手に出てれば調子にのりやがって!お前、昨日の夕方から深夜までどこにいた?お前に…アイアンマンに殺されかけたという奴が何人もいるんだよ!」
「アイアンマンに?!」
顔を見合わせ驚くトニーとペッパー。昨日の夕方からずっと一緒にいたんだから、アイアンマンが外にいたはずがない。
「その時間は、ずっと家にいた。彼女と一緒に…」
ありのままの事実を言ったトニーだが
「女とか?どうせお前にぞっこんの女だろ?そんなもの、口裏合わせればどうにでもなる。とにかく署まで来てもらおう。話はゆっくり聞いてやるからな」
トニーの手を引っ張り無理やり連行しようとする警官。
「おい!本当だ!私は一歩も外に出ていないぞ!」
抵抗するトニーだが、警官は聞く耳をもたない。するとペッパーが
「本当よ!トニーは私と一緒だったわ!」
と警官の手にすがり付いた。
「おい!離せ!この女!」
警官がペッパーの腕を振り離すと、ペッパーはよろめいて転んでしまった。
「ペッパー!」
その様子を見たトニーは、警官の腕を振りほどき慌てて彼女の元へ駆け寄った。
「君たち!彼女は関係ないだろ!」
ペッパーに危害を加えられ怒りに震えたトニーは、彼らに掴みかかろうとしたが、警官の一人がトニーの腹を思いっきり蹴った。
腹を押さえ咳き込むトニーを取り押さえると、警官はトニーの手に手錠をかけた。
「トニー・スターク。署で徹底的に絞ってやるからな!」
+++
取調室で尋問されるトニー。
だが、昨日の夕方から今朝までずっと、ペッパーを抱いていたのだから、家から一歩も外に出ていないのは事実だ。
下手に喋ると、根も葉もない証拠をでっち上げられて、罪を押し付けられるのは目に見えている。きっとペッパーがスターク社お抱えの優秀な弁護士を連れてきてくれる。それまでは何も喋らないぞ…。
何を聞かれても「弁護士が来るまでは喋らない。私は無実だ」と気然とした態度で答えるトニー。
すでに取調を始めてから十時間はたっており、その間飲食も一切することなくひたすら身に覚えのない取調を受けているため、さすがのトニーも何度も誘惑に負けそうになった。しかし、ペッパーのことや今までアイアンマンとして出会った人々のことを考え、必死に闘っていた。
「おい!お前以外に誰がアイアンマンなんてやるんだ?お前がやったに決まっているだろ?」
「…」
「ヒーロー気取りなのか知らないが…調子にのるんじゃねぇよ!」
「…」
「大会社の社長さんよ。お前は椅子に踏ん反り返って偉そうにしとけばいいんだよ!」
「…」
「お前が認めればそれで済むんだ。話は簡単だろ?どうせ大金ばら撒いてすぐに釈放されるに決まっている。そうしたら俺たちもさっさと家に帰れるんだ。だから早く認めろ!」
「…」
トニーは何を言われても黙って耐えた。ここで怒りに負けて認めれば、おしまいだ。
「おい!聞いているのか?!」
黙秘するトニーに我慢できなくなった警官が、トニーの頭を掴み、机に何度も叩きつけた。
「ぐっ!」
「聞いているんだ!答えろ!」
警官たちは、トニーの頭を掴むと、顔や腹部を何度も殴り始めた。
「なんだ?アイアンマンじゃなけりゃ、ただの弱い男じゃないか!」
そう言うと、警官たちは椅子から蹴り落としたトニーの全身を蹴り始めた。
身体を丸くして防御するトニーだが、彼らはみな自分よりも大きい者ばかり。最近は生身でもある程度闘えるようにと、スティーブに鍛えてもらっているとはいえ、複数人の彼らに敵うはずもない。
あちこちから血を流し始めたトニーだが、ここで反撃すれば負けだ…。我慢するんだ…。ただ彼らが過ちに気づくのを必死で耐えていた。
暴行を加えられ始め、どれくらいたっただろう。
取調室のドアがあき、トニーと顔見知りの署長が入ってきた。
彼は取調室で起こっている光景を見て絶句したが、大声をあげて怒鳴った。
「お前たち!何をしているんだ!取調中の暴行は違法だぞ!」
署長の登場にトニーを痛めつけていた警官は慌てて整列したが、そんな彼らを睨みつけ、床に倒れうずくまるトニーの元へ署長は駆け寄った。
「トニー!大丈夫か?」
トニーは痛む腹部を押さえ苦しそうに咳き込んだ。
「君のところの若いのは、躾がなってないな…痛てて…」
署長に支えられ椅子に座ると、口の中の血を吐き出し、シャツの袖で血だらけの顔面を拭った。
「トニー、すまない。私が不在なのをいいことに、どうやら君のことをよく思っていない一部の人間が先走ったようだ。弁護士が証拠を持ってきた。君にはアリバイがある。ちゃんと調べもせず逮捕などとんでもない。しかも無実の君に罪を着せようとする取調に暴行。聞けば逮捕の時も殴られたそうじゃないか。いつも 市民の安全を守ってくれている君に対してこんなことをするなんて…。すまなかった。君にこんなことをした人間には、それなりの処罰を与えるから…。私の顔に免じて許してくれないか?」
まだ苦しそうに咳き込むトニーは、署長の肩をポンっと叩くと、
「君に言われればな…。そういえば、証拠ってなんだ?」
と不思議に尋ねた。
すると署長は顔を真っ赤にして
「い、いや…それは…後で君の彼女に聞いてくれ…。あ、言っておくが、警察で見たのは私だけだからな!」
と慌てふためいて言ったのだった。
+++
憔悴し切って、足元のふらつくトニーが署長の肩を借りて取調室から出てくると、廊下には弁護士とペッパーの姿があった。
「トニー!」「社長!」
顔は痣だらけ、腹を押さえ苦しそうなトニーに、怪我でもしているのではないかと二人は顔を青くした。
ペッパーはトニーを抱きしめ
「無事でよかった…」
と泣きついてきた。
弁護士が
「スターク様に何をされたのですか?場合によっては法的手段を…」
と署長に詰め寄るのを見たトニーは
「いいんだ。このことは訴えるつもりはない。それより…もう帰ってもいいか?帰ってゆっくり眠りたいんだ…」
と、ペッパーに支えられるようにして入口へと向かった。
ハッピーの運転する車に乗り込んだ途端、
「ペッパー悪い。気分が悪いから横になりたい。膝を貸してくれないか?」
と、トニーはペッパーの膝の上に頭を乗せ横になった。
「トニー、大丈夫なの?病院へ行った方が…」
トニーの頭を撫でながら心配そうに聞くペッパーに
「それよりも…何を証拠に持ってきたんだ?署長が真っ赤になっていたんだが…」
トニーは閉じていた目を開けて聞いた。
するとペッパーは急に真っ赤な顔になり、あたりをキョロキョロ見回すと、トニーの耳元に口をつけた。
「あのね…昨日の私たちの映像をね…。日付と時間ちゃんと入っているし、夕方から今朝まであなたはずっと私と一緒にいたってそれで証明されたの…」
「昨日の映像?!」
大声をあげ飛び起きたトニーにハッピーは驚き、車は大きく蛇行した。
「は、ハッピー、驚かせてすまない…。ペッパー!何でそんな映像があるんだ!」
「し、知らないわよ!ジャーヴィスが…『トニー様の日常は全て記録しておりますので、昨晩のものもございます』って、渡してくれたの…」
「おい…私の日常全て…ということは…」
顔を赤くしたトニーは思わずペッパーと顔を見合わせた。
さらに顔を赤くし叫び声をあげそうになったペッパーの口をトニーは慌ててキスで塞ぐと、ペッパーを抱きしめシートに横になった。
「気分はどう?」
トニーに抱きしめられたままペッパーが聞くと
「最悪だ。蹴られた腹は痛いし、吐きそうだし…。私の自尊心も傷ついたし…。だが、助かったよ。君のあの姿まで私以外の人間に見られたと思うと腹立たしいが…。だが、この借りは必ず返すぞ…。このまま黙っておけるか…」
トニーはペッパーの髪に顔を埋めるとつぶやいた。
ペッパーはトニーの頭を撫でながら、顔の傷のないところにキスをしながら
「真犯人を捕まえるの?じゃあ、怪我の具合を診てもらわなきゃね…。ハッピー、病院へ向かって頂戴?」
その時は私も手伝うからね…ペッパーに優しく言われ、トニーは柔らかく温かいペッパーの腕の中で目を閉じた。
トニペパ。身に覚えのない恨みを買ってそうですからね、トニーは…。