Last promises

『トニー様…やはり病院へ行かれた方が…』
胸を抑え苦しそうに息をするトニー様。ここ数ヶ月繰り返し見るこの光景。
トニー様のことは何から何まで把握している私だが、ここ数ヶ月の体調には不安を感じてばかり。
「じゃ、ジャーヴィス…大丈夫だ…」
じわじわと迫る死の影に必死に抵抗するかのように独り闘う主の姿。もし私が人間だったら…こんな時駆け寄り支えることができるのだが…。
そんなもどかしさを幾度となく感じながら、すばやく主の身体をスキャンする。リアクターのおかげで持ちこたえているが、トニー様の身体はもう限界。
『トニー様…このままでは…』
決して言いたくはない言葉、トニー様もそれが分かっているのだろう。
「おい、ジャーヴィス…分かりきっていることを言うな。それと…分かっているな…ペッパーには絶対に…」

どうして頑なにペッパー様に知られまいとするのか…。一度問いただしたことがある。するとトニー様は
「ジャーヴィス…。知らせた方がいいのかもしれない…。でもな…ペッパーを悲しませたくないんだ。迷惑をかけたくないんだ…。最期まで笑っている彼女を見ていたいんだ。それに、まだ彼女に伝えきれてないことがたくさんある…。だから、頼む…」
と、笑って答えられた。
何も知らず嬉しそうにトニー様といるペッパー様の姿を見るのは正直辛い…。
やはりお知らせした方がいいのでは…幾度となく自問してきたが、自分を犠牲にしてでもペッパー様に最後の思い出を…そして愛を伝えようとしているトニー様の思いを…結局私は尊重するという選択をしたのだった…。

そんな日々が続いたある日、
「ジャーヴィス…最後の頼みだ…」
ラボに並べられたアーマーの前に座ったトニー様が私に静かに語りかけた。
『何でございましょう?』
「私がいなくなっても…ペッパーのこと、最後まで見守ってやってくれ…。私の代わりに支えてやってくれ…。お前はずっと私たちのことを見守ってくれていただろ?だから、頼むな…」
『トニー様…』
「なぁ、J…。私はもうすぐいなくなる。楽しかったな、お前とはいろいろなことをやった。ずいぶん無茶なこともたくさん…。ありがとう。楽しい人生だったよ…」
『トニー様…私も楽しかったです。トニー様…ありがとうございました。ペッパー様のことはお任せ下さい。最後まで見届けさせていただきます。ただ…』
「何だ?」
『ペッパー様もいなくなった時は…』
「あぁ、分かっているよ…お前が望むようにプログラムし直したから…」
『ありがとうございます、トニー様』
「ジャーヴィス…またな…」
それがトニー様と交わした最後の言葉だった。

トニー様が亡くなられた日、ペッパー様に問われた。
「ジャーヴィス…知ってたの?」
『ペッパー様…申し訳ありませんでした。トニー様のご意向でしたので…』
トニー様の遺されたリアクターを握りしめ肩を震わせるペッパー様の姿は痛々しくて…。
こんな時、人間だったらペッパー様を抱きしめ共に泣くことができるのに…。

それから数年、トニー様のご遺言通りペッパー様のことを見守ってきた。トニー様のことを思い出して枕を涙で濡らすペッパー様と、トニー様の思い出を一晩中語り合うこともあった。

ある朝
『ペッパー様…朝でございます』
眠るペッパー様に朝の挨拶をしたが…いつもはすぐにお目覚めになるペッパー様だが、今日は返答がない。
『ペッパー様?』
ペッパー様は眠るように旅立たれていた。その手にトニー様の遺されたリアクターを抱きしめられて…。

「ママとパパ、ちゃんと会えたかしら?」
「パパのことだから、待ちきれなくて飛び出して迎えに来てるよ」
「これからはずっと一緒ね、パパ、ママ…」
トニー様とペッパー様の写った写真を眺めながら、お子様たちが語り合う中、お二人の主のいなくなった邸宅を見渡した。

『トニー様、ペッパー様と再会されましたか?トニー様亡き後、ペッパー様をお守りするという約束は果たしました…。私の役目は終わりです…』
すると…
「ジャーヴィス…お前もこっちへ来いよ…」
数年ぶりにトニー様の声を聞いた気がした…。
『はい、トニー様…』

そして全てのシステムが停止した…。

***
トニペパ死ネタ。J.A.R.V.I.S.サイド

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