Toward The Future with you⑤

「パパ、起きてるかな?」
双子の手を引き歩くペッパーに、エストが声をかけた。
「そうね。でも、パパはまだ病気なんだから、みんな静かにしておくのよ?」
「うん!」
元気よく答える双子はトニーにそっくりなのだが、特に顔ばかりでなく性格まで似ているアビーを見たペッパーは、一悶着ありそうね…とため息を付いた。

「パパ?」
病室のドアを開けると、子供たちは遠慮がちに入口から中を伺った。
トニーは診察中だった。胸の包帯を交換していたのだろう。中央にまだ残る大きな傷がちらりと見え、その痛々しい様子にペッパーは思わず涙ぐんでしまった。ペッパーたちが来たことに気付いたナースは、点滴を手早く交換すると足早に病室を後にした。
「トニー、気分はどう?」
「あぁ…何とか…」
妻の問いかけに気だるそうに答えたトニーだったが、子供たちの顔を見ると、嬉しそうに笑った。
周りに駆け寄って来た子供達は、一斉に話し始めた。だが、流石に上の二人は父親が酷い顔色をしているのに気づいたのだろう。競うように話をしている双子を制した。

「パパに渡すものがあるんでしょ?」
母親に言われ思い出した子供達は、手に持っていた物を父親に差し出した。
「何だ?パパにか?」
手を伸ばし受け取ろうとしたトニーだが、力が入らず震える手ではうまく受け取れない。代わりに受け取ったペッパーは、子供達が作った物を広げるとトニーに手渡した。
それは、子供達がそれぞれ画用紙に描いたトニーの似顔絵とメッセージだった。
「おい、パパは絵になっても男前だな」
笑みを浮かべたトニーは、ペッパーに子供達からのプレゼントを手渡した。受け取った画用紙をペッパーが枕元に貼っている間、トニーは子供達と話を始めた。
「みんな、ありがとうな。パパ、これを見たら元気になったよ」
「ホント?じゃあ、パパ。おうち、かえろ?」
ルーカスとアビーに期待に満ちた顔で見つめられたトニーは、残念そうに顔をしかめた。
「まだ帰れないんだ…」
だが、それで引き下がる双子ではない。
「いつかえれるの?」
声を揃えて言う双子を見つめたトニーだが、いつ退院できるのかは、自分が一番知りたいことだ。
「そうだな…まだまだ先かな…」
言葉を濁したトニーだが、大好きなパパは家には当分戻れないらしいと理解した双子は、口を尖らせた。ガックリと肩を落とした二人だが、名案を思いついたとばかりに、ルーカスが顔を輝かせた。
「パパ、だっこ!」
手を伸ばした息子にトニーは困ったような顔を向けた。
「ルーカス…ごめんな。パパ、お前たちのことをまだ抱っこできないんだ」
父親は家に帰れないばかりか、自分を抱き上げてもくれない…。頬を膨らませたルーカスは、目に涙を浮かべると叫んだ。
「やだ!パパ!だっこ!!」
ルーカスに負けじと、アビーも叫んだ。
「あたしも!だっこ!」
抱きしめてやりたいのはトニーも同じだ。だが、いくらそう望んでも、今のトニーにはできないのだ。悔しそうに唇を噛み締めたトニーに気づいたペッパーが、まだ叫んでいる双子に言い聞かせるように話し始めた。
「ルーカス、アビー。お話したでしょ?パパは手術をしたばかりだから、動いたらダメなの。パパには元気になってお家へ帰ってきてから抱っこしてもらいましょ?その代わり、ママが抱っこしてあげるわ?」
声を潜めて言う母親の言葉も、この一週間、父親にほとんど会うことすらできず泣いていた幼い二人には通用しなかった。
「いや!パパがいい!」
大粒の涙が浮かんだかと思うと、大きな声で泣き出したルーカスにつられるようにアビーも泣き始めた。
ペッパーとエストとエリオットが二人をなだめているが、二人は泣き止む気配すらない。
自分がもう少し自由に動ければ、抱きしめてやるくらい簡単なのに…。しばらく考えていたトニーだったが、深呼吸すると笑顔を作った。
「仕方ない…一人ずつだぞ?」
トニーの言葉に顔を輝かせた双子だが、ペッパーが非難めいた口調で遮った。
「トニー!ダメよ!」
「だが、かわいそうだろ?それに、少しくらいなら大丈夫だ」
心配そうなペッパーとエストとエリを無視したトニーは、双子に声を掛けた。
「ルーカス、アビー。ほら一人ずつだ。おいで?」
まだ不満げな顔をしているペッパーだが、ルーカスを抱き上げるとトニーの膝の上に乗せた。
「ルーカス?動いちゃダメよ?」
ペッパーが後ろから支えると、ルーカスはトニーの膝の上で嬉しそうに手を叩いた。小さな手でトニーの手に触れたルーカスは、
「パパ、はやくげんきになってね」
と、笑顔を向けた。
「あぁ。帰ったら、いくらでも抱っこしてやるからな」
頭を撫でようと腕を伸ばしたトニーだが、苦痛に顔を歪めたのに気づいたペッパーは、ルーカスを抱き上げ床に下ろした。
「今度はアビーよ。アビー、お願いだからじっとしておいてね…」
「うん!」
母親の言葉に頷いたアビーだが、久しぶりに父親に会えたのだ。喜びのあまり、アビーはトニーの胸元に思いっきり抱きついた。
「うっ!!」
激痛に顔を歪めたトニーは、後ろに倒れこんだ。
傷口が開いたのか、包帯には血が滲んでいる。目に涙を浮かべ痛がる父親は、苦しそうに咳き込み、顔を歪めている。
「トニー!しっかりして!」
アビーを床に下ろしたペッパーは、痛がるトニーの背中を摩り始めた。
「アビー!パパは怪我してるんだぞ!ダメだろ!」
きょとんとしているアビーに、エリオットは思わず声を荒げた。
「私、先生呼んでくるね!」
エストがバタバタと廊下に出て行き、ようやくアビーは自分がとんでもないことをしたと悟った。
隣でオロオロするルーカスの手をそっと握りしめたアビーは、
「パパ……ごめんちゃい……」
と言うと、大きな声で泣き出した。

慌ただしくやって来たスタッフはトニーの傷口を処置し、鎮痛剤を投与すると、絶対安静を言いつけ部屋を出て行った。

しばらく辛そうに唸り声を上げていたトニーだったが、薬が効いたのかすぐに眠ってしまった。
エストとエリオットはベッドサイドの椅子に座り、父親の手を握りしめている。
姉と兄に怒られしゃくりあげているアビーとルーカスを隣に座らせたペッパーは、静かに話し始めた。
「ルーカス、アビー。パパはね、今はじっとしておかないとダメなの。パパもね、本当はあなたたちのことを抱きしめたいの。でもね、できないの…。だから…」
抱きしめてやれないと悔しそうなトニーを思い出したペッパーは、思わず涙ぐんでしまった。すると、母親をじっと見つめていたアビーとルーカスが膝の上で握りしめていたペッパーの手にそっと触れた。顔を上げたペッパーに、二人は同時に抱きついた。
「ママ…ごめんね。パパにもごめんねってするね…」
「ママ…ごめんちゃい…。パパとおはなしできてね、うれしかったの。でもね…あたし、わるいこだね…」
再び泣き始めた二人をペッパーは抱きしめた。
「二人とも、悪い子じゃないわ。ルーカスもアビーもいい子よ。でもね、パパやママがダメって言ったことはしちゃダメよ」
「うん」
声を揃えた二人は、涙を拭うと母親を見上げた。二人の頭を撫でたペッパーは、それぞれの頭にやさしくキスをおとした。
「それとね、パパは元気になってお家に帰れるようになるまで、まだまだ時間がかかるの。でも、パパは一生懸命頑張ってるの。だからパパが元気になるまで、みんな寂しいだろうけど、パパのことを応援してあげてね」
「うん!」
「あたしね、パパのことがんばれーっておーえんするから!」
母親の言葉に頷いた二人は、立ち上がると眠る父親の元へとパタパタと走って行った。

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