Toward The Future with you③

数日後、トニーが目を覚ましたのは、家族全員が見舞いに行っている時だった。
まだぼんやりとしているトニーだったが、ペッパーと子供たちに気付くと何度か瞬きをした。
「トニー、手術はうまくいったわよ」
小さく頷いたトニーは、ペッパーの手を握り返した。
翌日には話ができるようになったトニーだが、痛みは全身を襲い続けた。だがトニーは子供たちがいるとそんな素振りは一切見せなかった。目覚めた父親に向かい一斉に喋り出した子供たちの話を聞き、時折笑い声を立てるのだが、その度に眉間にシワを寄せ辛そうなトニーをペッパーは黙って見守っていた。

二日後。子供たちは学校へ行っており、二人きりの病室は静かだった。
それまで眠っていたトニーだったが、急に起き上がろうとしたため、ペッパーは慌てて立ち上がった。
「どうしたの?」
「…水が飲みたい…」
身体を起こそうとするトニーを押さえると、ペッパーはサイドテーブルに置いたボトルを手に取った。
「まだ起き上がったらダメなの。さっき先生が説明されたでしょ?今日は夕食からご飯も食べられるし、明日には座ってみましょうって」
子供も宥めるように話すペッパーだが、トニーは聞いていない悪態をついた。
それでもストローを口にくわえさせると、トニーは嬉しそうに飲み始めた。そして何口か飲んだトニーは深呼吸をしペッパーを見つめた。倒れて以来ずっと付き添ってくれている彼女は疲れ切った顔をしており、トニーは心配になった。
「ペッパー…」
不安げな顔をしているトニーの手を取ったペッパーは顔を覗きこんだ。
「どうしたの?」
ニコっと微笑んだペッパーのその笑顔は、トニーの心に温もりを持たせてくれるが、疲労の影の濃い瞳をトニーはじっと見つめた。
「ずいぶん疲れた顔をしている。私は大丈夫だから、帰って休め。子供たちも待ってる」
だがペッパーは首を振った。
「私なら平気よ。それにね、あの子たち、パパが寂しいからママは一緒にいてあげてって言うのよ」
クスっと笑ったペッパーだが、トニーは顔をしかめた。
「いや、きちんと食べて寝ろ。いいな?」
確かにトニーの言う通りだった。自分の体調もだが、留守番をさせている子供たちが心配だった。上の二人はまだしも、双子はまだ小さく、今朝も自分と離れたくないと泣いていたからだ。
(そうよね、彼の言うとおりだわ…)
「分かったわ。あなたが夕食を食べたら家に戻るわ。それでいい?」
ペッパーの言葉に納得したトニーは小さく頷いた。

倒れて以来の久しぶりの食事は、スープに果物という簡素なものだった。それでもベッドを少し起こしてもらったトニーは、久しぶりの食事に嬉しそうに笑った。だが、スプーンを持とうとするも手に力が入らないのか落としてしまった。
「くそっ!」
舌打ちしたトニーはスプーンを拾い上げようとしたが、また落としてしまった。
「トニー、貸して」
スプーンを拾ったペッパーは、スープをすくうとトニーの口元へ運んだ。
俯いたトニーは黙って食べ続けた。
「どう?美味しい?」
「君の料理に比べるとおちるが、悪くない」
いつものようにニヤリと笑ったつもりだろうが、その笑みは引きつっている。
「元気になったら、あなたが好きな物をたくさん作るわね」
「あぁ…」
半分ほど食べたところで、トニーは満腹だと食べるのをやめてしまった。
(ほとんど食べていないじゃないの…)
そう思いつつもトレーを片付けたペッパーはベッド脇の椅子に座ったが、トニーは早く帰れとペッパーを促した。
「本当にそばにいなくてもいい?」
帰り支度を整え念のため聞いたが、トニーは笑みを浮かべた。
「いいから帰って休め」
どう見ても無理をしている。元気のないのが気になったが、ペッパーは子供たちの待つ自宅へと戻った。

ペッパーが去った病室は静まり返り、一気に寂しさと不安がトニーを襲った。
心配をかけるから言いたくはないが、正直なところ胸の傷が痛み、呼吸をするのも辛い。だから話をするのも当然辛い。そして空腹のはずなのに、食べ物を口にすると吐きそうになった。だが、ペッパーが悲しむ顔は見たくなかった。
このまま順調に回復するという保証はない。元の生活が送れなかったらどうすればいいんだ…。家族に迷惑を掛けるだけだ…。
力が入らず震える手を見たトニーは、一人不安に押しつぶされそうになり、頭からシーツを被った。

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