Toward The Future with you ①

三日ほど前から体調が悪い。
最初は風邪でも引いたかと思ったがそうではないようだ。熱もないし喉も痛くない。だが日を追うごとに息苦しくなり、空咳まで出始めた。秋になり少し肌寒くなってはきたがそれなりに調整している。ただ一つ言うならば、寝る時はいつも何も着ていないことだけだろうか…。
思い当たる節もなく頭を捻ったトニーだが、喉奥から何かがせり上がってくる感触を覚え、口を押えると苦しそうに咳き込んだ。
口に当てた掌がぬるっと生温かいものに触れた。慌てて掌を見ると、真っ赤な鮮血で汚れている。どうして吐血するのか全く見当もつかない。
「ジャーヴィス、スキャンしろ」
Tシャツを捲ったトニーはリアクターの光がいつもよりも弱々しいことに気付いた。
そういえば、一週間ほど前に敵に攻撃された時、一瞬リアクターの光が消えたのだった。帰宅し調べたが特に問題なかったため、そのまま忘れていた。
ジャーヴィスがスキャンする間、そんなことをぼんやりと考えていると、目の前に胸部のレントゲンが映し出された。写真を見たトニーは違和感を覚えた。先日見た物とはどこか違う気がする。よく見ると、胸に散らばる破片が移動しているではないか。
「おい…まさか…」
顔色を変えたトニーは、リアクターを外した。
『トニー様、3日前よりリアクターが正常に作動していないようです』
ジャーヴィスの言葉にトニーは思わず声を荒げた。
「なぜだ?!なぜリアクターが作動していないんだ?」
『原因は分かりませんが、このままでは…。トニー様、早く病院へ行かれてください』
黙ったままリアクターを見つめていたトニーだが、元の位置に戻すと椅子にもたれかかった。
「…あと何日ある?」
こめかみを指で押さえたトニーは、静かにジャーヴィスに問いかけた。
『おそらく2、3日だと…』
このままだと、自分の寿命はあと2日ほどらしい。病院に行っても失敗すればそこで終わりだ。それならば、ペッパーと子供たちに最後の思い出を作ってからでもいい…。
ゆっくりと立ち上がったトニーは、
「ペッパーには言うな」
とジャーヴィスに命じると、ラボを後にした。

「明日はみんなで出かけないか?」
夕食時に突然言い出したトニーの提案に、みんな目を白黒させた。
「どうしたの?」
「パパ、明日は学校よ?」
ペッパーとエストの言葉を無視したトニーは
「そんなもの休めばいい」
と言うと、目を輝かせている双子を見つめた。
「ルーカスとアビーはどこへ行きたい?」
顔を見合わせた双子は同時に叫んだ。
「あたし、プーちゃんにあいたい!」
「ぼくはグーフィー!」
いつもの父親らしからぬ言葉。嬉しそうに双子を見ている父親を、エストとエリオットは心配そうに見つめていた。

「ねぇ、急にどうしたの?」
夫婦二人になった寝室で、どこかぼんやりしているトニーにペッパーは尋ねた。
「たまにはいいだろ?」
ペッパーにキスをするとトニーはシーツの中に潜り込んだ。
「そうだけど…」
眉間にシワを寄せたトニーは軽く咳き込んだ。どことなく青い顔をしているトニーは体調が悪そうなのだが、本人は隠そうとしている。
「トニー、顔色が悪いわ。大丈夫?」
(長年連れ添っているペッパーには隠し通せないか…)
気づかれないように深呼吸したトニーは、ペッパーの身体を抱き寄せた。
「大丈夫だ。疲れてるのかな?」
ニヤリと笑みを浮かべたトニーの頬を撫でると、ペッパーは彼のパジャマをキュッと握りしめた。
「今日は早く寝ましょ?」
「あぁ…」
身体を摺り寄せてきたペッパーはすぐに眠ってしまったが、トニーはその温もりを身体に染み込ませるように一晩中抱きしめ続けた。

翌日、ディ○ニーランドにやって来たスターク一家。
平日ということもあり、比較的スムーズに乗れるアトラクションに、トニーは率先して向かって行った。
「よし!次はあれに行くぞ!」
歓声を上げる双子を連れてダ○ボのアトラクションに向かったトニーを見送ったペッパーは、近くのベンチに座った。そこへ、ポップコーンを買いに行っていたエストとエリオットが戻って来た。
「おーい、ペッパー!」
「ママ!」
頭上で手を振る三人を写真におさめたペッパーは、一番喜んでいるのはトニーね…とクスッと笑った。
ポップコーンを頬張りながら三人の様子を見ていたエリオットだったが、エストに何か耳打ちした。頷いたエストは、ペッパーの方へ不安げな瞳を向けた。
「ねぇ、ママ。パパの様子おかしくない?」
子供たちの目から見てもおかしいのだ。妻の目から見ると、トニーの様子は相当おかしかった。
「そうよね…。昨日からどうしたのかしら…」
ため息をついたペッパーが何か言おうとしたその時、双子とトニーが戻ってきたのに気づき、口を閉じた。

パレードを見たり家族で写真を撮ったりと、楽しい時間はあっという間に過ぎ、辺りはすっかり暗くなっていた。子供たちはそれぞれ自分のお気に入りのキャラクターの大きなぬいぐるみを抱きしめすっかり夢の中。そして、助手席で眠っているペッパーの膝の上にも、ミッ○ーとミ○ーのぬいぐるみが鎮座している。
家族の寝顔を見つめながら運転しているトニーだが、もしかしたらこれが最後になるのかもしれないと思うと、鼻を啜った。
しばらく運転し続けていたトニーだが、胸がチリっと痛み息苦しくなってきた。何度も深呼吸したトニーは、妻の寝顔をチラリと見た。
(頼む…。あと一つ…やり残したことがあるんだ…)

「今日は楽しかったわね」
ベッドの枕元にぬいぐるみを置いたペッパーは、先に横になっていたトニーに抱きついた。
「いい思い出になったな…」
しんみりと言うトニーに、ペッパーは怪訝そうな顔をした。
「ほら、今まではアビーとルーカスが小さいからと6人で出かけることはあまりなかっただろ?」
慌てて言うトニーに、そういうことね…とペッパーも笑った。
「そうよね。二人とも大きくなったし、これからはいろんなところに行きましょうね?」
それには答えず、トニーはペッパーの身体をギュっと抱きしめた。
「ペッパー、ありがとう。君には感謝してる。私に家族の温かさを教えてくれたんだから…」
「昨日からどうしたのよ?」
クスクス笑ったペッパーだが、トニーは黙ったままだ。そして、自分を刻み付けるかのようにトニーはペッパーを抱き続けた。

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