A Promise②

意識が戻ったトニーだが、少しでも動くと切り裂かれた身体には激痛が走り、トニーを容赦なく襲い続けた。痛みを抑える強い鎮痛剤のため、目を覚ましていてもトニーは意識が朦朧としており、ペッパーやみんながいることは分かってはいたが、話ができる状態ではなかった。

トニーが目覚めた次の日から、エストは幼稚園に行き、ペッパーはトニーに付き添うため、病室で仕事をしていた。

その日もペッパーはパソコンに向かい、データーの整理をしていた。トニーの方を見ると、額に汗を浮かべ、苦しそうな顔をして眠っている。
ペッパーがトニーの様子を見るために立ち上がると、全身を切り裂くような鋭い痛みを感じたトニーが小さな悲鳴をあげて目を覚ました。
「トニー?痛む?」
脂汗をかいたトニーの顔をタオルで拭うと、ペッパーはナースコールを押そうとした。
「だ…だいじょうぶ…。それより…ペッパー…話…しよう…」
目覚めてからまともに話ができていない。ここで眠ると、またペッパーと話ができなくなる…。そう思ったトニーは、ペッパーを止めた。言葉を発するだけでも相当辛そうなトニーを心配そうに見たペッパーだが、
「分かったわ…。でも、辛くなったら言ってね…」
とベッドサイドの椅子に腰掛けた。
「気分はどう?」
「…最悪だ…。でも…君が…ずっとそばに…いるから…悪くない」
ペッパーを安心させるようにニヤリと笑ったトニーだが、一瞬眉間にシワが寄ったのをペッパーは見逃さなかった。
「あら?昔から家でも会社でも、あなたは私にベッタリ張り付いてるでしょ?」
クスクスと笑うペッパーをトニーはまぶしそうに見つめた。

今日のトニーは、意識もはっきりしているし、早くあの話を教えてあげなきゃ…。ペッパーはトニーの手を取ると話し出した。
「ねぇ、トニー。あのね…あのね…。重大発表があるんだけど…聞きたい?」
「?」
不思議な顔をして見つめるトニーの耳元に口を寄せると、内緒話をするように、ペッパーは小声で話始めた。
「あの日…あなたが倒れた日に分かったんだけど…。赤ちゃんができたの」
一瞬、口をポカンと開け黙っていたトニーだが、次第にその口元は喜びで緩み始めた。
「…ホントか?やったな…」
「えぇ。病院でも調べてもらったわ。3ヶ月ですって。今度は男の子だったらいいわね…」
ペッパーはトニーの手を自分のお腹にそっと当てた。

「そうだな…。よかった…。ありがとう…ペッパー…」
トニーの目は涙で潤んでいた。
「アンソニーJr.に会えるといいわね」
「…元気なら…どちらでも…いい…。早く…元気に…ならないと…」
「そうよ。早く元気になってね」

「つわり…大丈夫か?」
エストの時はつわりがひどくペッパーが苦しんでいたのを思い出したトニーが、ペッパーのお腹を撫でながら聞くと、ペッパーは嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ。今度は大丈夫そうよ。心配してくれてありがとう、トニー。あ、そうそう。エストがね、お姉ちゃんになるのを自分があなたに教えるんだって意気込んでたから、妊娠のこと、知らなかったふりしててちょうだい?」
「分かった…。エストは?」
「幼稚園に行ってるわ。もうすぐハッピーが連れて戻ってくると思うけど…」
時計を見たペッパーがそう答えたが、眉間に皺を寄せ目をギュッと瞑ったトニーは黙ったままだ。
「トニー。辛いんでしょ?私はずっとそばにいるから、少し休んで。痛み止めが必要?」
苦しそうに息をしているのに、我慢強いと言うべきか、トニーは首を横に振った。

ペッパーは息のあがり始めたトニーに酸素マスクを付けると、
「エストが帰ってきたら、起こしてあげるわね」
と、頷くトニーの頬にキスをおとした。

しばらく苦しそうな息と時折うなるような声が聞こえていたが、トニーは眠ったようだ。

トニーの様子を見ながら、ペッパーが仕事(と言っても、ほとんどトニーのするべき仕事なのだが…)を片付けていると、病室のドアが開き、エストが顔を覗かせた。
「ママ…ただいま…」
エストはそっと部屋に入ってくると、トニーのそばに駆け寄った。
「パパ、おっきした?」
「えぇ、また眠っちゃったけど、エストが帰ってきたら起こすって約束してるのよ」

そこへ両手に山のように荷物を抱えたハッピーが汗をかきながら姿を現した。
「ボスの具合は?」
「ええ、さっき目を覚まして、少し話ができたのよ。ハッピー?その荷物は?」
「それはよかった。あ、これはお見舞い品の一部。社員や取引先や知り合いから山のように届いているんですが、全部は持ってくれなくて…。後は、アイアンマンへの激励の手紙がたくさん届いているんです」
たくさんの手紙やメッセージカード、そして寄せ書きしたアイアンマンの人形など、ハッピーはトニーの励みになれば…と、何点か持ってきたのだ。
「みんなボスのこと、心配していますよ」
「ありがたいわね…こんなにもみんなに心配してもらって…」
ペッパーはグスンと鼻を啜った。

ハッピーが帰った後、メッセージを手に取り眺めていたペッパーにエストが声を掛けた。
「ねぇ、ママ。パパ、おっきしないの?」
「そうね。エストに会いたがっていたから、起こしてみるわね…」
トニーはぐっすり眠っており、起こすのは気が引けたペッパーだが、
「トニー…エストが帰って来たわよ?」
肩を揺さぶり声を掛けると、トニーはゆっくり目を開いた。
「ぺっぱー…」
「外すわよ?エストが帰ってきたの」
頷いたトニーから酸素マスクを外すと、ペッパーはエストを抱き上げ椅子に座らせた。
「パパ、ただいま!」
「おかえり…エスト…」
元気のいい娘の声に自然とトニーの頬が緩んだ。
「パパ?げんきになった?おうち、かえれる?」
「まだ…帰れないな…。エスト…アイアンマン…貸してくれて…ありがと…」
「いいのよ。あいあんまん、がんばれーっておーえんしてくれた?」
「あぁ…聞こえたよ…」
うふふと嬉しそうに微笑んだエストだが、何か思い出したように「あ!」と声を上げた。
「パパ!あのね、あのね…」
ペッパーと同じような物言いに、トニーの顏に笑みがこぼれた。
「なんだ?」
「あのね…えちゅとね…おねえちゃんになるの!ママね、あかちゃんいるの!パパ、うれしい?」
「そうか。エスト…お姉ちゃんか…。嬉しいよ…すごく嬉しい…」
「えちゅとね、あかちゃんにね、おもちゃあげるの!あ、ぱぱがくれたあいあんまんは、えちゅとのたからものだから…」
ブツブツとつぶやいているエストを、トニーもペッパーも嬉しそうに見つめた。
「ねぇ、パパ!パパがげんきになったら…」
「あぁ…行くんだろ?…動物園…」
「うん!パパとママとえちゅととあかちゃんで行くのよ!でも…」
「どうした?」
「あのね…パパがね、あいあんまんのおしごとだったらね、えちゅと、がまんするからね…。だってね…えちゅと、パパもあいあんまんもだいちゅきだから!」
「エスト…ありがとう…」

にっこりと笑ったエストの頭をトニーはいつまでも撫で続けた。

③へ…

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