The Call

2歳のエストは電話ごっこに夢中。
最初はトニーの買ってきたおもちゃの電話で遊んでいたのだが、所詮はおもちゃ。電話の向こうから返答がない一方通行のやり取りにエストは飽きてしまった。
そんな時、目に入ったのは、ペッパーの携帯電話。
そういえば、ママはパパとあれでお話してるわ…と思い出したエストは、ちょこちょこと走って行き、ペッパーの携帯電話を手に取った。

一方、トニーは社長室でとあるプロジェクトの打ち合わせ中。
打ち合わせも終了し、社員たちが部屋を片付け始めた時だ。
トニーの携帯電話が軽快な音楽を奏で始めた。
ペッパーだな?
特に隠すようなこともないし…と、トニーは
「スピーカーで繋いでくれ」
と指示を出した。
「ペッパーか?どうした…」
コーヒーを飲みながら尋ねたトニーだが…部屋中に本来の電話の持ち主とは違うかわいらしい声が響き渡った。
「もちもち、パパでちゅか?」

ブー!!!!

コーヒー吹き出したトニーを皆が振り返った。…いや、正確にはエストの声が聞こえた瞬間、部屋にいた全員が仕事をするフリをしながら全神経をトニーの方へ集中させていたのだが…。
果たして社長…あのトニー・スタークは、普段娘とどんな話をしているのか…。もはや部屋中全員の興味はそこにしかなかった。

「え、エスト?!」
「えちゅとよ。パパ~!」
「ど、どうしたんだ?!ペッパー…いや、ママの電話を勝手に使ったらダメだろ?」
「パパ~、えちゅとね、パパ、だいちゅき♡はやくおうちにかえってきてね」
「あ…あぁ…」
部屋中の視線が自分に集まっていることに気付いているトニーは、言葉を濁した。スピーカーから電話に切り替えればいいのだが、今のトニーにそこまで考える余裕はなかった。
そんな事情を知る由もないエスト。普段なら『パパもエストのこと大好きだよ~』と顔中にキスをして抱きしめてくれる父親が、えらく素っ気ない態度をするものだから、
「パパ!あたちのこと、きらいなの?あたちとちごと、どっちがちゅきなの?!」
と、舌足らずな口調で詰め寄った。

その場にいた全員が思った。社長はおそらくミス・ポッツ…いや、スターク夫人に言われているのだろう…。『私と仕事とどっちが大事なの?!』と…。

「え……っと…だな…」
娘の反撃にたじろぐトニー。言葉に詰まっていると、電話の向こうでエストは大げさにため息を付き、
「もう、パパ!きやい!」
と言い放った。
嫌いと言われ慌てたトニー。
「え、エスト!パパがエストのこと嫌いなわけないだろ?大好きだ!世界で一番…いや、一番はペッパーか…。ではなくてだな、エスト!パパはエストのことばかり考えてるぞ!大好きだ!」
娘のご機嫌をとるため必死なトニー。しばらく黙っていたエストだが、疑うような声でポツリと言った。
「…ほんとにちゅき?」
「あぁ!ホントだ!」
「よかった。えちゅともね、パパ、だいちゅきよ」

娘から「大好き」と言われ、ホッとするトニー。
世の女性を虜にするプレイボーイと名高かったトニー・スタークも、娘には弱かったのか…。
そして…社長のご令嬢…確かまだ3歳になるかならないか…のはず…。あのトニー・スタークを手玉に取るなんて…恐ろしい…と、その場にいた者全員が思ったとか思わなかったとか…。

そこへ…
「エスト!ママの電話で遊んだらダメでしょ?!」
電話の向こうからペッパーの声がした。
「ママ!あのね、パパとおはなちしてたのよ。パパね、えちゅと、だいちゅきだって!ママもちゅきだって!よかったね!」
「!!エスト?!」
おそらく顔を真っ赤にしてるであろうペッパーに、エストはさらに思わぬことを言い始めた。
「ママ!パパとおはなちしゅる?パパとママ、えちゅとがねんねちたら、だいちゅきーってしゅるんでちょ?」
「キャー!!!エスト!!!何言っ…」

ガチャ!…プープー…

どうやらペッパーが慌てて電話を切ったようだ。

居心地の悪い空気が部屋の中に充満し、お互いが誰か声を出せと牽制し合う中、プロジェクトのリーダーが声を発した。
「さ、さすが社長の娘さんですね…。か、純真で…かわいらしくて…」
どこが純真でかわいらしいんだ…。だが、さすがに「将来恐ろしいですね」とは口が裂けても言えない…。もしかしたら…スターク社の後継ぎになるかもしれないのだ…。
誰もがそう思いつつ、
「社長、よかったですね…」
と、トニーを振り返ると…
耳まで真っ赤になったトニーは、恥ずかしそうに机に顔を伏せ身動き一つしない。
「…」

社長もこれから大変ですね…と哀れみの視線を送った社員たちが退室しようとしたその時、
「分かってるだろうが…多言は無用だぞ…」
と、背後から恐ろしい声。
社員たちが肩を震わせ立ち止まると、
「いいか…もし、どこかで話してみろ…このプロジェクトは…」
どす黒いオーラを醸し出し仁王立ちするトニー・スタークの姿が…。
ゴクリと唾を飲み込んだ社員たちは
「分かっております!社長!!」
と、一同敬礼して部屋を飛び出したのだった…。

***
娘に振り回されるトニー・スターク

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