郊外のショッピングモールへやって来たスターク一家。
「エスト、迷子になるなよ?」
「あい!」
返事は素晴らしく優秀なのだが、好奇心旺盛な彼女は目を離すとあっという間にどこかへ行ってしまうのだ。この広いショッピングモールで迷子になられても厄介だと、ペッパーが娘の手をしっかりと握っているのを確認したトニーは、2人を引き連れて子供服売り場へと向かった。
「トニー!これ見て!親子でお揃いですって!」
ペッパーが手に持っているのは、ド派手なピンク色のTシャツ。
「……私が着るのか?」
自分でも何を着ても似合うと思う。だが、正直なところそんな原色のド派手なTシャツは着たくない。
トニーが嫌がっているにも関わらず、ペッパーはかわいいからと強引に押し切ろうとしている。
母親のスカートの裾を握りしめ指を咥え両親の会話を聞いていたエストだったが、はっきり言って退屈だった。早くおもちゃ売り場に行きたいと、ゴネようかと思っていたエストの目の前に、突然大きなクマのぬいぐるみが現れた。
「あ!だっふぃーちゃん!!」
母親から手を離したエストは、よちよちとその大きなぬいぐるみを抱えた子供に向かって歩き始めた。そして、その子供に付いてそのまま歩いて行ってしまった。
しばらくして、結局折れたトニーは、嬉しそうに他の洋服と共にレジへ向かうペッパーに向かって不機嫌そうに唸った。
「ママは強引だな…。なぁ、エスト?」
だが返事はない。
足元にも、そしてペッパーのそばにも娘の姿は見当たらない。もちろん、店内を探すもどこにも見当たらない娘。
会計を終えたペッパーは、慌てふためくトニーに気付き、駆け寄って来た。
「どうしたの、トニー。あら?エストは?」
そこには、いるはずの娘の姿はなく、真っ青な顔をしたトニーのみ。
「ぺ、ぺ、ペッパー…エストがいなくなった…」
「いなくなったって…ま、まさか…」
『迷子』の文字を飛び越え、二人の脳裏に浮かんだのは『誘拐』の二文字。
「ど、どうするの!」
涙を浮かべしがみついてきたペッパーの腕を掴むと、トニーは店内を飛び出た。
もしかしたら…という淡き期待を抱きつつ、おもちゃ売り場へ行ってみるも、やはりエストの姿はない。
これはいよいよ誘拐だ…と、トニーが警察へ連絡しようと携帯を取り出した時だった。
『迷子のお知らせをします。トニーくんとペッパーさん、お子様が一階カウンターでお待ちです。至急お越し下さい』
突然響き渡った館内放送。
一瞬何のことか理解できなかった二人だが、呼ばれているのが自分たちであること、そしてそれは自分たちの娘であることを理解すると、絶句してしまった。
「おい!なぜ私たちが迷子なんだ!」
真っ赤になり叫ぶトニーは、頬を膨らませた。
が、二人が誰だか気付いている他の客からクスクスと笑う声が聞こえ始めると、二人は逃げるように娘の待つ場所へと向かったのだった。
***
「お子様がお待ちです」という館内アナウンスは時々聞きますよね^_^;