その頃、NYのホテルに滞在しているペッパーはエストを入浴させていた。
ベッドの上に置いた携帯が鳴り響いたが、バスルームにいるペッパーに聞こえるはずはない。
当分の間鳴り響いていた携帯だが、しばらくすると着信音が途切れた。すると、それまで気持ちよさそうにしていたエストが、突然大声で泣き出した。
「どうしたの?」
エストを抱き上げたペッパーだが、一向に泣き止む気配がない。
娘をタオルでくるみベッドルームへ向かったペッパーは、携帯に着信があることに気付いた。
まだ愚図っている娘をベッドへ寝かせ携帯を見ると、トニーからだった。
なぜかは分からないが胸騒ぎがする。きっとエストも何か感じ取ったのだろう。心のどこかでは、トニーに対する思いは募る一方。電話を掛け直そうとしたペッパーだが、慌てて首を振った。そしてその思いを断ち切るように、電話をカバンの中に突っ込んだのだった。
翌朝、何気なくテレビを付けたペッパーは、凍りついてしまった。
速報と流れていたのは、トニーが意識不明の重体というニュース。
今朝方、公園で倒れているのを発見されたトニーは至近距離で数発撃たれていた。発見された時は撃たれてから数時間経過しており、出血多量で病院へ搬送時にはショック状態だったというニュースを、テレビは繰り返し伝えている。
震える手でチャンネルを回したペッパーの目に、血塗れのトニーが救急車に乗せられる映像が飛び込んできた。現場から中継しているレポーターの背後の地面は、トニーの血だろうか、真っ赤に染まっている。
「ど、どうしよう…」
頭が真っ白になり、何も考えられない。その場にペタンと座り込んだペッパーは、エストの泣き声で現実に引き戻された。
「そ、そうよ…電話…」
昨晩の着信を思い出したペッパーは、這うようにしてベッドルームへ向かうと携帯を取り出した。
トニーの一報を聞いたハッピーやローディ、それに両親から何件もの電話が掛かっていたが、トニーからの最後の履歴を開いたペッパーは残されたメッセージを聞こうと耳に当てた。
「ペッパー?…ハニー……すまな…か…た……あいし…てる……きみに……あい…た………」
か細く途切れそうなトニーの声は、ガタッという音と共に突然切れた。
「トニー…」
また彼のことを一人にしてしまった。とにかく人目も憚らず、大きな声で泣き叫びたかった。
だが、早くトニーの元に戻らなければ…。
泣き崩れそうになったペッパーだが、急いで身支度すると、部屋を出て行った。
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