I love you the way you are.

結婚式まで一ヶ月。
プレイボーイと名高かったトニー・スタークがついに結婚!そんなニュースをマスコミが放っておくはずもなく、ペッパーとの婚約を発表してから、二人は毎日…それも場所を問わずマスコミに追い掛け回されていた。しかも式は家族と友人だけで極秘に行うとなれば、情報を掴もうと必死なマスコミの追跡は、日々エスカレートしていたのだった。

そんなある日のこと。
今日はスターク・インダストリーズのパーティー。一年前…正確にはトニーとペッパーが恋人になってからなのだが…から始まった社員を労うためのファミリー向けのパーティー。ペッパーが考案したのだが、トニーもアイアンマンで登場し積極的に協力してくれるため、特に子供たちからは大好評となり、それから半年ごとに開催されているのだった。

パーティーも中盤に差し掛かり、一息つこうと会場の隅のテーブルに座ったペッパー。カクテル片手に彼の姿を探していると、部屋の中央付近で子供達に囲まれたトニーを見つけた。

子供を抱き上げ嬉しそうなトニーを見ていたペッパーの心に、ある思いが浮かんだ。

(トニーに自分の子供を抱かせてあげたい…)

子供については、幾度となく話し合ってきた。
恋人同士になった頃はトニーもペッパーもまだ親になる決心が付いておらず、それでもお互いの温もりを直に感じたいと、ペッパーは避妊薬を飲み始めた。
それから数か月が経ち、将来を誓い合った二人は子供を作ろうと話し合った。だが、その矢先に起きたあの誘拐事件。
自身も死の一歩手前まで行ったトニー。目を覚ました後もしばらくの間、まともに話すことすらできない程の重傷を負った彼とその問題について話したのは、事件から三週間ほどたったクリスマスの夜だった。

自分がアイアンマンである以上、多くの敵がペッパーを狙い続けること、そして子供が産まれれば…魔の手は必ず子供に向かうはず…。
『君たちが苦しむ姿は見たくない。傷つくのは私一人で十分だ…』
病院のベッドの上で、苦しそうに…辛そうにそう言ったトニーの姿がペッパーは忘れられなかった。
そしていつしか二人はこの話題を口にしなくなった。

***

「お疲れ様」
子供達から解放され戻ってきたトニーにペッパーは微笑んだ。
「参ったな。子供は元気なのが一番だが…あれだけの人数で来られると…」
ペッパーの隣に腰を下ろしたトニーは、大きく息を吐くと額の汗を拭った。
「あなたはみんなのヒーローだもの。みんなあなたに会えて嬉しいのよ」
ペッパーはハンカチを出すと、トニーの額に浮かんだ汗をぬぐいクスッと笑った。
「それにしても、子供はかわいいな。見ていて飽きない…」
差し出されたグラスを飲み干したトニーは、先ほどまで自分がいた場所を見つめた。
「あれが自分の子供だったら…」
口に出すつもりはなかった。だがその言葉はペッパーの耳にも入ったはず。
彼女が子供を欲しがっているのは知っている。それを自分勝手にも遠ざけているのは、他ならぬ己自身なのに…。
慌てて口を噤んだトニーは、バツの悪そうな顔をした。
「トニー…」
「いや、何でもない…」
彼女の瞳に一瞬浮かんだ困惑に気付いたトニーは黙ってしまった。

「すまない…ペッパー…」
しばらくして、ポツリとつぶやいたトニー。その瞳は悲しみに溢れており、ペッパーは涙をグッと堪えた。

誰よりも家族を求めている彼…。
恋人になった頃、『いつか子供ができたら、自分がしてもらえなかったことを子供にはしてやりたい』、そう嬉しそうに語っていたトニーを思い出したペッパー。
手を伸ばし抱き着くと、トニーは何も言わずペッパーの背中を撫で続けた。

どのくらいそうしていただろう。
永遠にも思えるその沈黙を破ったのはペッパーだった。
「ねぇ、トニー…。あのね…。あなたは素晴らしい父親になると思うわ…」
「…」
黙ったまま、背中を撫で続けるトニー。

いつからだろう。彼が子供を持つことを恐れているのは、敵の存在だけではないことに気づいたのは…。それは、彼自身の内なる問題であることを…。
この機会にハッキリさせたかった。その問題は、彼の杞憂であることを…。

「あなたが恐れているのは、『アイアンマンの敵』だけじゃないでしょ?」
トニーの膝の上に座りなおしたペッパーは、迷いの見える瞳を捉えるとトニーの頬にそっと手を当てた。

ペッパーには見抜かれていた。
プロポーズした日、一人誓っていた。迫り来る『敵』からは、彼女も将来生まれてくるであろう子供も、自らの命を犠牲にしてでも必ず守ると…。だが、問題は自分自身だった。幼い頃から父親には愛されていないと思っていた。その父親はやがて酒に溺れ、自分を見捨てた…。自分も同じだった。両親が突然この世を去った時、自分も酒と女に溺れた。ペッパーと出会ってからはそれらを断つこともできた。だが、いつかまた同じことをするのではないか…。極寒の海に消えたキャプテン・アメリカの捜索に家族を犠牲にしてまで執念を燃やしていたハワード・スタークの息子である自分もまた、アイアンマンというものに囚われているのだから…。

きっと彼女は分かっている。強がっている私の胸の奥底にある不安も弱さも、全て分かっている。それを受け入れてくれたからこそ、一生を共に過ごすと誓い合った。だから彼女には…この胸の内をいつか話そうと思っていた。今がチャンスなのかもしれない…。

大きく深呼吸をしたトニーは、言葉を選ぶように重い口を開けた。
「君には隠し事はできないな。そうだ。私が恐れているのは…君や子供を狙う敵だけではない。私自身だ…。私は親父の愛情を知らない。いや、知ってはいるが、愛され方を知らない。それにあの親父の血を受け継いでいる…。だから私も…」
それ以上続けられなかった。自分の弱さを…零れ落ちそうな涙を隠すように、トニーはペッパーの首筋に顔を埋めた。

それは、『トニー・スターク』という仮面の下に隠されたアンソニー・エドワード・スタークの弱さ。
とても脆くて危うい人間くさい本当の彼。そして本当の彼を知っているのは、私だけ…。
小さく震える背中を子供の様に撫で続けながら、ペッパーはトニーの耳元で囁いた。

「大丈夫…あなたは愛することを知っているわ。だって、私をこんなにも愛してくれているもの…。それに、あなたはお父さまとは違うわ。私には分かるの…。あなたはきっと世界一の父親になるわ…」

そしてその日から、ペッパーは薬を飲むことをやめた。

トニーは父親の愛情を知らないから、自分が父親になることを恐れてそう…

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