Happy Wedding

「ヴァージニア様、そろそろお願いします」
鏡の前に座り目を閉じていたペッパーは、その声にゆっくりと立ち上がった。

教会の静かな廊下を歩きながら、ペッパーは今日までのことを思い出していた。
初めて出会ったのは、もう二十年近く前の今日。それからお互い素直になれず、思いが通じたのはそれから何年もたったつい最近。
今までずっと一緒にいた二人。お互い求めあった結果、結婚することになったのはごく自然な流れだった。

森の中の小さな教会。
本当に心から祝ってくれる家族や友人のみを集めた小ぢんまりとした結婚式を望んだのはペッパーだった。そしてトニーもそれを快く受け入れてくれた。
ドアの前に立ったペッパーは大きく深呼吸した。
音楽と共にドアが開くと、目の前には光り輝く光景が広がっていた。
その光の中心の祭壇の前には、トニーが立っていた。黒のタキシードを着たトニーは、ペッパーの姿を見ると一瞬目を丸くしたが、すぐにその顔には笑みが浮かんだ。

走り飛び跳ねて行きそうな気持ちを堪え、ペッパーは祭壇に一歩一歩近づいていった。
最前列には両親と妹たちの笑顔が見えた。トニーの方には、ローディとハッピーと…そしてハワードとマリアの写真。

ゆっくりとトニーの元へたどり着いたペッパー。
差し出された手を取ると、トニーはニヤリと笑い囁いた。
「キレイだ。見とれたよ」
「ありがと」
そう。トニーがペッパーのウエディングドレスを見たのは、今日が初めて。
チラチラと何度も横目で見るトニーは、今すぐにでもペッパーにキスをし始めそうな勢いだ。
目の前で厳かに誓いの言葉を読み上げる神父に我慢できなくなったトニー。
「神父様、早くしてくれ」
思わず口から出たその言葉に、神父は目を丸くした。
「は?早くですか?」
(トニーったら…)
内心苦笑しながらも、同じ気持ちだったペッパーも後を続けた。
「そう、早くして。待ちきれないの」
ソワソワする二人に苦笑した神父は、咳払いを一つ。
「…分かりました。こんなことは初めてですが…。スタークさん、ポッツさん、誓いますか?」
「「誓います」」
「では、指輪の交換を…」
ペッパーのデザインした世界に一組しかない指輪。お互いの指に収まったのを見た神父は、お決まりのセリフを言いかけた。
「では、スタークさん。花嫁に…」
その言葉が終わらないうちに、トニーはペッパーのベールをあげると、身体を抱き寄せ唇を奪った。
ペッパーの背中に手を回したトニーは、軽く口づけするようなキスではなく、愛のこもった甘く蕩けるようなキスをし始めた。ペッパーもトニーの顔を両手で挟むと、口腔内を味わうように舌を絡めた。
キスに夢中な二人は、参列者…特にペッパーの父親が顔を真っ赤にしているのに気づいていなかった。

「お二人ともそろそろ…」
小声で囁いた神父だが、二人の耳には入っていない。ペッパーの父親であるテッドが大きな咳払いをして、ようやく二人は唇を離した。

***

式の後は、近くのレストランでパーティー。
スローテンポの曲がかかり始め、トニーとペッパーは皆が見守る中、踊りだした。
身体を密着させて踊る二人。ペッパーの額に自分の額を付けたトニーは囁くように話し始めた。
「あの日を思い出した…」
「あの日って?」
「ほら、君が背中の大きくあいたドレスを着て…」
「あの日ね。あなたが私をバルコニーに置き去りにした日」
苦笑したトニーは、ペッパーの頬に唇を滑らせた。
「そう、その日だ。よかったよ、ペッパー。君が私の妻になってくれて…。ありがとう…。愛してる…」
「トニー…永遠に愛してるわ…」
トニーはペッパーの頬を流れ落ちた涙をペロリと舐めると、柔らかな唇を奪った。

友人たちと盛り上がっていたペッパーだが、隣にいたはずのトニーの姿が見当たらない。キョロキョロと辺りを探すと、ペッパーの妹たちと楽しそうに踊っているのが見えた。
そこへ、
「ペッパー、踊らないか?」
と、やって来たのはトニーの親友のローディ。
「ええ、いいわよ」
ペッパーがローディの手を取ると二人は踊りだした。

「あいつのこと頼むな…。あいつには君しかいないんだ…」
小声でポツリとつぶやいたローディ。思わず顔を見上げると、彼の目は真剣だった。
「分かってるわ。任せて…」
にっこりと微笑んだペッパーにローディの顔にも自然と笑みがこぼれた。
「ありがとう、ペッパー。トニーの友人として礼を言うよ」
ペッパーが口を開こうとすると、背後からトニーの声が聞こえた。
「おい、ローディ。そろそろ妻を返してくれないか?」
「残念。ご主人が迎えに来たぞ」
笑いながらペッパーの手を離したローディは、トニーに「おめでとう」と抱きつくと、その場から立ち去った。
『主人と妻』という呼び名に喜びを隠しきれないトニーとペッパーは、抱き合い唇を激しく求めあった。
「なぁ、そろそろお開きにしないか?我慢できないんだ…」
「そうね。私も…」
ペッパーの潤んだ瞳を見つめたトニーは、ペッパーを抱き上げると入り口に向かって歩きだした。

二人が初めて出会った日=ペッパーがトニーの秘書になった日(6/12設定)

1人がいいねと言っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。