風邪引き社長
朝から何となく気だるい感じはしていたんだ。最近忙しく寝不足だからだと思い、たいして気にとめてなかった。
午後になり会社の自室で書類に目を通していると、ペッパーが入ってきた。
「社長、この間の件ですが…?…あら?…トニー!どうしたの?顔色が悪いわよ!」
手に持っていた書類を放り出し慌てて駆け寄ってくるが、私はそんなに酷い顔をしているのか?今朝から何人も顔を合わせているが、誰もそんなことは言わな かったぞ。
しばらく私の額を触ったり顔をじっと覗き込んだりしていたが、慌てて電話を取りあげた。
「ハッピー?今すぐ車を用意して頂戴!トニーを病院へ連れて行って くれる?…えぇ、私もすぐ戻るから…お願いね」
病院⁈ ということは…まさか…注射…!?
「ペッパー…まだ仕事が…」
受話器を置いた彼女に恐る恐る言うと、
「トニー!何言ってるの!仕事ですって?いつもはそんなこと言わないくせに!物凄い熱よ!もう、朝からあったに違いないわ!早く病院に行かなきゃ! もーっ!今日に限って私がいなかったから…」
ここだけの話…注射は…苦手なんだ…。
何とか回避しようと一人ブツブツつぶやく彼女に
「ぺ、ペッパー…大丈夫だ、寝れば治る。最近寝不足だったからきっと疲れが…」
と提案してみるも、眉間に皺をよせ鬼の形相で机をバーン!と叩いて一喝。
「ダメ!早く治さないとみんな困るでしょ!しかも寝不足って何よ?」
「寝不足は君の責任でもあるからな、ペッパー」
おい、寝不足の原因を知らないというのか?!
ほらみろ、高熱があると言われると、だんだん頭が朦朧としてきたぞ…。
ペッパーが「私の責任?!」と顔を赤くしていると、都合よくハッピーが現れた。
***
「風邪ですね。ゆっくり休んで下さい」
病院で点滴をしてもらうと、少し気分も良くなった。
帰宅すると
『おかえりなさいませ、トニー様。風邪と伺いました。部屋も暖かくしておきましたから、少しお休み下さい』
とジャーヴィスに言われたので、ラフな格好に着 替えるとベッドに横になった。
ベッドに入りうつらうつらしているうちに、眠ってしまったようだ。
気がつくとすっかり日も暮れ、辺りは薄暗くなっていた。
ベッドの中で軽く伸びをし、起き上がろうとした時、鼻孔をくすぐる香りと共にペッパーが入ってきた。
「トニー、具合はどう?」
手に持ったトレーをベッドサイドに置くと、ベッドに腰掛け私の額に手を当てた。
「おかげでだいぶよくなったよ」
額に触れる彼女の手のぬくもりを感じながら目を閉じる。
「熱も下がったみたいね…。スープを作ったんだけど、食べられそう?あら、汗びっしょりよ…先に着替えましょうね…」
甲斐甲斐しく世話を焼く彼女にされるがまま、汗で濡れたTシャツを着替え、彼女特製のスープを食べると空腹も満たされ、私は小さく欠伸をした。
「さすがペッパー・ポッツ。そこらのレストランとは比較にならないほど美味いスープだったよ。君はやはりレストランを開くべきだな。」
彼女は嬉しそうに笑うと
「ありがとうトニー。そう言ってもらえると嬉しいわ。でも薬を飲んだら休んでね。明日の朝は元気になったあなたに会いたいから…。おやすみなさい」
私の額に甘いキスを一つ落とすと、ペッパーは部屋から出て行った。
たまには熱を出して寝込むのもいいもんだな…。
シーツを頭から被ると、今日のお礼に明日はたっぷりキスをしようと考えながら眠りについた。