突然のプロポーズ
「あ、そうそう、トニー、赤ちゃんできたから…」
夕食後、ソファに座りコーヒーを嗜んでいる時だ。何の前振りもなく突然の、しかもまるで何か買って来たかのような口調での発表に、私は飲んでいたコーヒーを盛大に噴き出した。
「キャー!トニー!何してるのよ!」
慌ててそこに転がっていた布で飛び散ったコーヒーを吹き始める彼女。
ちょっと待て!それは私のシャツだ!
しかもオーダーメイドで、つい先日届いたばかりの…。
無残にも褐色に染まってしまった真っ白なシャツを握りしめながら、今度はモジモジしている彼女に恐る恐る声をかける。
「ね、念のため聞くが…いや、間違いなくそうなんだが…私の子ど…」
その言葉を言い終わらないうちに、眉間にシワをよせ目に涙をためた彼女は、手に持っていたシャツを怒りに任せて丸めると私に投げつけた。
「何言ってるのよ!あなた以外考えられないでしょ!私はあなたとしかヤってないわ!それとも私が浮気でもしてるって言うの?!それにあなたったら、別に気にする風でもなく、年がら年中好き放題にヤリまくるし、いつだって私の中に出したいほ…ムグっ!」
これ以上放っておくと何を言い出すか分からない、慌てて彼女の口を手で抑えた。
「違う!別に君が浮気したとか、私と以外にとかいうんじゃない!何て言うか…。か、確認したかったんだ!まだ君ときちんと籍も入れてないのに、私にはちゃんと父親になる資格があるのかどうか…」
情けないことに最後の方はモゴモゴと小声になってしまったが、その言葉に彼女はピタッと動きを止めると私に思いっきり抱きつき唇にキス。
グエッ!
ひ、膝が思いっきりあそこに…。
突然の痛みに悶絶する私をよそに
「トニーったら、あなたは立派なパパになれるわよ!何たって、あなたと私の子よ!下まつ毛の長い世界一カワイイ赤ちゃんに決まってるわ!男の子かしら?女の子かしら?あーん、もう楽しみー!!」
と、キャーキャー騒ぐペッパー・ポッツ。
…た、頼むから私の膝の上で飛び跳ねるのはやめてくれ…。
***
「…や、やめろ、く、くるしい…」
「…トニー?トニー?大丈夫?」
目を開けると心配そうに私を見つめる彼女がいた。
シーツをめくり飛び起き、慌てて横を見ると彼女は露わもない格好をしていた。
「こんな格好をしていたら子どものためによくないだろう!」
ベッドの下に転がっていた私のシャツを掴み彼女の肩にかけると、彼女は目を丸くした。
「トニー、何言ってるの?子供って?私、妊娠してないわよ?あなたこそ、うなされて汗びっしょりだわ…」
妊娠してない??
…ん?そうか、夢だったのか…。
突然笑いだしベッドに倒れこんだ私の様子にペッパーは
「熱でもあるんじゃないの?」
とオロオロし始めた。
いや、夢じゃない…私が心の片隅で待ち望んでいることかもしれない。
彼女と子供に囲まれた幸せな家庭を気づくこと。自分にはなかったものを作り上げること。
そろそろ本当にちゃんとしなければならないというお告げかもな…。
状況が分からずアタフタと私の額に手を当てたりしている彼女の手を引っ張った。
「きゃあ!もう、トニーったら、何なのよ?」
と小さく抗議の声をあげながら、私の方へ倒れこんできたところをギュッと抱きしめると、耳まで真っ赤になっている彼女の耳元で囁いた。
「ペッパー、結婚しよう」