未来編の “I stand up again and again.”後のお話です。
9月27日…それは、トニー・スタークの最愛の女性であり妻であるペッパーの誕生日。
以前は誕生日すら覚えていなかったトニーだが、恋人にそして妻になった今では、サプライズパーティーを開き、そしてプロポーズも誕生日に合わせてするなど、毎年のように彼女を泣かせてきたのだったが…。
「仕方ないでしょ?」
鏡の前で身だしなみを整えながら、ペッパーはベッドに潜り不貞腐れている夫に声を掛けた。
今年も何かサプライズを用意してくれていたのだろう。ペッパーも楽しみにしていたのだが、運悪く急に出張が入り、これからDCへ向かうペッパーが帰るのは 3日後だ。一緒に行くと言いたかったトニーだが、残念なことに明日は大切な会議があるため同行できないという最悪な事態。
結婚して初めての誕生日。それも、あの事故で大怪我を負ったトニーも、そして悲しい経験をしたペッパーもやっと回復したばかりで、言葉には出さないが二人きりで過ごしたいとお互い思っていたのに…。
何も言わないトニーは、完全にシーツの中に潜り込んでしまい、くぐもった声を出した。
「気を付けて行って来い」
不機嫌なその声には、いつもの元気がない。
(もう、子供みたいなんだから…。でも、あなただけじゃないのよ…)
ため息を付いたペッパーは、ベッドに近づくとシーツの山を突ついた。
「ねぇ?いつものいってらっしゃいのキスはないの?」
「……」
黙ったままのトニー。あくまで無言を貫く気のようだ。
「トニー、私も残念なのよ。あなたと二人きりで過ごしたかったわ。でも…仕事なのよ?仕方ないわ…」
囁くような声が段々と涙声に変わったのに気付いたトニーは、モソモソとシーツから顔を出すとペッパーを見つめた。最愛の妻の目に涙が浮かんでいるのを見たトニーは、自分の子供じみた振る舞いのせいで悲しませてしまったと、後悔した。
(せっかくの誕生日に何をやっているんだ…)
起き上がったトニーは、俯いたままのペッパーを抱きしめた。必死で泣くまいと耐えているペッパーは小さく震える腕をトニーの背中に回した。
「ハニー、すまない。誕生日に愛する妻を悲しませるなんて、最低の夫だな…。許してくれ。帰ってきたら最高のプレゼントを渡すよ」
頭を撫でながら耳元で囁くと、顔を上げたペッパーは、頬に流れる涙を拭った。
「何を用意してくれてたの?」
ペッパーの頬に軽く口づけしたトニーは、悪戯めいた笑みを浮かべた。
「最高の夜をだ…。海辺のレストランで食事をして、君が泊まりたいと言っていたホテルのスイートルームで愛を語り合おうと思っていたんだが…。君が帰って来てからに延期だな?」
先ほどまで拗ねていたのが嘘のように、優しいキスをしたトニーはペッパーを立ち上がらせた。
「さぁ、ハニー。そろそろ時間だろ?気を付けて行って来いよ。そうだ。誕生日おめでとう。愛してるよ、ペッパー」
唇に甘いキスをしたトニーの首元に手を回すと、ペッパーも愛の言葉を囁いた。
「私も世界一愛してるわ」
迎えに来たハッピーの車で空港へ向かったペッパーは、自家用ジェットに乗り込むと、ヒールを脱ぎ捨て身体を伸ばした。
そこへ、キャビンアテンダントが何やら大きな箱を持って現れた。
「ペッパー様、トニー様からこちらをお預かりしています」
箱を受け取ったペッパーは、テーブルの上に置き蓋を開けると思わず小さく声を上げた。
箱の中にはハート型をしたケーキ…それも、飴でできたたくさんのリボンや花で飾られたケーキは特注品だろう。そして、真ん中には、サファイアの輝く指輪が鎮座しているではないか。
「素敵…」
一緒に祝えない代わりにケーキだけでも…ということだろう。指輪をはめたペッパーは、小さなメッセージカードを手に取った。
『愛するペッパー
君がいるから私は頑張れる。いつも支えてくれ、そして愛してくれてありがとう。誕生日おめでとう』
「帰ったら思いっきり愛してね?」
メッセージカードを抱きしめたペッパーは、指輪にキスをすると遥か眼下となったマリブの海を眺めたのだった。