七夕 2013年

「ねぇ、トニー。知ってる?今日は七夕っていう日なんだって」
7月7日。バルコニーのソファーに座りワイン片手に星空を眺めていると、ペッパーが何か思い出したように話し始めた。
「七夕?何だ、それ?」
そんなものは聞いたこともないし、カレンダーにも書いてない。いくら物知りのトニーと雖も『七夕』という言葉は聞いたことはなかった。首を傾げたトニーに向かい微笑むと、ペッパーはグラスをテーブルの上に置き、トニーに身体をすり寄せた。
「あのね。日本や中国には古い言い伝えがあるの。天の神様の娘である織姫と牛飼いの彦星が夫婦になるんだけど、二人で過ごす時間が楽しくて、結婚前は働き者だったのに二人とも働かなくなるの。それを天の神様は怒って、二人を天の川という川で引き離してしまったの。でも、夫婦なのに会えないのはかわいそうでしょ?そこでね、神様は7月7日の七夕の夜にだけ、織姫が天の川を渡って彦星に会えるようにしたのよ。一年に一回だけの逢瀬…素敵なお話でしょ?」
目をキラキラさせたペッパーは、
「今日はお天気だから、二人ともちゃんと会えたわね」
と、星空を見上げた。
「へぇ…」
そんなペッパーを見つめていたトニーだが、隣に座るペッパーの腰を抱き寄せた。トニーの身体に腕を巻きつけたペッパーは、上目遣いで見上げると甘えた声を出した。
「一年に一回しか会えないなんて、切ないわね…。トニーならどうする?もし、私たちが織姫と彦星だったら?」
(なるほど、そういうことか…)
ロマンティックな答えでも待っているのだろう。一見硬そうなペッパーだが、こういう少女のような可愛らしい一面を持っているのだ。だが、例え彼女を喜ばせるためでも架空の話などしたくないトニーは、期待に満ちた瞳で見つめるペッパーの頬を優しく撫でた。
「答えは決まってるだろ?一年に一回?365日中24時間で君への愛を囁ききれるわけないだろ?一日でも離れるのは嫌だ。我慢できるわけない。もしそんな状況になっても、私は何としても毎日君に会いに行く。私は天才だ。抜け道はきっとあるさ。だからそれを見つける」
どうだというように鼻を鳴らしたトニーの得意げな顔を呆気に取られて見つめるペッパー。
少しでもロマンティックな答えを期待したい自分がバカだった…と小さくため息をついた彼女の手を引っ張り膝の上に座らせると、トニーは顔中にキスをしながら囁いた。
「そういう君はどうなんだ?私とは一年に一回会えればいいのか?」
そう言われれば、せっかくの七夕の夜だが非現実的なことを考えたくはなかった。
「そうね…私も同じ。一日たりともあなたと離れたくないもの…。一年に一回だなんて、気が狂いそうだわ。例え世界中の人から反対されても、私はあなたのそばにずっといたい…」
トニーの首に腕を回したペッパーは唇をそっと合わせた。しばらくその柔らかな感触を味わっていた二人だが、トニーの下唇を吸い上げるように唇を離したペッパーは、その逞しい胸元に顔をすり寄せた。
「でもね、トニー。織姫と彦星みたいに、何百年経ってもいつまでも愛し合える存在でいたいわね…」
ペッパーの背中を撫でていたトニーは、
「たった何百年でいいのか?何千年でも何万年でも…。いや…星になっても永遠にそばにいて君と愛し合うからな…」
と言うと、甘い香りを放つ身体を押し倒し、満天の星空の下で彼女の首筋にキスを刻んでいった。

ロマンティックな答えを期待しているペッパーとは対照的に現実的な社長

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。