「まま!さんたしゃん、くる?」
リビングに飾られた大きなツリーを見上げながら、自分が入れそうなくらい大きな靴下を握りしめているのはもうすぐ3歳になるトニーとペッパーの愛娘エステファニア。
「そうね。もうすぐ来るかもね」
テーブルの上にディナーを並べながら微笑むペッパー。
今日はクリスマス。打ち合わせではサンタに扮装したトニーがもうすぐやって来ることになっているのだ。
「ぱぱ、おそいね…」
やけに帰りの遅い父親。
「ぱぱ、かえってこないね。さんたしゃん、くるのにね」
大人の事情など理解できないエストは、窓際に走って行き、窓の外を眺め始めた。
15分ほどたっただろうか。
シャンシャン…
外から鈴の音が聞こえ始め、外を眺めていたエストが大きな声で叫んだ。
「あ!さんたしゃん!まま!さんたしゃん!!!」
エストが玄関へ向かって走り出したと同時に、呼び鈴が鳴った。
「さんたしゃ…」
ドアを開けたエストは口をぽかんと開けたまま固まってしまった。というのも…ドアの向こうにいたのは、トナカイの引くそりに乗ったサンタクロース。
こっそり陰から覗いていたペッパーだが、予想外の光景にひっくり返りそうになった。
と、トニー?!本格的すぎるわ!!!
そのトナカイ!どこから連れてきたのよ?!
…あら?でも…トニーにしては…背が高くない??
固まったまま動かないエストの頭をサンタは笑いながら撫でた。
「エステファニアちゃんかい?」
サンタの声に我に返ったエストは、満面の笑みを浮かべた。
「あい!えちゅとよ」
「エストちゃんはいい子だから、プレゼントを持ってきたよ」
「わーい!ありあと!さんたしゃん!!」
そこへ
「ただいま」
と帰ってきたのはトニー。
あら?トニー?!じゃあ…あのサンタは誰?!
状況が理解できず目を白黒させるペッパー。
そんなペッパーをよそに、エストは待ちに待った大好きな父親の帰宅に喜び、足にしがみついた。
「ぱぱ!おかえり!さんたしゃんよ!!」
目の前にいるのだから気付いているはずなのに…トニーは大袈裟に驚いた。
「き、君は!!もしかして…」
そんなトニーに合わせるように、サンタも演技を始めた。
「スター…いや、あなたがエストちゃんのお父さんですか?サンタクロースです」
「トニー・スタークだ。初めてお目にかかるな」
握手を交わす二人。
サンタの声に、中の人物が誰だかピンときたペッパー。
トニーったら…スティーブを巻き込んだわね…。
父親とサンタの熱い握手を見ていたエストだが、トニーから離れるとサンタの服を引っ張った。
「さんたしゃん!あのね!これ、あげゆ!!」
エストは手に持っていた小さな袋をサンタに渡した。
「何だろう?開けてもいいかな?」
エストの目線に屈んだスティーブ…いや、サンタは袋を開けた。
「クッキーかい?エストちゃんが作ったのかな?」
中に入っていたのは、ペッパーとエストが作ったツリーやトナカイの形をしたクッキーだった。
「ままとね、つくったの。どうじょ!」
「ありがとう。家に帰ったら食べるよ」
エストの頭を撫でるとサンタは立ち上がり、そりに乗った。
「エストちゃん、いい子にしていたら来年も来るからね」
「さんたしゃん!ばいばい!!」
そりに乗って帰って行くサンタを、エストは小さな手を力いっぱい振って見送った。
「ぱぱ!まま!さんたしゃん!しゅごいね!となかいちゃんも!!!」
大興奮のエストは、早速プレゼントを開け始めた。
中には、前からエストが欲しがっていたディ○ニーのおままごとセットが入っていた。
「ままといっちょ!!!いっちょ!!」
小さな手を叩いて喜ぶエストを、トニーとペッパーは嬉しそうに見つめ続けた。
*****
「去年は泣いてたのになぁ…」
ベッドの中でぐっすり眠るエストの顔を眺めながらトニーはつぶやいた。
去年のクリスマス。サンタの格好をしたトニーを見た瞬間、エストはペッパーに抱きつき泣き出したのだった。
「この子も成長したのね…」
トニーとペッパーはプレゼントのダッ○ーとシェ○ーメイの大きなぬいぐるみを枕元に置くと、そっと部屋を出た。
「ねぇ、あのトナカイ、どうしたの?それに、スティーブまで巻き込んで…」
寝室に戻ったペッパーはベッドに潜り込むとトニーに抱きついた。
「あぁ…実は…」
頭を掻きながら話し始めたトニー。どうやら、2、3日前にエストとテレビを見ていた時、「さんたしゃん、ぱぱなの?」と聞かれたらしい。そこで、どうせクリスマスは暇だろ?とスティーブに声をかけたところ、エストのためなら…とスティーブものってくれたらしい。そして、昨日S.H.I.E.L.D.のクリスマスパーティーになぜかトナカイを連れてきた者がいたらしく、それも拝借してくれたらしい。
「そうだったのね。びっくりしたわ」
笑うペッパーにトニーも苦笑い。
「まさかトナカイまで出てくるとは思っていなかったからな。私も正直驚いたんだよ」
ペッパーの首筋に顔を埋めたトニーはキスを繰り返した。くすぐったそうに笑ったペッパーは手を宙に掲げた。
「いつもありがとう…」
そこにはトニーから贈られた指輪がキラキラときらめいていた。
「いや、ありがとうと言うのはこっちだ。あれを付けると君とエストといつも一緒にいる気になれる」
「あなたって何でも持ってるから…。でも、あれならどこでも付けてもらえるでしょ?」
ペッパーからはカフスとラベルピン。3人の名前とリアクターをあしらった世界で一つだけのオリジナルのものだ。
その言葉に口元を緩めたトニーは、ペッパーの両手首を掴むと身体を組み敷いた。
「君とエストがそばにいてくれることが最高のプレゼントだよ。あとは…聖なる夜をプレゼントしようと思うんだが…。受け取ってもらえるかな?ヴァージニア?」
首を伸ばしトニーの口の端にキスをすると、ペッパーはニッコリと微笑んだ。
「えぇ、アンソニー、喜んで…」
トニーは部屋の灯りを消すよう指示を出すと、薄暗い部屋の中でも煌めくペッパーの身体に唇を這わしたのだった。
エスト2歳。
トナカイを調達したのは、キャップに頼まれたコールソンさん