ペッパーが目を覚ますと、つい二時間ほど前まで自分を抱きしめていたはずのトニーは隣にいなかった。
「あら?どうしたのかしら…」
眠い目を擦りながら、何も着ていない身体にシーツを巻きつけたペッパーは、ベッドサイドに置いてあるものに気付いた。
ペッパーの大好きなイヴァン・ヴァレンティンのトリュフにカード、そしてバラの花が一輪挿してある大きな白い箱。
カードにはトニーの直筆で『今夜6時、フォーシーズンズホテルで T』と書かれている。
トリュフを1粒口に放り込んだペッパー。甘く香ばしい香りが口の中に広がり、ペッパーは頬を緩めた。
「何かしらね?」
バラの花をそっと脇に置いたペッパーは、大きな箱をベッドの上に置き蓋を開けた。
中には黒のワンピースと、靴、そしてワンピースに似合うようなジュエリーが入っていた。
「素敵!」
ベッドの上で飛び跳ねたペッパーは、今夜のことを思い浮かべ、少女のように胸をときめかせた。
慌しくシャワーを浴び、Tシャツとショートパンツを履いたペッパーは、贈り主の姿を探すべく、一階へと降りて行った。
だが、リビングにもキッチンにもその姿はない。
「ジャーヴィス、トニーは?」
「ペッパー様、トニー様は一時間半ほど前、フューリー様に呼び出され出掛けられました」
一時間半前って…。トニーったら全然眠ってないじゃないの?大丈夫かしら…。
ラボで状況を把握することも出来るが、そんなことをしてもますます心配になるばかり…。
ラボに向きかけていた身体をクルリとまわすと、あくびをしたペッパーは寝室へと引き返した。
♡ ♡ ♡
17時55分。
指定されたホテルに少し早めに到着したペッパー。トニーから贈られたワンピースは、ペッパーのスレンダーな身体を引き立たせ、そして耳元と胸元を飾る宝石は、ホテルのロビーにあるシャンデリアよりも光り輝いていた。
いつも早めに行動するトニーだが、今日はその姿が見えない。
「まだ時間じゃないもの…」
入り口が見える位置に座ったペッパーは、時計を見ながら恋人を待った。
18時過ぎてもトニーは現れない。
(おかしいわね…連絡もないなんて…)
立ち上がったペッパーは、入り口へ向かった。
(もしかしたら、何かあったの?)
今朝出かけた理由が理由だけに、不安になったペッパーは、時計が15分を指したのを確認すると、携帯を取り出した。
その時、猛スピードで入って来た一台の車が銀色の車体を光らせながら、ペッパーの目の前に停車した。
「ペッパー!遅れてすまない…」
車から飛び出してきたのは、トニー・スターク。余程急いでいたのだろう。スーツ姿だが、ネクタイは手に持ったままだ。トニーの無事な姿を見たペッパーは、ホッと息を吐いたが、顔を見た瞬間、眉間に皺を寄せた。
「トニー…大丈夫なの?」
トニーの左頬と額には切り傷があり、特に左頬の傷は深いのだろう。バンドエイドを貼ってはいるが、血が滲み出ていた。
近づいてきたトニーの傷のない右頬をそっと撫でたペッパー。泣き出しそうな瞳を捉えたトニーは、安心させるようにニヤッと笑った。
「大丈夫だ。大したことはない。それより、連絡もせずにすまなかった」
トニーの言葉に頭を振ったペッパーは、歩きだしたトニーに寄り添うように右腕を掴んだ。
「っ!」
小さな唸り声をあげたトニーは顔をしかめた。
「ペッパー…左腕にしてくれ」
「怪我しているの?!」
眉毛を吊り上げたペッパーはまだ何か言おうとしたが、その前にトニーの唇で口を塞がれた。
♡ ♡ ♡
トニーが予約していた最上階のレストランで、美味しいディナーを食べた二人は、豪華なスイートルームにいた。
「トニー、先にどうぞ」
トニーがバスルームへ向かったのを確認したペッパーは、カバンの中からある物を取り出した。
(これで喜んでもらわなきゃ…ね)
ゴソゴソと用意していたペッパーは、トニーが出てきたのを確認すると、カバンを掴み楽しそうにバスルームへ向かった。
シャワーを浴びたペッパーは、特別な夜にだけ使うことにしている、ジョー・マローンの薔薇の香りのするボディークリームを付けた。そして、今夜のために買っていた下着を付けるとバスローブを羽織った。
「うん!完璧!」
鏡で笑顔を確認したペッパーは、ドアをそっと開けると、トニーの待つベッドルームへ向かった。
キングサイズのダブルベッドの中央で、トニーは大の字になっている。
「トニー」
甘い声で囁いたペッパーだが、返事がない。
不審に思ったペッパーが、そっとベッドへ近づくと、トニーはイビキをかいて眠っていた。
「ウソ…」
ベッドへ上がりトニーの横に座り込んだペッパーは、トニーの鼻をそっと摘まんだ。だが、いつもなら目を覚ますはずのトニーなのに、熟睡しているのか、一向に起きる気配がない。
「完全に寝ているわね…」
せっかくのバレンタイン。このホテルを予約していたということは、少なからずトニーも期待していたということだろう。
だが、ここ二、三日忙しく深夜になって帰宅していたのに加え、今日は一睡もしていない状態で、一日アーマーを着て任務を遂行していたトニー。
「余程疲れているのね…」
起こさないようにそばに横になったペッパーは、身体をすり寄せ右腕をトニーの身体を巻きつけた。
「ふふ…たまにはこういうのもいいわよね…。今日はありがと。トニー、愛しているわ…」
痛々しく残る左頬の傷にそっと口づけをすると、トニーは幸せそうに「ぺっぱー…」とつぶやいた。
♡ ♡ ♡
翌朝、トニーが目を覚ますと、カーテンの隙間からは日の光が差し込んでいた。
左腕に心地よい重みを感じ、寝ぼけ眼で横を向くと、ペッパーが幸せそうな顔をして眠っている。
(今、何時だ?)
まだ覚醒しきっていない頭でベッドサイドの時計を見たトニーは、飛び上がった。
(朝の6時…?!朝だと?!)
ベッドに起き上がったトニーは、頭をフル回転させ、昨晩のことを思い出そうとした。
(昨日は、先にシャワーを浴びて、ペッパーが出てくるのを待っていたよな…。あの時は21時過ぎだった…。そこから記憶がない…。もしかして…私は眠ってしまったのか?!)
せっかくのバレンタイン。とんだ失態を犯してしまった…。
トニーが頭を抱えていると、目を覚ましたペッパーがトニーの腕を掴んだ。
「おはよ…トニー」
ニコニコと嬉しそうなペッパーをしばらくポカンと見つめていたトニーだが、ベッドの上で姿勢を正すと、頭を下げた。
「すまない…ペッパー!昨日は…その…眠ってしまったようで…」
トニーの言葉を黙って聞いていたペッパーだが、クスリと笑うとトニーに抱きついた。
「ホントよ。私、楽しみにしていたのに…。でもね、いいの。だって、あなた、疲れていたでしょ?それにね、私といる時はリラックスしてくれているんだなぁ…って思ったの。だからね、いいのよ」
トニーの額に自分の額をつけたペッパーは、唇にそっとキスをした。
「確かに、君といる時はリラックスしているが…リラックスしすぎたようだ…」
苦笑したトニーは、ペッパーの柔らかな唇を味わうようにキスをした。
(キスの続きをしたい…だが、もう朝だ…。さすがにマズイか?)
そんなことを考えていたトニーは、ペッパーに押し倒された。
「ぺ、ペッパー?!」
考えていたことを見透かされたようで、トニーの顔は真っ赤だ。
「ねぇ、トニー…。まだ時間あるでしょ?私ね、あなたにまだプレゼントを渡してないの。一日遅れちゃったけど、受け取ってくれる?」
「あ、あぁ…」
クネクネとしなを作りながら、ペッパーはトニーの腹の上に跨った。そして、バスローブの前を開けると、胸元に両手を滑らせた。
トニーは手を伸ばし、ペッパーのバスローブを緩めようとしたが、その手を掴んだペッパーは、身を屈めトニーの唇に甘く熱いキスをした。お互いの舌が絡み合い、トニーはペッパーの胸元から手を入れようとしたが、それに気付いたペッパーは、銀色の糸を引きながら唇を離した。
「ダメよ、トニー…。プレゼントっていったでしょ?」
身体を起こしたペッパーは、バスローブの紐を緩めた。
そして、胸元に手を入れ、バスローブを片側ずつずらしていった。
徐々に露わになる白く美しい肌。バスローブを胸元までずらしたペッパーは、手を離した。ベッドの上にハラリと落ちるバスローブ。それと同時に、ペッパーの 下着姿が晒された。真っ赤なそしてどうやって隠しているのだろうと思うような下着姿のペッパーに、トニーの目は釘付けだ。
そして、自分の腹の上で繰り広げられるストリップショーのような光景に、トニーは思わず口笛を吹いた。
「最高だな。どうしたんだ?そのセクシーな下着?」
嬉しそうなトニーの笑顔を見たペッパーは、トニーの耳元に顔を近づけた。
「今日のために買ったの…」
囁きながらトニーの耳たぶを甘噛みすると、トニーは身体を震わせた。
トニーの吐息が甘い物に変わったのに気付いたペッパーは、再び身体を起こすと後ろを振り返った。トニーの下腹部のものが下着の中で苦しそうにしているのを 横目で見ると、自分はブラジャーを外し、放り投げた。そして胸を両手で掴むと、トニーがするように揉みほぐし始めた。次第に立ち上がる先端、身体はほんの り朱色に染まり、ペッパーは自然とトニーの腹の上で腰を動かし始めた。
自ら乱れるペッパーの妖艶な姿に、トニーは我慢できなくなっていた。
「ペッパー…そろそろ頼む…」
トニーの切ない声に、ペッパーは膝立ちになると、自分の下着を脱ぎ、続けてトニーの下着を脱がせた。
勢いよく飛び出した熱い塊をそっと握ったペッパーは、先端に口づけするとトニーの顔を見て笑った。
「トニー、ハッピーバレンタイン…」
その何とも言えない笑顔に、トニーもとびっきりの笑顔を向けた。
「ペッパー…最高のプレゼントだ…」
トニーの言葉に微笑んだペッパーは、再びトニーの上に跨ると、掴んだものの上に腰を落としながらつぶやいた。
「でも…まだまだよ…。これも受け取ってね…」
一日遅れのバレンタインは、チョコより甘い一日となった。