Grandparents’ Day(トニペパ親子)

「パパ?もうすぐおじいちゃまとおばあちゃまのひだね?」
9月に入ったある日曜日、眠い目を擦りながらキッチンへ降りてきたトニーは、待ち構えていた娘に質問された。
「え…」
突然何を言うんだ?と、まだ寝ぼけた頭でトニーが考えていると、エストは悲しそうな顔をした。
「あのね…ママのおじいちゃまとおばあちゃまはいるのに、どうしてパパにはいないの?」
Grandparents’ Dayには、毎年ペッパーの両親がLAまでやって来て、食事をしたりカワイイ孫と遊んで帰るのが、ここ数年の恒例の行事になっている。だが、トニーの両親 にはもちろん会ったこともなければ、写真すら見せたことがないかもしれない…。そう、トニーはエストには亡き両親のことを話していなかった。
まだ小さいから分からないだろう…と思っていたが、いつの間にかそういうことを理解できる年になったのか…。
「エストね、パパのおじいちゃまとおばあちゃまにあいたい…」
口を尖らせたエストだが、今は亡き両親には会わせたくても会わせられないのだ。
どうやって説明すればいいんだ?と頭を捻らせていたトニーだが、ペッパーが横から助け船を出してくれた。
「トニー、お父様とお母様に会いに行きましょ?」

妻と子供たちを連れてやって来たのは、ハワードとマリアの眠る墓地。
昔はあまり足を運んでいなかったこの場所も、ペッパーと恋人になり結婚してからは、自分が来られない時は彼女が時折足を運んでくれているため、常に母親が大好きだった薔薇の花束が飾られていた。
「ここにパパのパパとママが眠っているんだ」
寄り添うように並んだ二つの墓標。父親と母親の名前が刻まれた部分にそっと触れたトニーは、そばに立つエストの手を取ると手を重ね合わせた。
「おじいちゃまとおばあちゃまのおうち?」
家といえば家なのだろうか。ただ確かなことは、この下で父親と母親は永遠の眠りについていること。背後からエストを抱きしめたトニーは、静かに語り始め た。
「そうだ。おじいちゃんとおばあちゃんは、ここにいるんだ。あのな、エスト。おじいちゃんとおばあちゃんは、ずーっと昔にいなくなったんだ。だから、ママにもエストとエリにも会ったことはないんだ。でもな、おじいちゃんとおばあちゃんは、空からエストとエリと…それにパパとママのことも見守ってくれているんだ」
父親はうんと昔に両親を亡くしたらしいと、幼いなりに理解したエストは、クルリと向きを変えると父親に抱きついた。
「パパにはパパとママがいないの?パパ、かわいそう…」
涙ぐんだエストは、トニーのジャケットをギュッと握りしめた。嗚咽を漏らし始めた娘の背中を撫でたトニーは、眠っているエリを抱き歩いて来たペッパーの手をそっと握った。
「いや、違うぞ。パパにはママとエストとエリがいる。だから、パパはさみしくない。それに、おじいちゃんとおばあちゃんは、パパが辛い時に何度も夢の中でパパのことを助けてくれたんだ」
父親の両親は姿こそ見えないが、自分たちを…そして父親を見守ってくれている。
涙を拭ったエストは、トニーに向かい笑顔を浮かべると、小さな手で墓標を撫でた。
「おじいちゃまとおばあちゃま、エストにあえてうれしいかなぁ?」
その笑顔はペッパーにそっくりなのだが、どことなく記憶の中にある母親に似ている気がした。
「当たり前だ。おじいちゃんもおばあちゃんも、エストとエリが会いに来てくれて喜んでるぞ?」
頭をくしゃっと撫でると、エストは照れ臭そうに笑った。
「エストもね、おじいちゃまとおばあちゃまにあえて、うれしいよ」

隣に立つペッパーの手を握り直したトニーは、背後に気配を感じ振り返った。もちろん、そこには誰がいるわけでもないのだが、目線の先にある大きな木をじっと見つめたトニーはゆっくりと目を閉じた。
遠い昔、まだ自分が本当に幼かった頃。父親と母親と三人で大きな木の下で遊んだ記憶を思い出したトニーは、目から零れ落ちそうになった涙をぐっと堪えた。その瞬間、暖かく心地よい風がトニーたちの周りに吹いた。
生きている時は感謝などしたことなかったトニーは、両親の墓標の前で一人静かに祈り続けた。
(親父、お袋…ありがとう。これからも見守っていてくれ…)

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