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The best thing my dad ever made.③

腕時計を奪われ目隠しをされたペッパーは、どこに向かっているのか探ろうとした。30分ほど走ると、車は止まった。すると今度はヘリコプターに乗せられた。こうなると、どこに向かっているのか分からない。小一時間ほど飛んだヘリコプターは、何処かに降り立った。目的地に到着したのか、手を引っ張られ、建物の中に入った。階段を降り、地下へ向かうようだ。
コツコツと足音だけが耳についた。ギイっと鈍い音がして、埃っぽい部屋の中に放り込まれたところで、ようやくペッパーは目隠しを外された。窓のない冷たい部屋には、古びたマットレスがポツンと置かれていた。そして部屋の隅には水の入った小さなポリタンクが置かれていたが、それ以外は何もなかった。
「ここにいろ。旦那を連れてきてやる」
男たちが部屋から出ていくと、ドアが閉まり、その場は暗闇に覆われた。

***

「どうです?スタークは」
硬い台の上に寝かされたトニーは、苦痛に顔を歪め呻き声を上げている。口からは血が溢れ、身体から流れ落ちている血は、床の上にも広がり始めた。
トニーの状態をチェックしていたのは、神経質そうな若者だった。が、その顔には表情はなく、冷酷な視線でトニーを見つめた若者は、血塗れの足を持ち上げた。途端にトニーの全身を、突き刺すような痛みが走った。
「うわぁぁ!!!」
あまりの痛みにトニーが悲鳴を上げた。すると若者は、
「うるさい!」
と叫ぶと、腹に刺さったミサイルの破片を押し込んだ。破片がさらに身体の奥深く突き刺さり、トニーは悲鳴を上げ続けた。
「酷い状態ですよ。生きているのが不思議なくらい。両足の骨は粉々ですし、背骨も折れてます。肺も一つ潰れているみたいですね。腹の中にもミサイルの破片が山ほど埋もれてます。取ってあげてもいいですけど、このままにしていても、すぐに死にますよ」
ククっと笑い声を上げた若者は、壊れ妙な方向に曲がっているトニーの右腕の義手を撫でた。
「これだけは取ってあげましょう」
右の脇腹に食い込んでいる義手をもぎ取ると、血が噴き出した。パッと飛び散った血飛沫を浴びた若者は、それをペロリと舐めると、悲鳴を上げ続けているトニーの首元に注射器を刺した。
「スタークさん、少しは静かにしてください」
すると、大きく息を吐いたトニーは眠り始めた。

手についた血を拭っている若者に、年配の男が尋ねた。
「どうします?計画が台無しです」
すると若者は、トニーの眠っている寝台を蹴った。
「予定を変更するしかないでしょ?彼は放っておけばそのうち死にます。このままにしておいてもいいですが、彼の奥さんがお待ちですよ。部屋に閉じ込め、この建物は爆破して、生き埋めにしましょう。そうすれば、誰にも気付かれることなく、2人とも死にます」
ハハッと楽しそうに笑い声を上げた若者のあまりの非情さに周囲の男たちは恐れ慄いたが、ボスである彼に逆らうことはできないため、何も言うことができなかった。

***

暗闇の中で、ペッパーは何とか脱出しようと試みていた。が、ドアの隙間から微かに漏れる光以外何も見えない。
トニーは何処にいるのだろう。
酷い怪我をしているであろう夫のことが気になって、ペッパーは気が狂いそうだった。泣き叫んでドアを叩きまくれば、誰かに気づいてもらえるだろうか…。

そんなことを考えていると、ドアの向こうから足音が聞こえてきた。そしてドアが嫌な音を立てて開いた。先程とは別の若い男だ。若者が部屋の隅に持っていたライトを置くと、続いてぐったりとしたトニーを担いだ年配の男が入ってきた。
「トニー!」
駆け寄ろうとしたペッパーだが、それを制した若者は、年配の男に合図した。すると年配の男は、マットレスの上にトニーを乱暴に寝かせた。
トニーは酷い状態だった。
右腕の義手は奪われ、シャツは血で真っ赤に染まっていた。
若者を振り切ったペッパーはトニーに駆け寄った。
「トニー…トニー……」
頬に触れてみたが、酷く顔色の悪いトニーは何の反応も示さない。力のない左手を握りしめたペッパーは、彼をこんな目に合わせた張本人であろう若者を睨み付けた。すると若者はゾッとするような笑みを浮かべると、口を開いた。
「動かさない方が良いですよ。上空から落下したせいで、両足は粉砕骨折していますし、背骨も折れてます。アーマーもなしで地上に落ちたのに、即死しなかったのが不思議ですね。そうそう、右腕の義手は壊れて身体に食い込んでいたので外しましたよ。それから、腹部にミサイルの破片が埋まったままですし、突き刺さっていた破片は、危ないので身体の中に押し込んでおきました。ご覧の通り、出血も止まりませんし、もっても2日ほどでしょう。状態を見ようと身体を動かしたら、ギャーギャーと悲鳴を上げてうるさかったので、鎮静剤を打っておきました。暫くは静かにしてくれますよ」
ククっと笑った若者は、まるで楽しい話でもしているかのような口調だ。が、その声からは何の感情も読み取れず、ペッパーは思わず身震いした。
このままだとトニーは死ぬ。だが、病院に連れて行けば、まだ助かるかもしれない。
目の前の若者に、そんな気がないことは分かっていたが、ペッパーは懇願するように叫んだ。
「……び、病院へ……早く病院へ連れて行って!」
すると若者は、大袈裟に肩を竦めた。
「無駄です。もう手遅れです。それに、このまま死んでくれた方が都合がいい」
彼らの目的は、トニーの死だ。
だが、どうして今なのだろうか。
ヒーローだった頃の彼には大勢の敵がいたが、引退して10年以上経つのに、どうして今なのだろうか…。
「何が目的なの…」
震える声で呟いたペッパーに、若者は鼻を鳴らした。
「本来の目的は、トニー・スタークを我々のものにすることでした。あなた方を無傷で捕まえて、あなたを解放することを条件に、彼は我々の元で一生働いてもらうつもりでした。彼の知識と頭脳は、今でも世界一ですからね。だけど、計画が狂いました。まさかあなたたちが我々と戦い、そして彼があなたを庇って死にかけるなんて、計算違いでした。我々だって、彼を殺したくありません。ですが、彼を病院へ連れて行けば、我々の存在がバレてしまいます。ですから、彼にはこのまま死んでもらいます。勿論あなたも。ここに閉じ込めておけば、酸素もじきになくなります。水だけは置いておいてあげましょう。そのうちあなたも窒息死するでしょうけど」
呆然と見つめてくるペッパーの瞳に恐怖の色を見つけた若者は、彼女を絶望の淵に突き落としてやろうと、さらに言葉を続けた。
「彼はもうすぐ目を覚ますでしょう。そして痛みで苦しみます。終わることのない、死ぬまで続く痛みと苦しみです。ですが、あなたは苦しむ彼に何もできない。苦しみながら死ぬ彼を看取ってあげてください」

若者は笑いながら部屋を出て行った。
ドアが閉まると機械の音が聞こえ、隙間から煙が流れ込んできた。が、それもすぐに収まった。それと同時に、光が完全に見えなくなった。
ペッパーは慌ててドアに駆け寄った。が、溶接されたのか、ドアは何をしてもピクリとも動かなくなった。
それでもドアを叩き続けていると、何かが爆破したのか、ドーンという音が聞こえ、天井から土埃が降り注いだ。
ペッパーは震え始めた。
自分たちは生き埋めにされたと悟ったペッパーは、その場に座り込んだ。涙が止まらなかった。何をしても自分たちがここにいることは、誰にも分からなくなってしまったのだから…。

「…助けて……」
だが、窓一つない部屋では、その声は誰にも届かなかった。

④へ・・

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The best thing my dad ever made.②

街中のホテルで開かれた国際フォーラムは何事もなく順調に終わった。トニーの講演も大好評だったし、2人で街中をぶらつき、モーガンへの土産も沢山買うことができた。
2日間の日程を終えたトニーとペッパーは、娘に半ば強引に取らされた3日間の休暇を、湖水地方で過ごすことにした。
いつもならば、ハッピーが運転手兼ボディーガードとして付いてきているのだが、今回はモーガンのお目付役としてNYに残っているので、文字通り本当に2人きりの旅行だ。
「久しぶりね、2人きりって」
ペッパーは、運転しているトニーに向かって嬉しそうに微笑んだ。
確かに、家族3人で行動するのが当たり前になっていた。だが、これからはこうやって夫婦2人きりでの行動も増えてくるだろう。嬉しくもあり、そして寂しさも感じたトニーだが、昨晩の甘い夜を思い出した彼は、
「モーガンに感謝しよう」
と、頷いた。

と、その時だった。

ドーーーン!!!

目の前で突然大爆発が起きた。
慌ててブレーキを踏んだため、巻き込まれずに済んだが、気づけば、上空にはヘリ、周囲は武装した車に取り囲まれているではないか。
「トニー……」
腕にそっと触れてきたペッパーに向かって、
「ここはイギリスだぞ?いつからこんなに治安が悪い国になったんだ?」
と、ブツブツと文句を言ったトニーは腕時計を妻に向けて見せた。するとペッパーも、腕時計に触れると頷いた。

銃を片手に覆面をした複数の男たちが走ってきた。抵抗しても無理矢理降ろされるだろうと、2人はゆっくりと車から降りた。すると1人の男がトニーに向かって告げた。
「トニー・スターク。一緒に来てもらおう」
「嫌だと断ったら?」
トニーが男を睨みつけると、周囲の男たちが一斉にペッパーに銃を向けた。
「お前の愛するオンナの頭が吹っ飛ぶぞ」
やれやれと首を振ったトニーは、ペッパーに向かって頷いた。と同時に2人は腕時計に触れた。あっという間にナノテックが2人の身体を覆い、アイアンマンとレスキューが姿を表した。
トニーは携帯用のアーマーを万が一のことを考え、作っていたのだ。
「トニー、悪い子にはお仕置きが必要よ」
「仕方ないな」
頷き合った2人は、同時にリパルサーを放った。

***

アイアンマンとレスキューは見事な連携プレーで次々と敵を倒していく。が、複数のヘリが次から次へとやって来て、敵の数はどんどん増えていくではないか。派手な戦闘をしているのだから、いい加減誰かが気づいても良さそうなのに、誰もやって来る気配もない。そうかと言って、敵は追いかけて来るだろうから、街中に向かう訳にもいかない。
「F.R.I.D.A.Y.!その辺に暇にしているヒーローはいないのか?!」
『ボス、通信が妨害されています。どなたにも連絡できません』
トニーは小さく舌打ちした。
ヒーロー業から遠ざかって早10年。サノスとの戦いから、一度も戦ったことはなかった。アーマーの出番も、モーガンの誕生日パーティーや、学校に忘れ物を届けに行く時など、戦いとは全く関係のない時しかなかった。
つまり、認めたくはないが、戦いの感覚は確かに鈍っていたのだ。
それはペッパーも同じだ。しかも彼女の場合、10年前に一度戦っただけだ。
戦いながら妻の様子を気にかけていたトニーだが、気づけばかなり離れてしまっているではないか。
『ボス!』
F.R.I.D.A.Y.の声に振り返ると、遠くにいるヘリからミサイルが一斉に妻に向かって発射された。しかもやっかいなことに追跡ミサイルだ。逃げても必用に追いかけて来る。
トニーはミサイルを撃ち落とした。ペッパーも逃げながら次々と撃ち落とした。全て撃ち落としたはずなのに、制御を失った1発のミサイルが、ペッパーの背後から彼女に迫っているではないか。しかもセンサーに反応していないのだから、ペッパーは気づいていない。この距離から撃ち落とせば、ペッパーが爆発に巻き込まれる…。
トニーはペッパーを守ろうと必死だった。ペッパーだけは守らなくては…と、トニーはペッパーとミサイルの間に身を投じた。

背後で大爆発が起き、ペッパーは振り返った。すると自分の目の前にはナノテックが盾のように広がっていた。自分は何もしていない。つまりこのナノテックは…。
辺りを見渡したペッパーは、トニーが爆発に巻き込まれ、地上に落下していくのを見つけると、悲鳴を上げた。
トニーがミサイルを受け止めてくれたのだ。ナノテックはペッパーを守るために使い、彼自身はほぼ生身でミサイルの爆発に巻き込まれた…。
慌てて追いかけようとしたが、敵の方が早かった。地上に叩きつけられたトニーを、敵は拘束した。血塗れになっているトニーを、まるでボロ布のように、敵は引きずっているではないか。
ペッパーは唇を噛み締めた。1人で適う人数ではない。ここは一旦撤収して、体勢を立て直した方がいいのかもしれない。だが、このままトニーを残して行きたくない…。
葛藤するペッパーに、地上から一人の男が声を掛けた。
「スタークの妻よ。一緒に来い。共に来なければ、トニー・スタークをこの場で殺す」
血塗れのトニーの頭に銃を突きつけた男たちは、せせら笑っている。
彼らは本気だ…。
そう感じたペッパーは、素直に従うことにした。
「分かったわ」
頷いたペッパーは地上に降りるとアーマーを脱いだ。そして抵抗することなく、車に乗り込んだ。

③へ・・・

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The best thing my dad ever made.①

ロンドンで2日間開催される科学者の国際フォーラムで、トニーが講演を行うことになった。そこでトニーとペッパーは、いつものように娘も連れて行こうと声を掛けたのだが…。

「せっかくだから2人でゆっくりしてきて!」
と、モーガンに提案され、2人は思わず顔を見合わせた。『私も行く!』と、今までなら即答していた娘が、今回は行かないというのだ。確かにモーガンは15歳で、一人で留守番もできる年頃だ。だが、何日も一人にさせるのは些か不安だ。渋る両親に、モーガンは何度も大丈夫だと告げた。そこでモーガンの言葉に後押しされた2人は、3日だけ滞在を伸ばすことにした。

「いいか、モーガン。知らない人が来ても絶対にドアを開けるなよ」
出かける寸前まで心配している父親に、絵本の台詞じゃないんだから…と、モーガンは気づかれないように目をくるりと回した。
「パパったら、心配しないで。それより、お土産、買ってきてね!」
そう言いながら頬にキスをしたモーガンは、余程早く一人になりたいのか、ぐずぐずしている両親を追いたてるように車に乗せた。

***

両親の車が見えなくなると、モーガンは急いでラボへと向かった。今から5日間、この家には自分1人だ。つまり誰にも邪魔されることなく、作業ができるのだ。
「よし!パパがいない間に仕上げちゃおう!」
父親の使っている椅子に勢いよく座ったモーガンは、F.R.I.D.A.Y.に命じた。
「F.R.I.D.A.Y.!『モーガンの秘密プロジェクト』を立ち上げて!」
すると目の前に、アーマーの設計図が現れた。そして部屋の隅に置いてある大きなケースが開き、作りかけのアーマーも姿を表した。
実はモーガン、自分専用のアーマーを作っていたのだ。父親と母親には言っていない。ラボを使ってもいいが、危険なことはしないと約束しているからだ。アーマー作りが危険な訳ではないが、おそらく両親はいい顔はしないだろうと、モーガンはこの数ヶ月、こっそりと作り続けていたのだ。
「ねぇ、パパにはバレてないわよね?」
毎回お馴染みの小さな主人の質問に、F.R.I.D.A.Y.はすまして答えた。
『はい、ボスにはバレておりません』

小さい頃から父親のラボはモーガンの遊び場だった。まだハイハイも出来ないような年から、ラボで作業している父親と共にいることが好きだった。こっそり忍び込んで、色々な物を見つけるのも好きだった。勝手に持ち出して遊んでいても、余程危険なことでなければ、父親は怒らなかった。10年以上前のあの戦いで、父親の右腕が義手になると、父親は『モーガン、手伝ってくれ』と、作業を手伝わせてくれるようになった。モーガンは楽しくて仕方がなかった。父親とロボットを組み立てたり、ダミーやユーの修理もさせてもらえるようになった。
父親が不在の時には、父親が作った物の設計図を眺めて勉強するようになった。中でもアイアンマンのアーマーは、様々な技術が駆使されており、モーガンは自分でも作ってみたいと思うようになった。
そこで数ヶ月前からこっそりとアーマー作りを始めたのだ。
今のところ、両親にはバレていないようだ。だが、もうすぐ完成するのだから、いい加減には話をした方がいいのだろうか。それとも完成したらサプライズだと見せた方が、父親は喜んでくれるだろうか…。
いずれにせよ、秘密にしている以上は父親に頼ることはできないので、父親が昔作っていたアーマーを元に製作しているのだが、どうも理想通りいかない。
「やっぱりパパに手伝ってもらわないと無理かなぁ……」
昔から父親のことは尊敬しているが、自分でアーマーを開発するようになって、父親の凄さをますます体感した。参考にしようと父親のアーマーの設計図を確認したが、どうしたらそうなるのかさっぱり分からない。
はぁ…と溜息を付いたモーガンだが、小腹が空いた彼女は、作業を中断するとキッチンへ向かった。

***

その頃、トニーとペッパーは自家用ジェットでロンドンに向かっていた。
「モーガンったら、余程早く一人になりたかったのね」
出発前の様子を思い出したペッパーは、おかしそうに笑い声を上げた。
「アレをしようと思ってるんだろ」
わざと顰め面をするトニーに向かって、ペッパーは肩を竦めた。
「えぇ。嫌になっちゃうくらい、あなたそっくりね」
妻の言葉にフンっと鼻を鳴らしたトニーは、
「分かりやすくていいだろ?」
と言うと、ペッパーにキスをした。

②へ・・・

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