「Once upon a time…」カテゴリーアーカイブ

Once upon a time…⑧

そして結婚式当日になりました。
純白のドレスに身を包んだヴァージニアの美しさは言葉にならない程で、コーディネートしたマリアは絶賛する参列者に鼻高々です。
花嫁の美しさを褒められるたびに、マリアの高笑いは大きくなっていきます。
「父上、母上をどうにかしてください」
主役の自分たちよりも目立っているのですから、一応父王に訴えてみたトニーですが…。
「息子よ、あぁなるとマリアは止められぬ。諦めろ」
と言う始末。そうは言いつつも、楽しそうなマリアを見るのは、ハワードもトニーもそしてヴァージニアも嬉しくて堪らないのですから、3人は顔を見合わせ笑いました。

と、来客の様子を見ていたヴァージニアが顔を強張らせました。
「どうした?」
トニーの袖を小さく震える手でぎゅっと握りしめたヴァージニアは目をキュッと閉じました。
「トニー様…。お義母様が…マヤ様が…」
震えるヴァージニアを抱き寄せたトニーは、入口へ目をやりました。派手に着飾った一人の女性がズカズカとこちらへ向かってやって来ます。どうやらあの女性が、マヤ王妃のようです。遠い昔、一夜を共にしたことがあるトニーですが、先程申し上げた通り、酔っ払いすぎて相手の顔も名前も覚えていません。ですが、ヴァージニアとアベンジャーズのメンバーから聞いたマヤの話で作り上げたイメージは、年老いて意地悪な女性だったのですが、実際のマヤは漆黒の髪を持った美しい女性ではありませんか。ヴァージニアと出会う前ならば、喜んでお相手したでしょうが、今は最愛の女性がいます。ですから妻を守らねばと使命感に燃えたトニーは、ヴァージニアのベールを下げると彼女の手をぐっと握りしめました。
「トニー様…」
不安げに見上げてくるヴァージニアにそっと口づけしたトニーは、やんわり笑みを浮かべました。
「ペッパー、誓っただろ?お前のことは俺が命を懸けて守ると…」
力強いトニーの言葉にようやく安堵したヴァージニアも小さく笑みを浮かべました。

そうこうしているうちに、マヤが目の前にやって来ました。
「スターク様、この度はおめでとうございます」
ハワードとマリアに深々とお辞儀をしたマヤは、トニーを見つめました。
8年前より数段男らしくなったトニーに、マヤは胸の高まりが抑えきれません。幸いと言うべきか、トニーはマヤのことを覚えていないようです。ですが、8年前に一夜を共にしたことは、鏡の件があるのですからマヤからは話すわけにはいかないのです。トニーへの気持ちを押さえ込んだマヤは、花嫁の顔を拝んでやろうと、作り笑いを浮かべました。
「トニー様、おめでとうございます。ところで奥方様のお顔は拝見させていただけないのですか?」
花嫁の素性は『来てのお楽しみ♥』とマリアが招待状に書いていたのです。鼻息荒く花嫁をガン見しているマヤをトニーは睨み付けると花嫁のヴェールを持ち上げました。
「俺の最愛の妻だ。マヤ王妃、あなたも彼女のことはよくご存じだと思いますよ」
は?と思ったマヤですが、花嫁の顔を見た瞬間、彼女は叫び声を上げました。
それは、あの森で殺したはずのヴァージニアだったのです。しかも彼女のお腹は少しふっくらしているではありませんか。
きっとトニーはおろか、ハワード王もマリア王妃も…いえ、スターク国の全員が、ヴァージニアにしたことを知っているに違いありません。となれば、捕まる前に一刻も早くこの国から立ち去った方がよいでしょう。しばらく呆然とヴァージニアを見つめていたマヤですが、きー!!!と叫んだ彼女は髪を掻きむしると元来た道を走り出しました。
二度とヴァージニアに関わるなと釘を刺そうと思っていたのに、相手は逃げ出したのです。
「おい!逃がすな!」
マヤを指差したトニーはそばに控えていたキャプテンに向かって叫びました。
背中から盾を取ったキャプテンはカーテンの後ろで待機している仲間に向かって号令を掛けました。
「アベンジャーズ・アッ…」

「待って!」
それを遮ったのはヴァージニアでした。
飛び出そうとしていたアベンジャーズは倒れ込み、折角の決め台詞を台無しにされたキャプテンは卒倒してしまいました。
「ペッパー!彼女はお前を傷つけたんだぞ!だからきちんと片を付けなければ!」
ヴァージニアの肩を掴んだトニーは唾を散らしながら力説しましたが、ヴァージニアは静かに首を横に振りました。
「いいえ、トニー様。もう十分です。マヤ様に私が生きていて幸せに暮らしていることが分かれば…。それに、私は今とても幸せなんです。トニー様に愛され、ハワード様とマリア様に本当の娘のように可愛がっていただいて…。これ以上の幸せはありません。それに、もう過去のことはいいんです。それよりも、私はトニー様と今日から新しい未来を作っていきたいんです」
つまりは、マヤのやった事は全て水に流そうということだろう。
ですがヴァージニアは命を奪われかけたのです。文句を言おうとしたトニーですが、それよりも先にマリアがヴァージニアに抱き付きました。
「まぁ!!ヴァージニアちゃんったら、何ていい子なのかしら!!!」
涙を流し感動しているマリアに、抱きしめられたヴァージニアは目を白黒させています。
当事者であるヴァージニアがそう言うのですから、トニーも渋々納得し、改めて2人の結婚パーティーは執り行われました。
そしてトニーとヴァージニアは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。



そうです、ジャーヴィスのことを話しておかねばなりません。
スターク国から逃げ帰ったマヤは、ショックのあまり寝込んでしまい、そのまま彼女はひっそりと息を引き取ったのです。
その数年後。ヴァージニアがトニーを連れて城へ帰ってきました。その時、トニーは10年近く前に盗まれた鏡…ジャーヴィスを発見したのです。
「おい、ジャーヴィス。起きてるか?」
鏡に触れそっと話しかけると、ジャーヴィスは数年間の眠りから目覚めました。
『お久しぶりです、トニー様。私はいつも起きております』

こうしてジャーヴィスは無事スターク国へと戻ることができたのです。

めでたし、めでたし。

3 人がいいねと言っています。

Once upon a time…⑦

半年ほど秘密の情事…と言っても、マリア王妃にはバレていますが…が続いたある日。
マリア王妃の思惑通り、ヴァージニアは妊娠しました。
「トニーったら、我慢できなかったのね」
ムフフと笑ったマリアですが、ハワードは渋い顔をしています。いえ、孫が出来たのですからハワードも内心嬉しくてたまらないのですが、『ヴァージニアが12才になるまでトニーと会わせるな』と命じていたのは自分ですから、わざと仏頂面を保っていました。
そんなハワードの心中に気付いているのかいないのか、不機嫌を装っている夫をマリアは睨み付けました。
「あら、あなた。あなただって同じだったじゃありませんか。婚約期間なのに私に手を出してトニーが出来て、結婚式を前倒しにしたじゃありませんか!」
「ま、マリア!!」
このままだとマリアは何を言い出すか分かりません。それにトニーとヴァージニアの結婚式は半年後に行われる予定だったのですから、マリアの言う通り前倒しすればいいのです。

ということで、トニーとヴァージニアの結婚式は一週間後に盛大に行われることになりました。

結婚式には周辺諸国の王族を招待するのですが、隣国のポッツ国…つまりはヴァージニアの実家に声を掛けるかが問題でした。ポッツ国の王であるヴァージニアの父親は彼女が9歳の時に亡くなっているので、呼ぶとなると義母であるマヤ王妃しかいません。マヤ王妃はヴァージニアを殺そうとしたのですから、ハワードもマリアも彼女を呼ぶのは反対しました。
「私…お義母様にはお会いしたくありません」
当の本人のヴァージニアはもちろん反対しましたが、何故かトニーだけは賛成したのです。
「俺に考えがある。それに、ペッパー。君のことは全力で守る。だから君が幸せになっている姿を見せつけてやれ」
こう言うのですから、ハワードもマリアも、そしてヴァージニアも賛成せざるを得ません。
結局マヤにも招待状を送ることになりました。

隣国のスターク国から届いた結婚式の招待状にマヤ王妃は喰いつきました。
スターク国は、広大な領地と巨額の富を持つ世界一の国です。その国の王子の花嫁…つまりは未来の王妃の座を掴んだオンナの姿を拝んでやろうと、マヤ王妃は早速支度を始めました。が、やはり気になるのは、その花嫁が自分より美しいか美しくないかということ。魔法の鏡に向かったマヤは、久しぶりに鏡に尋ねました。
「鏡よ鏡…この世で一番美しいのは誰?」
『我が主でいらっしゃいます、スターク国のハワード王ご子息、アンソニー王子の花嫁でございます』
そうなのです。実はジャーヴィスは元々スターク国のものでした。それが8年前、この鏡の存在を知ったマヤは、パーティーで出会ったトニーと一夜を共にすると鏡を盗み出したのです。ちなみに、トニーは酔っぱらいすぎていたため、マヤとのことはこれっぽっちも覚えていません。
鏡が映し出したのは、ベッドの上でトニーに抱かれている1人の女性の姿でした。
「あぁ!トニー様が!」
一度きり…しかも鏡を盗み出すために一夜を共にしたと言え、トニーとのことは忘れられるはずがありません。そのトニーが他の女性と戯れており、しかもその相手が世界一の美女だというのですから、悔しくてたまりません。こうなったら花嫁の正体を突き止め、あわよくば息の根を止めてやろう…。そう考えたマヤ王妃は、身支度を整えるとスターク国へと飛んで向かいました。

その頃、スターク国では…。
トニーとヴァージニアの結婚式を明日に控え、国中お祭り騒ぎでした。もちろん城内でも前夜祭が開催されておりましたが、朝が早いからとトニーはヴァージニアを連れて早々に部屋に戻っていました。しばらくは明日の結婚式の話をしていた2人ですが、すぐにいい雰囲気となってしまい、トニーはヴァージニアをベッドに押し倒しました。
「と、トニー様!明日、早い…ん…」
「黙れ、ペッパー」
ジタバタ抵抗するヴァージニアの唇を奪うと、姫は大人しくなり、トニーの身体にそっと腕を回しました。

「明日はようやくペッパーを俺の妻にできる」
腕の中に閉じ込められたヴァージニアは、ポッと頬を染めましたが、彼女も明日が待ち遠しくてたまらなかったため、トニーを見上げるとニッコリ笑いました。
「はい、トニー様。よろしくお願い致します」

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Once upon a time…⑥

それから半年が経ちました。
結局トニーはヴァージニアと1度も顔を合わすことはできませんでした。
一層のこと、忘れた方がいいのかもしれないと思いましたが、運命の相手を簡単に忘れることができるはずがありません。
どうにかしてヴァージニアと会えないかと、トニーは城内をウロウロしますが、ヴァージニアのガードは固く、流石のトニーも突破できませんでした。

そんなある日、クリントに弓矢の稽古をつけてもらったトニーは、汗を流そうと井戸へと向かいました。
羽織っていた物を脱ぎ、上半身裸になったトニーは、冷たい水を頭から被りました。火照っていた身体が一気に冷め、トニーは水を切ろうと頭を乱暴に振りました。と、その時でした。
「アンソニー様、お召し代えをこちらに置いておきます」
突然可愛らしい声が聞こえ、トニーはぎょっとしました。誰もいないはずなのに、女性の声がするのです。
慌てて声のする方を振り返ると、一人の美しい女性が恥ずかしそうに立っていました。まだ幼さの抜けきっていない赤毛の美しい女性…つまりは恋い焦がれていたヴァージニア姫が。
半年会わなかっただけなのに、姫は背も伸び、体つきもすっかり女性らしくなっていました。
「ヴァージニア姫…」
ポカンと口を開けたまま見惚れているトニーに、顔を真っ赤にしたヴァージニアは恐る恐る近づきました。
「…お久しぶりです…」
トニーの熱っぽい視線を感じたヴァージニアですが、彼女の方も初めて見るトニーの逞しい裸体に胸の高まりを抑えることができません。
顔を伏せもじもじしている姫の姿に、トニーは我慢の限界でした。
姫の手を引っ張ったトニーは、彼女を腕の中に閉じ込めました。胸板に顔を押し付けられたヴァージニアの耳に、トニーの鼓動が聞こえてきます。ドキドキと脈打つそのスピードはとても速いのですが、心地よいリズムにヴァージニアの胸に初めての感情が宿りました。その感情が何なのか、姫はまだ理解できませんでしたが、身体は本能的にトニーを求めており、お腹の奥がきゅっと疼き始めました。
耳たぶまで真っ赤にしているヴァージニアの頬を撫でたトニーは、今すぐにでも襲い掛かりたい気持ちをぐっと堪えると、まずはキスまで持っていこうと両手で姫の顔をそっと包み込みました。
「そばかすが可愛い。姫のこと、ペッパーと呼んでいいか?俺のことはトニーと呼んでくれ」
思い返せば、会話らしい会話をするのは今日が初めてです。お互いの呼び名すら決めていなかったのです。
最愛の男性から与えられた呼び名を一瞬で気に入った姫は、ニッコリと笑いました。
「はい…トニー様…」
うっとりと目を閉じたヴァージニア…いえ、ペッパーの唇をトニーは奪いました。身体がドロドロに溶けてしまいそうなくらい激しいキスに、立っていられなくなったペッパーはトニーに身体を預けるようにもたれかかりました。力の抜けたペッパーを抱き上げたトニーは、キスをしながら自室へと向かいました。

「うふふ…うまくいきそうね」
2人の様子をこっそり陰から伺っていたのはマリア王妃でした。
ハワード王は、ヴァージニアが12になるまで待つように告げていたのですが、早く孫の顔が見たいマリアは既成事実を作ってしまえばと、水浴びをしている息子の元へヴァージニアを送り込んだのです。
「来年の今頃には、可愛い孫が抱けるかもしれないわ!そうとなったら、早速色々準備するわよ!」
傍にいた侍女に命じたマリアは、スキップしながら部屋へと戻って行きました。

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Once upon a time…⑤

ヴァージニア姫を馬に乗せたトニーは、ふと気になりました。姫の周りにいた奴らはこの後どうするのかと。それに、アベンジャーズの噂は聞いたことがあります。仲間になればこれ程心強いものはありません。そこで、トニーはアベンジャーズに提案しました。『ヴァージニア姫と共に我が国へ来ないか』と。この提案にはキャプテンを筆頭に皆、大喜び。このまま森にいても幸先不安なばかりなのですから、スターク国で就職すれば生来安泰です。それにヴァージニア姫もお守りすることができるのです。
ということで、トニーはヴァージニア姫と共にアベンジャーズを連れて城へと戻りました。

お供を2人連れただけで、ふらっと出て行った息子が大人数で帰ってきたのですから、トニーの父親と母親であるハワード王とマリア王妃は面食らいました。
「あらあら、そちらの可愛らしい方は?」
トニーが大切そうに抱き上げ連れてきた少女は、ハワードとマリアに深々とお辞儀をしました。
「ポッツ国のヴァージニア姫だ。こうこうこういう事情で、連れて帰ってきた。俺、彼女と結婚するから」
息子の突然の結婚宣言に、ハワードとマリアはポカンと口を開けたままです。25歳になってもまだふらふらと女遊びを止めない息子が、15も年下の少女を連れて帰ってきて、結婚すると言い出したのです。驚かないはずがありません。ようやく息子が身を落ち着かせる決意をしたと喜ぶ一方、ヴァージニアは10歳の少女なのです。さすがにすぐには結婚させる訳にはいかないと、マリアはトニーの目に触れぬようヴァージニアを匿ってしまいました。

一方のアベンジャーズは…。
トニーが父王に事情を説明すると、ハワードは快諾ました。そしてアベンジャーズをトニー直属の部下に任命したのです。

ところでこのトニー王子、父親のハワード王に似て頭が良く、幼い頃から父親を真似て様々な物を発明してきました。その才能はハワードも一目置く程で、今ではスターク国の使用する最新鋭の武器は、トニーが開発している程でした。

「お前たちの武器を作ったぞ」
アベンジャーズの面々がトニーに呼び出されたのは、彼らがスターク国へやって来て1週間ほど経った頃でした。
キャプテンには何でも弾き飛ばせる金属製の軽くて丈夫な盾、闘いで左腕を失ったウィンターソルジャーには頑丈な義腕、ファルコンには遠くまでよく見え装着できる双眼鏡、弓矢の名手ホークアイには様々な矢、ブラックウィドウには伸縮自在な絶対に折れない棒、怒ると緑色の怪物に変身するハルクには、巨大化しても破れないパンツを渡したトニーは、感嘆する面々に向かい得意げに鼻をこすりました。
「必要な物は何でも言ってくれ」
と、トニーの肩を誰かがつつきました。ソーです。
「おい、俺は何も貰ってはおらぬ」
『自称』神様のソーは、本当に神様なのか、不思議な力を持っています。ハンマーを振り回し飛ぶこともできますし、雷も操れます。ですからトニーとしても彼のために何を発明すればいいのか分からなかったのです。ですが、分からないとは言いたくありません。そこでトニーはある秘策を用意していました。
「ソーよ、お前は神様だ。だからいくら俺でも神に与えるような物は何もない。だが、一つだけある。俺がお前に与えられる物が…」
そう言いながらトニーはポケットから何か取り出しました。
「お前が気に入ったと言っていた居酒屋のタダ券だ。有効期限はお前が我が国にいる間…つまり生涯タダだ」
自分には何もないと拗ねていたソーは大喜び。喜びのあまりトニーを抱きしめたソーですが、ぎゅうぎゅう抱きしめられているのですからトニーは苦しくてたまりません。
「おい!ソー!離せ!」
ジタバタと暴れるトニーをようやく離したソーですが、トニーは大袈裟にゴホゴホと咳き込んでいます。
「ところでトニー様、ヴァージニア様はお元気ですか?」
話題を変えようとブルース・バナーはヴァージニアのことを口に出しましたが、トニーは不機嫌そうに顔を顰めました。
「元気だと思う。最も母上が匿ってしまい、俺も食事の時しか会っていない。それも最初の2日だけだ。それからは姫の姿は見ておらぬ。母上の侍女の話では、姫は母上と本当の親子のように仲良く過ごしているということだ。全く…俺の花嫁なのに、俺は話も出来ないんだぞ?俺に会わせると俺がすぐに手を出すと母上は言うんだぞ?」
ブツブツと文句を言うトニーですが、顔を見合わせた一同はその通りだと頷きました。

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Once upon a time…④

翌日、帰宅したアベンジャーズは、ヴァージニアが庭に倒れているのに驚き、慌てて駆け寄りました。ですが、すでに息絶えており姫の身体は冷たく氷のようではありませんか。姫を守れなかったと泣き叫ぶアベンジャーズですが、ハルクことブルース・バナーがあることを思い出しました。
「そう言えば、こういう時はガラスの棺に寝かせていると、通りかかった王子様のキスで目を覚ますという話を聞いたことがある」
物知りのブルースが言うのだから間違いありません。
「棺なら俺に任せろ」
そう言って返事も待たずに飛び立ったソーは、暫くしてガラスの棺を担いで戻ってきました。

沢山の花と共に、ヴァージニアの身体は棺に納められました。
「で、その王子の登場はどれくらい待つんだ?」
大欠伸をしたホークアイはブラックウィドウの膝を枕に横になりました。
「そんな都合よく現れるもんか」
数日は待つだろうと、鳥たちを呼び寄せたファルコンは餌をやり始めました。
「王子が姫の運命のお相手でなければ、姫は目覚めない。だから気長に…」
『待とう』と言おうとしたキャプテンですが、馬の蹄の音が聞こえたため、口を噤みました。

予想より格段に早くその時は訪れたのです。
通りかかったのは、スターク国の王子であるアンソニーでした。
「よりによってあの王子…」
ブラックウィドウは盛大にため息をつきましたが、それもそのはず。アンソニー・スターク、通称トニー・スタークは、天才・金持ち・女好きと、国内外問わず超有名だったのです。あんな女好きで何十股もしているらしい王子が大切な姫の運命の人であるはずがありません。王子の目に触れる前に…と、棺を隠そうとしましたが、王子は見逃しませんでした。
「おい、それは何だ?」
馬から降りたトニーは、ゆっくりと棺に近づきました。ガラスの棺の中には一人の少女が納められていました。少女は美しく、トニーは一目で心を奪われてしまいました。
「こちらはポッツ国の姫君、ヴァージニア様でございます。実はヴァージニア様は…赫々然々…」
と、掻い摘んで説明すると、トニーは顔を真っ赤にして憤慨しました。
「何て酷い話だ!だが、姫君は死んでいるとは思えない。まるでまだ生きているかのように美しい。どうだ。俺が姫君を生き返らせてやろう。我が国に連れて帰り、色々調べよう。俺は天才だから、姫を生き返らせることなんて朝飯前に決まってる」
自信満々なトニーですが、生き返らせた後のことを考えると、素直に首を縦に振れません。
「殿下、ヴァージニア様は売り物ではないので…」
きっと金で解決しようとするに違いないと考えたキャプテンは、何とか諦めて貰おうとしましたが、無駄でした。
「おい、誰が買うと言った。いくら俺でも人身売買などしない。姫君が生き返れば、またここへ連れてこよう。だがその前に確かめたいことがある。眠り続ける姫を起こすのは王子のキス…おとぎ話の定番だろ?」
ふんっと鼻を鳴らしたトニーは、お供のハッピーとローディに棺を開けさせると、ヴァージニアを抱き起こしました。
「美しい…」
国中どころか世界中に『1夜限りの女性』がいるトニーですが、腕の中の少女は今までのどんな女性にも敵いません。すっかり姫に夢中になってしまったトニーはヴァージニアの頬を撫でると、耳元で囁きました。
「ヴァージニア姫…。俺はあなたに心奪われてしまった。さあ、目を開けてくれ」
堪らず口の中を貪るようにキスをすると、ヴァージニアの喉に詰まっていたイチゴがポンっと飛び出しました。青白かったヴァージニアの頬に血色が戻り、瞼を震わせた姫はゆっくりと目を開いたではありませんか。
「姫が…ヴァージニア様がお目覚めになった!」
お祭り騒ぎのようなキャプテン達に、事情がイマイチ分からないヴァージニアは戸惑いましたが、自分がとびっきりハンサムな男の人の腕にいることに気付くと、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めました。
可愛らしいヴァージニアの反応に胸の高まりを押さえきれなくなったトニーは、啄むようなキスを何度も繰り返しました。
「美しい姫よ、あなたのことは俺が命を懸けて守る。だから俺の妻になってくれ」
初めて会った名前も知らない男性なのに、ヴァージニアもすっかり彼に囚われてしまっていたのです。
「はい、喜んで」
ニッコリ笑ったヴァージニアは、キスの続きをねだるように目を閉じました。

⑤へ…

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