結婚式まであと2か月。
『働く女性の特集』のために取材を受けていたペッパー。ありきたりな質問をぶつけた後で、インタビュアーである女性記者は誰もが知りたいこの大物カップルのプライベートに突っ込んでみようと密かに考えていた。
まずはこんなものだろうと、軽めの質問をぶつけた記者。
「ところで、もうすぐご結婚ですね。いかかです?今のお気持ちは?」
彼女の質問に頬を染めたペッパーは
「ありがとうございます。そうね、正直まだ実感がなくって…」
と、恥ずかしそうに答えた。
ところでこの女性記者、10年近く前に一度だけトニーと関係をもったことがあるのだが、つい先日そのことを本人に振ったところ、『君は誰だ?』とすっかり存在を忘れられていたのだった。そんなこともあり、目の前のトニー・スタークの婚約者であるペッパー・ポッツの幸せそうな姿にすっかり嫉妬しており、一度この女を泣かせてやろうと思っていたのだった。
だがさすがは一流記者。そんな嫉妬染みたところは見せようとしない。
「そうなんですか。ちなみに結婚式はどちらで?」
と、誰も知らない特ダネを掴もうと質問してみるも、ペッパーは笑顔で質問を交わした。
その後も『子供は何人?』『新婚旅行の行先は?』などと、ありきたりな質問をしてみるが、ペッパーは笑顔で交わすばかり。
指定された時間もそろそろ終わりだ。
「最後にいいですか?」
と、立ち上がりかけたペッパーに声を掛けた記者は、ここからが本番よと意地悪な笑みを浮かべた。
「ところで、相手はあのトニー・スタークですよ?心配じゃないんです?」
「心配って?」
再びソファーに腰を下ろしたペッパーは、心配するようなことなんてあるかしらと首を傾げた。
目を光らせた記者はにんまりと笑った。
「浮気ですよ。浮気。だって、あのトニー・スタークですよ?星の数ほどもオンナを抱いてきた男ですもの。あなたに飽きる可能性だってあるわ。あ、もしかして結婚は隠れ蓑?あなたと結婚して、それを傘に山ほど愛人を作るとか?」
失礼極まりない発言に、ペッパーは頭に血が上りそうだ。だが…。
(ここで怒ったら彼女の思うツボよ…)
何度も深呼吸をしたペッパーは、営業用の笑みを浮かべると記者に向かって言い放った。
「あなたは彼が浮気するって言いたいの?私と恋人になってから、彼は浮気なんて一度もしたことないわ。それに、今の彼は私のことだけを愛してくれているの。だから私も彼の事を信じてるわ。これでいいかしら?」
にっこり笑うペッパーに対し、記者は唇を噛みしめた。
記者の完敗…と、その場にいた誰もが思ったその時だった。顔を上げた記者はペッパーを睨みつけた。
「男って、カワイイ女性に弱いのよ。仕事も何もかも出来すぎるオンナって、完璧を求めるから疎まれるの。あなたって完璧主義でしょ?だから、失礼ですけど、ポッツさんってオンナとしての魅力がないわ!」
ペッパーは何も言わなかった。だが、感情も何もない冷酷な視線は彼女の怒りを表していた。
記者を慌てて追い出したペッパーの秘書たちだったが、その後、部屋の中から何かが盛大に壊れる音が聞こえ、飛び上がったのだった。
帰宅後、ペッパーは怒り露わに夕飯を作っていた。
気が付けば包丁で切っていた野菜は粉々になっており、手伝ってくれていたユーはキッチンの片隅で震えている。
ため息を付いたペッパーは椅子に腰かけた。
「全く失礼よね!あんなことを聞いてきて!」
しばらくぷんぷんと怒っていたペッパーだったが、あの記者の捨て台詞のような言葉を思いだした。
『あなたって完璧主義でしょ?ポッツさんってオンナとしての魅力がないわ!』
確かに何でも完璧にしたい方だ。仕事も私生活も完璧にしようとする自分に、トニーはいつも『そんなに頑張らなくてもいいんだぞ?』と言ってくれる。でも、やっぱり仕事もそして彼との生活も中途半端にしたくない。でも、正直なところ結婚しても完璧に家事も仕事もこなせる自信なんてない。同棲している今だってそうだ。それに、仕事ばかりしていて、彼の事はもちろんだが、子供をきちんと育てる自信もない。きっと彼は優しいから、そんなことないと言ってくれるに決まってる。
考えれば考えるほど、自分はトニーにふさわしくないのでは…と思い始めたペッパーは、テーブルに顔を伏せるとしくしくと泣き始めた。
そこへタイミングよく帰って来たのはトニー。
キッチンへ向かった彼は、最愛の女性がテーブルに臥せって泣いているのに気づくと飛び上がった。
「ハニー?!どうしたんだ?!」
慌てふためいたトニーは、ペッパーに駆け寄り抱きしめた。
しばらくして、ペッパーはしゃくり上げながら呟いた。
「トニー…私…あなたとは結婚できないわ…」
「な、なぜだ?!」
結婚できないと言われたトニーは真っ青。突然の婚約破棄に彼は涙目になっている。
ショックのあまり何も言葉がでない。トニーは必死で言葉を探したが、何と言っていいのか分からず口を開けたまま。
顔中の涙を拭ったペッパーは、俯いたまま話し始めた。
「だって…私…いつもあなたに怒ってばかりだし、かわいらしくないでしょ?それに…結婚しても仕事も家事も完璧にできる自信なんてないわ…。あなたに呆れられるかも…。だからね、私はあなたにふさわしくないわ…」
しばらくぽかんとしていたトニーだったが、やがてペッパーの頬にキスをすると笑みを浮かべてじっと瞳を見つめた。
「おい、ペッパー。今さら何を言ってるんだ?私にふさわしいオンナ?そんなもの、君以外に考えられない。いや、君のような最高のオンナは私みたいな男にはもったいないくらいだぞ?それに、完璧じゃなくていいんだ。いや、間違えた。君は完璧だ。誰が何と言おうと、君は私にとって完璧なオンナなんだ。だからこれ以上完璧になる必要なんてないさ」
ペッパーの目から再び零れ落ちた涙を拭ったトニーは、彼女の頭を抱き寄せた。
「それと…私はそのままの君が好きなんだ。君もだろ?だからお互いもっと気楽に行こう」
トニーの言葉。それはペッパーのもやもやとしていた心をすーっと溶かしてくれた。嬉しそうに笑みを浮かべたペッパーに、トニーは優しいキスを一つ。
「それに、私も正直不安だったんだ。君の理想の夫になれるかどうか…。だが、ある時気づいた。君はありのままの私を好きになってくれたんだと。だから、このままでいいんだって…」
トニーがそう思っていたと知らなかったペッパーは、一瞬目を丸くしたが、二人とも思いは同じだと分かると、彼に思いっきり抱きついた。その背中を優しく撫でながら、トニーは首筋に口づけすると顔を埋めた。
「悩みがあるなら言ってくれ。君の悩みを受け止めるくらいはできる。一緒に解決の道を探せばいい。ほら、君と私は夫婦になるんだから…」
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