「結婚5題」カテゴリーアーカイブ

05.相思相愛~結婚5題より

結婚式まで後2日となった午後。
LAの市内の某ホテルのレストランには、ペッパーの両親と双子の妹、そしてトニーとペッパーの姿があった。
挙式前の両家の顔合わせ…と言いたいところだが、生憎スターク家はトニー一人しかいないのだから、ポッツ家の家族団欒にトニーがお邪魔しているというのが 正しいのかもしれない。

乾杯の後、ペッパーの父親であるテッドはトニーのグラスに酒を注ごうとしたが…
「式の前なのよ?!それに明日はバチェラ―・パーティーなの。あまり飲ませないで!」
と、目を三角にした娘にグラスを取り上げられてしまった。
「そ、そうか…」
トニーと酒を飲むのを楽しみにしていたテッドはがっくりと肩を落としたが、ペッパーは知らぬ顔。
その後も、ペッパーはトニーがあまり好きではない野菜がてんこ盛りのサラダをそっと自分の皿によそい分け、逆にメインディッシュの飾りにイチゴが載っているのに気付くと、トニーが知らぬ間に自分の皿に載せている。
阿吽の呼吸と言うべきか、絶妙なタイミングで繰り広げられる目の前の光景。
挙句の果てに、トニーの口の端にソースが付いているのに気付いたペッパーは、いつものように唇を近づけペロリと舐めとってしまった。
これにはさすがに絶句…いや、呆れ果てたペッパーの家族。
「本当に仲が良いわよねぇ」
「目のやり場に困るほど…」
と、苦笑いする母親のシルヴィアと妹のミアとリリー。
ちなみに父親のテッドは、衝撃が強かったのか、フォークとナイフを落としてしまった…。

そうこうしているうちに、食事は終了。
さすがに今日はこのままホテルに泊まるというペッパーをトニーは抱きしめた。
「家族水入らずで過ごしてくれ。明日はバチェロレッテ・パーティーだろ?一度うちに戻ってくるのか?」
「ええ。そのつもり。お昼過ぎには帰るわ」
「分かった。では、夕方までは時間があるな?」
腰どころか太腿を撫でまわしながら、トニーはニヤニヤと笑っている。彼の言おうとしていることを理解したペッパーは、かわいらしく睨みつけた。
「ダメよ…。ハネムーンまでお預けよ。ドレスを着るのに、跡が残ってたら大変よ」
それはそれで、所有の証を見せつけれると一瞬思ったトニーだが、そんなことになればハネムーンはお預けを食らいそうだったので、ゆっくりと唇にキスをおとした。
「そうだな。後2日だ。君がミセス・スタークになるのも。それまで我慢するよ」
「いい子ね」
見つめ合った二人は硬く抱き合うとキスをし始めた。
そろそろ理性が持たないと、唇を離したのは数分後。
手を振りながら帰るトニーを見送ったペッパーは、家族が一部始終を目撃し気まずそうにしていることなど知らず、鼻歌を歌いながら部屋に戻ったのだった。

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04.誓いの言葉~結婚5題より

結婚式まで後1週間。
トニーに呼び出されたローディは、ラボの中央で仁王立ちするトニーの前に座っていた。
「式では誓いの言葉を言わなければならないらしい。そこで考えてみた。聞いてくれ」
要するに練習台になれということか…と、ため息を付いたローディだが、トニーはポケットから紙を出すと咳払いをし読み始めた。
「では、聞いてくれ。…ハニー…」
そう言うと、トニーはじっとローディを見つめた。
大きな煌めく目で見つめられ、ローディは思わず身体を震わせた。あまり意識したことはないが、トニーの瞳は人を引きつけ魅了する力がある。無意識のうちに顔を赤らめたローディだが、それに気付いたトニーはべぇっと舌を出した。
「おいおい、相棒。そんな目で私を見るのはやめろ。気持ち悪い。私にはそんな趣味はないぞ?」
大体お前が…と言いかけたローディだが、本人は無自覚なのだから言っても仕方ない。
「俺もそんな気はない。貸せ。読んで校正してやる」
と言うと、トニーから紙を奪った。

『ハニー。初めて君と出会ったのは11年前の今日だったな。
結婚が決まってから君は私に聞いた。『初めて会った時、どう思った?』と。あの時は照れ臭くて言えなかったが、今なら言える。白状するよ。あの時、私の小さなミスを正してくれた君の細やかさに、そして控えめだが強い意志を持った君の瞳に私はすぐに魅了された。その時感じた。君とは長い付き合いになると…。それまで何人ものPAがいたが、君は違っていた。出会ってすぐの頃だったな。風邪を引き一人で家で寝込んでいる私のために君は泣いてくれた。酒を飲み酔っぱらって帰ると、本気で心配し怒ってくれた。そして、こんなめでたい席では言いにくいんだが、他のオンナを連れて帰ってきても、君は文句も言わず後始末をしてくれた。今思えば私は酷い男だ。長年自分の気持ちを偽り、君の気持ちに気付かないふりをし、君を苦しめてきたんだから…。すまなかった。許してくれ。
だが、ペッパー。私はあの時…NYで心の底から思った。私がこの世で守りたい物は君だけだと。私は君なしでは生きていけないと。そして、これから君と一緒にやりたいことがたくさんあると…。
ペッパー…いや、ヴァージニア。初めて会った時から、私は君の事を愛していた。もっと早く自分に正直になっていればよかったんだな。11年間、私を支えそして愛してくれてありがとう。私とこれからの人生を共に歩みたいと言ってくれてありがとう。両親が死に孤独だった私に、君は生きること、そして愛することの素晴らしさを教えてくれた。感謝してる。そして君のことは人として尊敬もしている。これからも私のただ一人のオンナでいて欲しい。
今日、ここに誓う。私は君の事を生涯かけて愛しそして守り抜くと…。
ペッパー…愛してる…永遠に…。

アンソニー・エドワード・スターク』

ローディが没頭している間、落ち着かないトニーはその辺の物を弄っていたが、しばらくしてすすり泣く声が聞こえ顔を上げた。
見ると、ローディは大きな身体を縮め、目から大粒の涙をボロボロと流しているではないか。
「ローディ?どうしたんだ?」
手に持っていたスパナを放り投げたトニーは、彼に駆け寄ると隣に腰を下ろした。
「わ、悪い…。おかしいな…涙が止まらないじゃないか…」
紙を大切そうに返したローディは、トニーの身体をぐっと抱き寄せた。気持ち悪いと悪態をつこうとしたトニーだったが、この世に数えるほどしかいない彼の親友であり介添人である目の前の男は、まだ肩を震わせている。
「トニー、よかったな…。本当に良かった…」
めったに見れない親友の涙。彼が心の底から、そして自分のことのように結婚を祝福してくれていると改めて実感したトニーは、嬉しそうに口の端を上げた。
「あぁ…ありがとう。本番も頼むぞ?」
親友の肩をポンと叩いたトニーの目もまた、親友につられるように潤んでいたのだった。

ローディが号泣したとお墨付きの誓いの言葉だが…残念ながら陽の目を見ることはなかったのだが、それはまた別のお話。

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03.できちゃった!?~結婚5題より

気持ちが悪いとバスルームに籠っているペッパーに、トニーはドア越しに声を掛けた。
「ハニー、大丈夫か?」
「…何とか…」
苦しそうな声が聞こえていたが、しばらくしてペッパーはバスルームから出てきた。
朝から熱っぽい、吐き気がする、気分が悪いと訴えるペッパーは、ふらふらとベッドに横になった。
何か変な物でも食べたかしら…と考えてみたが、同じ物を食べたトニーはピンピンしている。不安で泣き出しそうな顔をしているトニーを見つめていたペッパーだが、ふとあることに気が付き顔色を変えた。
「もしかして…」
何やら指折り数えていたペッパーは、口を覆うと目を見開いた。同じく顔色を変えたトニーは、慌ててベッドに昇るとペッパーの手を取った。
「ど、ど、どうしたんだ?!」
慌てふためくトニーにペッパーは震える声で呟いた。
「トニー…どうしよう。できちゃったかも…」
ペッパーの言葉が一瞬理解できなかったトニーは、呆けた顔をしている。
「出来たって、何が?朝食か?」
朝ごはんがまだなことを思い出したトニーは、ぐぅぅと鳴るお腹を押さえた。いつもはあれだけ鋭いのに、こういう時は鈍感な彼に腹が立ったペッパーは金切声をあげた。
「何がって……赤ちゃんよ!!」
静まり返った寝室にペッパーの声がこだまする。お腹を押さえたまま固まったトニーは、1分ほど経ってようやく我に返った。
「い、今…何と言った?…こ、こ、こ、子供ができたのか?」
小さく頷いたペッパーは口を尖らせ俯いてしまった。そのため、みるみるうちに笑みを浮かべ、その場で踊りだしそうなくらい喜んでいるトニーには全く気付いていなかった。
「もう!どうしてよ!何で今なの?!」
今手掛けている仕事が終わるのは半年後。おそらくその頃には、自分は仕事どころではない状態のはず。予定外の出来事に、ペッパーは思わず悪態をついてしまった。
そんなペッパーを見たトニー。
彼女が今進行している仕事に半年以上前から準備をして臨んでいるのは知っている。そしてこの妊娠が計画外であることも…。
だが、ああいうことをしている以上、いつ子供が出来てもいいと彼女も同意のうえでの行為だと思っていたのだが…。
トニーは顔を顰めると悲しそうにぽつりと呟いた。
「ペッパー。君は子供が欲しくないのか?」
「え…」
悲しそうな声にペッパーは思わず振り返った。
「そうだろ?さっきから君は嫌だとばかり言っている。確かに予想外だ。まだ結婚式も上げていない。正直、心の準備だって出来てない。ペッパー、もし君が産みたくないのなら…」
トニーの潤んだ瞳を捕えたペッパーは、彼の言葉を遮るように叫んだ。
「そ、そんなことないわ!あなたの子供よ!嬉しいに決まってるわ!だから、例えあなたが反対しても絶対に産むから!」
誰も反対してないだろ…と、肩を落としたトニーだったが、彼女も子供が出来たことを喜んでくれていると知ると、顔を綻ばせた。
「おい、私がいつ反対した?むしろ大賛成だ。一刻も早く君との子供は欲しい。3人か4人…いや、10人でも20人でもいいぞ!」
「20人……それは無理かも……。でも、私だってあなたの子供は大勢産みたいわ!」
目を輝かせたトニーは、ペッパーの手を引っ張り腕の中に閉じ込めた。
「よし!そうと決まれば、結婚式は前倒しだ!」
「トニー!大好き!」
見つめ合った二人が唇を合わせようとしたその時…。

『トニー様、ペッパー様。盛り上がっているところ申し訳ありません。ですが…ペッパー様は妊娠されていません』
「「え……」」
静まりかえた寝室に、ジャーヴィスの冷静な声が響き渡った。
『おそらく、食あたりだと思われます。トニー様は平気だったようですが、昨晩の牡蠣が原因と思われます。ペッパー様、病院へ行くことをお勧めします』

顔を見合わせた二人だが、急に気恥ずかしくなりベッドから飛び起きた。
「わ、私…病院へ行ってくるわ。先に会社に行ってて?」
「分かった…そうする」
そそくさと身支度を始めた二人だが、ペッパーが寝室を出ていく前にトニーは声をかけた。
「さっき言ったことは本当だからな。帰ったら…な?」
ウインクどころか投げキスまでしてきたトニーに、顔を真っ赤にしたペッパーは恥ずかしそうに頷くと部屋を飛び出して行ったのだった。

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02.Marriage blue.~結婚5題より

結婚式まであと2か月。
『働く女性の特集』のために取材を受けていたペッパー。ありきたりな質問をぶつけた後で、インタビュアーである女性記者は誰もが知りたいこの大物カップルのプライベートに突っ込んでみようと密かに考えていた。
まずはこんなものだろうと、軽めの質問をぶつけた記者。
「ところで、もうすぐご結婚ですね。いかかです?今のお気持ちは?」
彼女の質問に頬を染めたペッパーは
「ありがとうございます。そうね、正直まだ実感がなくって…」
と、恥ずかしそうに答えた。
ところでこの女性記者、10年近く前に一度だけトニーと関係をもったことがあるのだが、つい先日そのことを本人に振ったところ、『君は誰だ?』とすっかり存在を忘れられていたのだった。そんなこともあり、目の前のトニー・スタークの婚約者であるペッパー・ポッツの幸せそうな姿にすっかり嫉妬しており、一度この女を泣かせてやろうと思っていたのだった。
だがさすがは一流記者。そんな嫉妬染みたところは見せようとしない。
「そうなんですか。ちなみに結婚式はどちらで?」
と、誰も知らない特ダネを掴もうと質問してみるも、ペッパーは笑顔で質問を交わした。

その後も『子供は何人?』『新婚旅行の行先は?』などと、ありきたりな質問をしてみるが、ペッパーは笑顔で交わすばかり。
指定された時間もそろそろ終わりだ。
「最後にいいですか?」
と、立ち上がりかけたペッパーに声を掛けた記者は、ここからが本番よと意地悪な笑みを浮かべた。
「ところで、相手はあのトニー・スタークですよ?心配じゃないんです?」
「心配って?」
再びソファーに腰を下ろしたペッパーは、心配するようなことなんてあるかしらと首を傾げた。
目を光らせた記者はにんまりと笑った。
「浮気ですよ。浮気。だって、あのトニー・スタークですよ?星の数ほどもオンナを抱いてきた男ですもの。あなたに飽きる可能性だってあるわ。あ、もしかして結婚は隠れ蓑?あなたと結婚して、それを傘に山ほど愛人を作るとか?」
失礼極まりない発言に、ペッパーは頭に血が上りそうだ。だが…。
(ここで怒ったら彼女の思うツボよ…)
何度も深呼吸をしたペッパーは、営業用の笑みを浮かべると記者に向かって言い放った。
「あなたは彼が浮気するって言いたいの?私と恋人になってから、彼は浮気なんて一度もしたことないわ。それに、今の彼は私のことだけを愛してくれているの。だから私も彼の事を信じてるわ。これでいいかしら?」
にっこり笑うペッパーに対し、記者は唇を噛みしめた。
記者の完敗…と、その場にいた誰もが思ったその時だった。顔を上げた記者はペッパーを睨みつけた。
「男って、カワイイ女性に弱いのよ。仕事も何もかも出来すぎるオンナって、完璧を求めるから疎まれるの。あなたって完璧主義でしょ?だから、失礼ですけど、ポッツさんってオンナとしての魅力がないわ!」
ペッパーは何も言わなかった。だが、感情も何もない冷酷な視線は彼女の怒りを表していた。
記者を慌てて追い出したペッパーの秘書たちだったが、その後、部屋の中から何かが盛大に壊れる音が聞こえ、飛び上がったのだった。

帰宅後、ペッパーは怒り露わに夕飯を作っていた。
気が付けば包丁で切っていた野菜は粉々になっており、手伝ってくれていたユーはキッチンの片隅で震えている。
ため息を付いたペッパーは椅子に腰かけた。
「全く失礼よね!あんなことを聞いてきて!」
しばらくぷんぷんと怒っていたペッパーだったが、あの記者の捨て台詞のような言葉を思いだした。

『あなたって完璧主義でしょ?ポッツさんってオンナとしての魅力がないわ!』

確かに何でも完璧にしたい方だ。仕事も私生活も完璧にしようとする自分に、トニーはいつも『そんなに頑張らなくてもいいんだぞ?』と言ってくれる。でも、やっぱり仕事もそして彼との生活も中途半端にしたくない。でも、正直なところ結婚しても完璧に家事も仕事もこなせる自信なんてない。同棲している今だってそうだ。それに、仕事ばかりしていて、彼の事はもちろんだが、子供をきちんと育てる自信もない。きっと彼は優しいから、そんなことないと言ってくれるに決まってる。
考えれば考えるほど、自分はトニーにふさわしくないのでは…と思い始めたペッパーは、テーブルに顔を伏せるとしくしくと泣き始めた。

そこへタイミングよく帰って来たのはトニー。
キッチンへ向かった彼は、最愛の女性がテーブルに臥せって泣いているのに気づくと飛び上がった。
「ハニー?!どうしたんだ?!」
慌てふためいたトニーは、ペッパーに駆け寄り抱きしめた。

しばらくして、ペッパーはしゃくり上げながら呟いた。
「トニー…私…あなたとは結婚できないわ…」
「な、なぜだ?!」
結婚できないと言われたトニーは真っ青。突然の婚約破棄に彼は涙目になっている。
ショックのあまり何も言葉がでない。トニーは必死で言葉を探したが、何と言っていいのか分からず口を開けたまま。
顔中の涙を拭ったペッパーは、俯いたまま話し始めた。
「だって…私…いつもあなたに怒ってばかりだし、かわいらしくないでしょ?それに…結婚しても仕事も家事も完璧にできる自信なんてないわ…。あなたに呆れられるかも…。だからね、私はあなたにふさわしくないわ…」
しばらくぽかんとしていたトニーだったが、やがてペッパーの頬にキスをすると笑みを浮かべてじっと瞳を見つめた。
「おい、ペッパー。今さら何を言ってるんだ?私にふさわしいオンナ?そんなもの、君以外に考えられない。いや、君のような最高のオンナは私みたいな男にはもったいないくらいだぞ?それに、完璧じゃなくていいんだ。いや、間違えた。君は完璧だ。誰が何と言おうと、君は私にとって完璧なオンナなんだ。だからこれ以上完璧になる必要なんてないさ」
ペッパーの目から再び零れ落ちた涙を拭ったトニーは、彼女の頭を抱き寄せた。
「それと…私はそのままの君が好きなんだ。君もだろ?だからお互いもっと気楽に行こう」
トニーの言葉。それはペッパーのもやもやとしていた心をすーっと溶かしてくれた。嬉しそうに笑みを浮かべたペッパーに、トニーは優しいキスを一つ。
「それに、私も正直不安だったんだ。君の理想の夫になれるかどうか…。だが、ある時気づいた。君はありのままの私を好きになってくれたんだと。だから、このままでいいんだって…」
トニーがそう思っていたと知らなかったペッパーは、一瞬目を丸くしたが、二人とも思いは同じだと分かると、彼に思いっきり抱きついた。その背中を優しく撫でながら、トニーは首筋に口づけすると顔を埋めた。
「悩みがあるなら言ってくれ。君の悩みを受け止めるくらいはできる。一緒に解決の道を探せばいい。ほら、君と私は夫婦になるんだから…」

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01.結婚適齢期(IM2後設定)~結婚5題より

『誰かいい人はいないの?』
会う度に繰り返されていた言葉も、30才を目前にした頃には耳にしなくなった。
それなのに、タイミングがいいのか悪いのか、偶然にも(と本人は言うがおそらく違うだろう)LAへ出てきた母親と久しぶりに会ったペッパー。娘に会うや否や、母親であるシルヴィアは彼女にその言葉を浴びせかけた。
「ママ、何度も言ってるでしょ?私はね、今は仕事が大事なの。だから…」
本当はそれだけではない。それは母親も気付いているだろう。
言葉を濁した娘にシルヴィアはため息を付いた。
「でもね、ヴァージニア。ずっと待ってても叶わないこともあるの。うかうかしてると、結婚適齢期も過ぎちゃうわよ!」
顔を伏せていたペッパーは母親の言葉に思わず顔を顰めた。
(そうよ。ママには…ううん、誰にもまだ言ってないんだったわ)
10年間、心のどこかで思い続けていた恋心。それが叶ったのはつい3日前なのだから…。
今の彼に結婚する意志があるのかは分からない。いや、お互いの10年分の愛情を確認し合うのに精いっぱいで、そこまで考えられないというのが正しいのかもしれないが…。
(でも、彼はずっと一緒にいようと言ってくれたし、誓いの指輪だって…)
指に嵌めた指輪をそっと撫でたペッパーは、微かに口の端を上げた。
「あら?どうしたの?もしかして…恋人ができたの?!」
よく見ると、指に大きなダイアの付いた指輪を嵌めた娘の首筋には所有の証がいくつも刻まれているではないか。
喜びを隠しきれないのだろう。一瞬満面の笑みを浮かべたペッパーは、顔を真っ赤にすると顔を伏せた。
「…そうなの…。実はね…トニーと…」
恥ずかしそうに呟いた言葉は、シルヴィアの声にならない悲鳴でかき消された。
「あなた…よりによってあの男なの?!あんないい加減な男はやめなさい!あなたが苦労するだけでしょ!」
ショックだった。トニーの事を話す時、父親はあからさまに嫌な顔をしていたが、母親はいつも楽しそうに話を聞いてくれていた。だから、母親だけは自分の味方だと思ってた。
「どうして反対するの?トニーは世界一素敵な人よ?彼のこと何も知らないのに、決めつけないでよ!」
悔しかった。情けなかった。トニーのことは自分が一番よく分かっている。彼は世界一素敵で、自分のことを大切に思ってくれている。それなのに、会ったこともない母親に彼の事を否定され、ペッパーの目からは涙がボロボロと零れ落ちた。
この後トニーとは食事をすることになっている。母親と会うことを告げると、トニーは『もしよかったら、お義母さんも一緒にどうだ?』と言ってくれていたのだ。
「もういいわ…」
涙を拭ったペッパーは、カバンを掴むと立ち上がった。
「ヴァージニア…待って…」
何か言いたそうに母親は娘の腕を掴んだが、ペッパーはその手を振りほどいた。
「ごめんなさい、ママ。反対されても、私は彼と生きていくわ」
そうは言ったものの、やはり両親には認めてもらいたい。泣き出しそうな顔を隠そうと、ペッパーは逃げるように出口へと向かった。

拍手お礼再掲。

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