01.結婚適齢期(IM2後設定)~結婚5題より

『誰かいい人はいないの?』
会う度に繰り返されていた言葉も、30才を目前にした頃には耳にしなくなった。
それなのに、タイミングがいいのか悪いのか、偶然にも(と本人は言うがおそらく違うだろう)LAへ出てきた母親と久しぶりに会ったペッパー。娘に会うや否や、母親であるシルヴィアは彼女にその言葉を浴びせかけた。
「ママ、何度も言ってるでしょ?私はね、今は仕事が大事なの。だから…」
本当はそれだけではない。それは母親も気付いているだろう。
言葉を濁した娘にシルヴィアはため息を付いた。
「でもね、ヴァージニア。ずっと待ってても叶わないこともあるの。うかうかしてると、結婚適齢期も過ぎちゃうわよ!」
顔を伏せていたペッパーは母親の言葉に思わず顔を顰めた。
(そうよ。ママには…ううん、誰にもまだ言ってないんだったわ)
10年間、心のどこかで思い続けていた恋心。それが叶ったのはつい3日前なのだから…。
今の彼に結婚する意志があるのかは分からない。いや、お互いの10年分の愛情を確認し合うのに精いっぱいで、そこまで考えられないというのが正しいのかもしれないが…。
(でも、彼はずっと一緒にいようと言ってくれたし、誓いの指輪だって…)
指に嵌めた指輪をそっと撫でたペッパーは、微かに口の端を上げた。
「あら?どうしたの?もしかして…恋人ができたの?!」
よく見ると、指に大きなダイアの付いた指輪を嵌めた娘の首筋には所有の証がいくつも刻まれているではないか。
喜びを隠しきれないのだろう。一瞬満面の笑みを浮かべたペッパーは、顔を真っ赤にすると顔を伏せた。
「…そうなの…。実はね…トニーと…」
恥ずかしそうに呟いた言葉は、シルヴィアの声にならない悲鳴でかき消された。
「あなた…よりによってあの男なの?!あんないい加減な男はやめなさい!あなたが苦労するだけでしょ!」
ショックだった。トニーの事を話す時、父親はあからさまに嫌な顔をしていたが、母親はいつも楽しそうに話を聞いてくれていた。だから、母親だけは自分の味方だと思ってた。
「どうして反対するの?トニーは世界一素敵な人よ?彼のこと何も知らないのに、決めつけないでよ!」
悔しかった。情けなかった。トニーのことは自分が一番よく分かっている。彼は世界一素敵で、自分のことを大切に思ってくれている。それなのに、会ったこともない母親に彼の事を否定され、ペッパーの目からは涙がボロボロと零れ落ちた。
この後トニーとは食事をすることになっている。母親と会うことを告げると、トニーは『もしよかったら、お義母さんも一緒にどうだ?』と言ってくれていたのだ。
「もういいわ…」
涙を拭ったペッパーは、カバンを掴むと立ち上がった。
「ヴァージニア…待って…」
何か言いたそうに母親は娘の腕を掴んだが、ペッパーはその手を振りほどいた。
「ごめんなさい、ママ。反対されても、私は彼と生きていくわ」
そうは言ったものの、やはり両親には認めてもらいたい。泣き出しそうな顔を隠そうと、ペッパーは逃げるように出口へと向かった。

拍手お礼再掲。

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。