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16.不感症

 スターク・インダストリーズの言わばライバル会社であるハマー・インダストリーズにはジャスティンという跡取り息子がいた。とは言っても、SIの取引先はHIよりも多く、製造される武器に関しても優れているため、HIは常に二番手だった。ということで、いつもトニー・スタークと比べられる彼は少々劣等感を持っていた。それでも年が近いこともあってか、嫌がるトニーにハマーはいつもちょっかいを出してはつるんでいたのだった。

その日、とあるパーティーで出会った二人だが、早々に抜け出して帰ろうとするトニーを捕まえたハマーは、嫌がる彼に酒を飲ませていた。
「おい、トニー。最近付き合いが悪いじゃないか?そうか、彼女がいるんだよな?」
分かっているなら早く帰らせろと睨みつけたトニーが、ハマーは全く気にしていない。そればかりか、アルコールの強い酒をトニーに無理やり飲ませ続けた。
「せっかく久しぶりに会ったんだ。今日は楽しもう」
酔いが回り頭がフラフラし始めたトニーに、楽しげなハマーの声は聞こえていなかった。
「もう帰る…」
と立ち上がったトニーだが、足元がふらつきハマーに支えられるとそのまま意識を失った。

「気がついたか?」
薄っすらと目を開けたトニーにハマーは声を掛けたが、彼は自分がどこにいるかも分かっていないようだ。
「かえらないと……」
起き上がったトニーだが、眩暈が酷く再びベッドに倒れこんだ。
「待てよ。いい物が手に入った。少し付き合えよ」
そう言いながら、ハマーは咥えていた煙草をトニーに咥えさせた。一服すれば頭も多少はすっきりするか…と紫煙を吸い込んだトニーだが、単なる煙草ではないのだろうか。咳き込んだトニーだが、頭は靄がかかったようにますますぼんやりとしてきた。
「上物だろ?このクスリはぶっ飛ぶぞ?」
乾いたハマーの笑い声が響き渡るが、トニーは身体を動かすことも声を発することもできなかった。

「ねぇ?せっかくだから三人で楽しみましょ?」
突然目の前に現れた金髪の全裸の美女。一体このオンナは誰なんだ…と思考回路の停止した頭で考えるトニーだが、彼が動けないのをいいことに、オンナは服を脱がせると下腹部に顔を埋めた。
しばらく奮闘していたオンナだが、ズルっという音をたてて顔を上げた。
「あら?彼って不感症なの?」
不満げに口を尖らせたオンナの腰に手を添えたハマーは肩をすくめた。
「そんなはずない。こいつは何人ものオンナを虜にしてきたんだから。だが、感じないなら仕方ない。二人で楽しめばいいさ」

翌朝、目を覚ましたトニーは、自分の置かれている状況を見て青ざめた。
自分は何も身につけておらず、裸の美女が腹に顔を乗せて眠っているではないか。(ちなみにその横にはハマーがいた。)
酔っていたとはいえ、俺は他のオンナと…と、トニーは思わず顔を覆った。だが…。
「あなたは何もしてないわよ」
眠っていたはずのオンナの声に顔を上げると、オンナはトニーの胸元に指を滑らせながら笑みを浮かべた。
「私がどれだけ頑張ったと思ってるの?だけど、あなたは感じてくれなかったの。だから、ぐうぐうイビキをかいて寝ているあなたの横で、私たちは楽しませてもらったの」
クスっと笑った女は、ポカンと口を開けたままのトニーに跨ると頬にキスをした。
「もう…私のテクニックで感じなかった男はあなたが初めてよ。それに、誰かいい人がいるんでしょ?寝言で何度も名前を呼んでいたわ。その子を大事にしてあげて」
悪戯めいた笑みを浮かべたオンナはトニーの股間をぎゅっと握った。ひぃ!と小さく叫び声を上げたトニーは飛び起きると、身支度を整え慌てて部屋を飛び出した。

何とか家に辿りついたトニーは、玄関先に倒れこんだ。
頭痛に吐き気と完全に二日酔いだ。それに、ハマーに無理やり吸わされた煙草。あれはクスリだったのだろう。いつもの二日酔いよりもさらにひどい状況にしばらくその場でじっとしていたトニーだが、起き上がるとバスルームに駆け込んだ。

パーティーで遅くなると言われ先に眠っていたペッパーは、玄関から聞こえる物音に目を覚ました。
きっとトニーが帰って来たんだわ…と飛び起きたペッパーは玄関に向かったが、玄関はおろかリビングにも彼の姿は見当たらない。
「どこかしら…」
もしかしたら二日酔いで籠っているのかも…とバスルームへ向かったペッパーだが、そこでも物音は聞こえず、不思議に思いながらドアを開けた。
「と、トニー!」
青い顔をしたトニーはぐったりと壁にもたれ掛り座っていた。大汗をかき目は虚ろで震えている。
「大変…」
こんなに酷い状態の彼は見たことがない。ペッパーと暮らし始めてからのトニーは、滅多なことで飲みすぎることもなかったし、自分でも気を付けているのだから、おそらく誰かに飲まされたのだろう。早く介抱しなければと、トニーを抱えるように起こしたペッパーは寝室へと連れて行った。

水と薬を飲ませ寝かせるとトニーはそのままこんこんと眠り続け、夕方になりようやく目を覚ました。
食欲をそそる匂いに起き上がったトニーがキッチンへ向かうと、エプロンを着けたペッパーが夕食を作っていた。
「目が覚めた?気分はどう?」
トニーに気付いたペッパーはお皿に料理を盛り付けながら振り返った。
「あぁ、もう大丈夫。ゴメン、心配かけた」
椅子に座ったトニーが水を飲んでいると、ペッパーは目の前にお皿を置いた。中にはペッパー特製のスープ。体調が悪い時、必ず作ってくれる栄養満点の彼女お得意のスープだ。
「もう、どうしてあんなになるまで飲んだのよ」
スープを食べながら頬を膨らませているペッパーに、トニーは頭を下げた。
「俺は嫌だと言ったのにハマーの奴が…。…言い訳みたいだな。結局飲んだのは俺なのに…。すまない。もうこんなことはしない」
何度も謝りながらも空腹だったのだろう、お代わりをするほど食べたトニーがソファーに座り身体を伸ばしていると、片付け終わったペッパーが腰を下ろした。
「あんなあなたの姿を見たのって初めてかも…」
ふふっと笑い身体を摺り寄せてきたペッパーを膝の上に乗せたトニーは、首筋を中心に赤い花を散らし始めた。
貪るようにキスを繰り返していた二人だが、顔を赤らめたペッパーが急にもじもじとし始めた。
「…トニー…」
何を恥ずかしそうにしているんだと思いきや、どうやらスウェット越しに熱い塊が当たっているらしい。
「ペッパーにしか反応しない…か」
ぼそっと呟いたトニーだったが、何か言おうとしているペッパーに気付くと、彼女の口を塞ぎその場に押し倒したのだった。

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29:60.融和

三ヶ月後。
卒業式を終えたペッパーは、その足でNYへ向かった。
トニーは数週間に退院したが、卒業を控えていたペッパーは忙しく、もちろんトニーの退院に付き添えなかったばかりか、二人は一ヶ月半近く会っていなかった。
久しぶりにトニーに会うということもあり、ペッパーはいささか緊張しながらスターク社へ向かった。
受付で名乗ると、受付嬢は優しく微笑み、
「お待ちしておりました、ポッツ様」
と、社長室へ連れて行ってくれた。

「少しお待ちください」
と、受付嬢が退室した後、落ち着かないペッパーは部屋の中をウロウロし始めた。トニーにしては珍しくスッキリと片付いたデスクには、たくさんの写真立てが置いてある。興味本位に覗き込むと、どれもペッパーの写真だった。会えなかったこの一ヶ月半、少しでもお腹の子供の様子が分かるようにと、毎週のようにお腹を写した写真を送っていたのだが、トニーはそれを全て飾ってくれていたのだ。
「トニーったら…」
他にも二人で撮った写真がたくさん飾られており、ペッパーが手に取り眺めていると、ドアが開き松葉杖をついたトニーが現れた。

「ペッパー!」
満面の笑みを浮かべたトニーは、松葉杖を手放すと両腕を広げた。その腕に飛び込むように駆け寄ってきたペッパーを抱きしめたトニーは、力強く彼女を抱きしめた。
「ペッパー、卒業おめでとう。これからはずっと一緒だ」
トニーの腕の中でペッパーは幸せだった。
『これからは、ずっと一緒』
その言葉を聞きながら、ペッパーは最愛の人の胸元に顔を埋めると、心地よい心音に目を閉じたのだった。

高校生パロ。社会人トニー21歳 大学生ペッパー19歳。

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28:141.痩せ我慢

クリスマス休暇は家族ぐるみで過ごしたため、もちろん部屋は別。ほとんど二人きりにはなれなかったが、両親たちがオペラ鑑賞に出かけた隙に、ようやく二人きりになることができた。一ヶ月ぶりの温もりに貪るように抱き合った二人。情事の後、身体中に飛び散った名残をシャワーで流しあった二人は、ソファーに座りキスをしていた。
「なぁ、ペッパー。熱でもあるのか?」
先ほど愛し合った時に普段よりも彼女の体温が高いように感じたトニー。
「え?どうして?私は元気よ?」
不思議そうな顔をしたペッパーは確かに至って元気だ。
(そうだよな。元気すぎるくらい元気だよなぁ…)
気のせいかと思い直したトニーは「何でもない」と言うと、ペッパーの首筋に再びキスを刻み始めた。

それから一ヶ月ほど経った2月に入ったある朝。
ペッパーは朝からトイレに籠っていた。ここ数日、気分も悪く、食べてもすぐに戻してしまう。微熱も続いてるし、眠くて仕方ない。
ふとカレンダーを見たペッパーは、気がついた。
(そういえば…遅れてる?)
確かめる方法はただ一つ。
ドラッグストアで検査薬を買ったペッパーは、家に帰るとトイレに向かった。

「どうしよう…」
結果は陽性だった。つまり、ペッパーは妊娠していたのだ。

すぐにトニーに連絡したペッパーだが、彼は仕事中なのだろう、電話に出なかった。話したいことがあるとメールを送ったペッパーがベッドでうとうとしていると、トニーから電話が掛かってきた。
「すまない、ペッパー。会議中だったんだ。どうしたんだ?」
何かあったのでは…と、心配そうなトニーに、何度か深呼吸したペッパーは、恐る恐る話し始めた。
「トニー…あのね…。大事な話なの。……赤ちゃんができたの…」
「え…」
電話の向こうで一瞬言葉を失ったトニーだが、しばらくして彼は口を開いた。
「そうか。ペッパー、君の体調は?気分は悪くないか?」
何よりもペッパーの体調を心配したトニーは、いつもの口調ではなく心なしかうわずんだ声をしている。
「何とか大丈夫…」
ホッとしたようなトニーは、
「そうか。これからそっちへ行く。待っててくれ」
と言うと、電話を切った。

深夜になり、ペッパーがリビングのソファーの上でうとうとしかけていると、玄関が開きトニーがそっと帰ってきた。
「ハニー、遅くなってすまない。道が混んでて…」
ペッパーの隣に座ったトニーは、腕を伸ばし抱きついてきたペッパーを抱きしめた。
「トニー…。どうしよう…妊娠したの…」
涙を流すペッパーをギュッと抱きしめたトニーは、ペッパーの顔中にキスをすると嬉しそうな顔をした。
「あぁ。まずはGKか?」
「何の話?」
話が見えず、ぽかんと口を開けたペッパーだが、トニーはニコニコしている。
「言っただろ?サッカーチームを作るって。よし、あと10人だな…」
「本気なの?!」
あと10人?!あと10人も子供を作るの?!
驚きのあまり言葉を失っているペッパーに、トニーは慌てて言った。
「サッカーチームは言い過ぎた。だが、君との子供はたくさん欲しいと言っただろ?君は最高のオンナだ。俺の妻になってくれるばかりか、子供まで与えてくれ ようとしてるんだから…」
要するに、トニーは妊娠したことをとても喜んでくれているのね…。『嬉しい』という言葉を言わないのは、おそらく喜びのあまり自分でも何を言ってるのか分かってないんだわ…と理解したペッパーは、
「うん!」
と言うと、トニーに力いっぱい抱きついた。
しばらくそのまま抱き合っていた二人だが、トニーは気がかりだったことを口にした。
「ペッパー、卒業できそうか?」
「うん、あと三ヶ月くらいだし…」
ペッパーがボストンの大学に進学し、トニーと一緒に住む条件…それは、きちんと卒業させるというトニーと父親との約束があったからだ。
「それなら大丈夫だな」
と、安心したように息を吐いたトニーは、ペッパーの目をじっと見つめた。
「俺もこっちに住むよ。ほら、もうすぐつわりも始まるんだろ?君の体調が心配だ。どうしても無理な時は戻って来れないけど、君のそばにいたいんだ」
トニーがボストンに住むと言い始め、ペッパーは慌てた。
「ダメよ!すごく時間がかかるのよ?!」
だが、トニーはここへ来る前から決めていたのだろう。
「大丈夫だ。そんなに柔じゃない。それに、愛する君との間に授かったんだぞ?この子が成長する姿を一緒に見守りたいんだ」
と言うと、玄関に置いてある荷物をちらりと見た。
こんなにも自分のことを考えてくれていると、涙が出そうになったペッパーは、
「ありがとう…」
と、トニーにしがみついた。ペッパーの背中を優しく撫でたトニーは、道中考えていたことを次々口に出した。
「明日は病院へ行こう。きちんと診てもらわないとな。それから、週末に君のご両親に謝りに行ってくる。君のお父さんと約束したんだ。正式にお許しをもらわないと」
「うん…」
どうして彼はこんなに大きくて温かいんだろう…。よかった…この子のパパがトニーでよかった…。
ポロポロと涙を流すペッパーにニヤッと笑いかけたトニーは
「ほら、母親になるんだぞ?泣き虫は卒業しろよ?」
と、まだ膨らんでいないペッパーのお腹にそっと手を触れた。

翌日からトニーのNYとボストンを往復する生活が始まった。
朝早く出ていき、深夜近くに帰ってくるトニー。つわりに始まったペッパーの代わりに、苦手な掃除洗濯も彼は進んで協力してくれた。
休日には、疲れ切っている身体に鞭を打ち、トニーはペッパーの気晴らしになるようにとあちこち彼女を連れて行き、休む暇もなかった。
明らかに疲れているトニーだが、ペッパーの笑顔が見たい、ただその一心だった。そして、毎日一緒に過ごせることが嬉しくて、ペッパーはトニーが疲れ切っていることに気付いていなかったのだ。

ある日、ペッパーが起きるとトニーは出社した後だった。
リビングのカレンダーのスケジュールを見ると、朝9時から会議となっている。となると、出て行ったのは5時前だろう。昨日も帰ってきたのは日付が変わった頃。2、3時間しか眠っていないであろうトニーのことがいささか心配になったペッパーは、彼に電話をしようとした。
だが、タイミング悪く母親から電話がかかってきた。
「ヴァージニア、つわりは?」
心配そうな母親を安心させるように、ペッパーは明るい声で言った。
「大丈夫よ、ママ。トニーがいてくれるし」
NYにいるはずのトニーがそばにいると知り、母親は驚いた。
「もしかしてトニーくん、毎日NYまで通ってるの?!」
「うん。私が心配だからって」
母親は思わずため息をついた。どうして彼のことを考えてあげないのかしら…と。
「ヴァージニア…。トニーくんのこともきちんと考えてあげなさい?彼は優しいから何も言わないだろうけど、毎日働いて、NYとボストンを何時間もかけて往復して…。疲れてるに決まってるわよ」
自分でも分かっていた。トニーが疲れ切っていることは…。顔色も悪いし、朝ごはんもほとんど食べていないことも分かっていた。帰ってくると死んだように眠っている彼を毎日叩き起こすのは辛かった。でも、トニーは何も言わなかった。何も言わず抱きしめてくれるだけで安心できた。だから、彼の優しさに甘えていた…。
黙ったままのペッパーに、母親はやや強い口調で諭すように言った。
「あなたも一人で不安かもしれないわ。でもね、トニーくんはあなたの旦那様になるのよ?妻なら夫の体調管理もきちんとしてあげなさい!」
そう言うと母親は電話を切ったが、ペッパーの目から涙が零れ落ちた。
「分かってる…分かってるもん…」

この生活を始めてから、毎日2、3時間しか眠っていない。寝不足のまま車でボストンとNYを往復し、途中何度も居眠りしそうになった。さすがに車を運転するのは…と、最近は電車やバスを使ったりもしているが、それでも時間がかかるのは当然だ。部下はみんな協力的で、出来るだけトニーを早く帰宅させてくれるが、それでも週に何度かは遅くなり、NYに泊まった方がいいかもしれないと思った。だが、ペッパーの笑顔を見れると思うと、ボストンまでの道のりは長くな かった。
しかし、さすがに身体は限界だった。
疲れ切っているトニーは、わずかな時間を見つけ部屋で居眠りをし、何とかこなしている状態だった。

今日も朝の会議を終え、書類のチェックをしていたトニーだが、気がつくと眠っていたようだ。
「スターク様…」
秘書に声を掛けられ飛び起きたトニーが時計を見ると、会議の時間だ。今日はLAから社長である父親を含め、重役たちが出席する大切な会議。遅刻する訳にはいかないと、トニーは慌てて会議室へ向かった。
途中、合流した部下たちは、トニーを見ると顔を曇らせた。
「ボス、顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」
「あぁ…大丈夫だ」
そうは言ったものの、手足は小さく震えており、熱でもあるのか息苦しく頭はぼんやりしている。目は虚ろで、明らかに具合が悪そうなトニーを、部下たちは心配そうに見つめた。
歩き始めたトニーだが、ひどくめまいがし始め、こめかみを押さえた。

「……トニー?トニー!」
名前を呼ばれているのに気づいたトニーが顔を上げると、階段の下には父親がいた。
「親父…」
トニーを見て嬉しそうに笑った父親。階段を降りようとしたトニーだが、突然目の前がぐるぐる回りだした。
あ…と思った時には遅かった。
足を踏み外したトニーは、階段の一番上から下まで派手な音を立てて転がり落ちた。途中、あちこちから鈍い音が聞こえたため、嫌な予感がしたトニー。体を動かそうとしたトニーは、案の定下半身に激痛が走り動くことができない。
「トニー!トニー!しっかりしろ!」
父親の叫び声と騒然とする周囲の声を聞きながら、トニーは意識を手放した。

「過労です。相当無理をされていたようですね。階段から転落された時に、肋骨と腰、右手足を骨折されましたが、頭部は大丈夫でした」
いびきをかいて眠り続ける息子の頬を撫でたマリアは、傍らに立つハワードの手を握った。
「この子ったら…いつも一人で頑張りすぎなのよね…。もう少し頼ってくれてもいいのに…」
「そうだな…」

その時、マリアから電話をもらいNYへ駆けつけたペッパーが、病室へ入って来た。
「ペッパーちゃん…」
「お母様…トニーは?!」
涙で真っ赤な目をしたペッパーは、トニーを見ると新たな涙を浮かべた。
「大丈夫よ。しばらく入院だけど、命に別状はないそうよ」
震えるペッパーを抱きしめようとしたマリアだが、ペッパーは二人に向かって頭を下げた。
「私のせいなんです…。私のために、トニーは無理をしたんです…。だから…お父様、お母様…すみませんでした!」
そう言うと、声を上げてペッパーは泣き始めた。
「ペッパーちゃんのせいじゃないわ!」
「そうだ。子供ができたのに、君のことを放っておくような男だったら、殴っていた。君のせいじゃない」
泣き続けるペッパーをハワードもマリアも決して責めることをしなかった。そればかりか、ペッパーの体調を心配し、抱きしめ続けてくれたのだった。

よほど疲れていたのだろう。眠り続けたトニーが目を覚ましたのは、三日後だった。
「トニー、ごめんなさい…あなたに無理させて…」
大粒の涙を零すペッパーの手を握ると、トニーは笑みを浮かべた。
「いいんだ、ペッパー。俺がやりたくてやったんだ。君の笑顔を毎日見たかったのは、俺なんだから…」
トニーの優しい言葉に目を潤ませたペッパーだが、涙を拭うとトニーの手を自分のお腹に当てた。
「ねぇ、トニー。あなたは退院してもNYにいて?あなたは一人じゃないの。あなたには守らなければならない会社があるのよ?お父様もお母様も…。それにね、この子も…。だから無理しないで?私は一人で大丈夫。それに、もう三ヶ月の辛抱よ?一人で頑張れるわ。だから…」
妊娠したと告げられた時、彼女は不安と戸惑いで押しつぶされそうになっていた。だからこそ、そばにいて守らなければと思った。だが、今の彼女はトニーを、そして子供を守るという決意に満ち溢れ、すっかり母親の顔になっていた。
(これなら大丈夫だ…)
そう感じたトニーは、ペッパーを抱き寄せると頬にキスをした。
「分かった。どちらにしてもしばらく動けないけど…。ペッパー、ありがとう。君がNYに来るのを待ってるよ…」

29:060.融和

高校生パロ。社会人トニー20歳 大学生ペッパー18歳。

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27:50.めくるめく甘い夜

ペッパーの卒業まであと半年となった11月のある日。卒業式までを指折り数えていたペッパーの元に、トニーから電話が掛かってきた。
「来週、ボストンで会合があるんだ。会合の後に休みも取った。十日ほどそっちに行くから」
トニーの嬉しそうな声にペッパーも大喜び。
「ホント?!やったー!」
と、飛び上がったペッパーは、カレンダーに走り寄ると大きなハートマークを付けたのだった。

そして一週間後。
「ただいま」
と言う声に、ペッパーは玄関に向かって走った。
「トニー!おかえりなさい!!」
玄関のドアを閉めるなり抱きついてきたペッパーを受け止めたトニー。顔や首筋にキスを始めたトニーは、力が抜け始めたペッパーを壁に押し付けた。手際良く服を脱がされ、気づけば裸同然なっていたペッパー。下腹部から沸き起こる快楽と水音に首をイヤイヤと振ったペッパーは、片足を持ち上げ熱い塊を押し付けるトニーの肩に顔を埋めた。
「と、とにー…ご飯…」
だが、トニーは鼻を鳴らすと、己で入り口をなぞり始めた。
「後で食べる。その前に君を…」
「さ、さめちゃうわ…」
こんな所で…と思う一方、早くトニーに抱かれたい…。ペッパーの心の迷いを見透かしたように、トニーは耳たぶを甘噛みした。
「ハニー。一か月ぶりの再会だぞ?そんなこと言うな」
久しぶりに聞く甘い声に小さく頷いたペッパーは、トニーの熱い塊を受け入れると悦びの声を上げ続けた。

「ご飯冷めちゃったじゃないの…」
ひとしきり愛を囁きあった後、ブツブツと文句を言いながら、ペッパーは料理を温め直しトニーの前に並べた。
「君もうまかったけど、料理も最高だな?」
嬉しそうに料理にかぶりつくトニーもペッパーも、久しぶりに過ごせる二人きりの時間を楽しんでいたのだった。

翌日から会合のため朝早くからトニーは出かけて行き、帰宅するのも夜遅くだったが、それでもお互いの温もりに包まれて眠ることが出来、二人は幸せだった。そんな幸せな日々が三日続いた夜のことだ。明日は会合の最終日。これが終わればトニーは休暇を取っているため、二人きりで過ごすことが出来ると、ペッパーはワクワクしていた。
珍しく早く帰って来たトニー。バスルームへ引っ張り込まれたペッパーはシャワーを浴びながら散々愛され、少々のぼせていた。バスタブの中でトニーに背後から抱きしめられたペッパーが真っ赤な顔をしているのは、のぼせただけではないだろうが…。
そんなペッパーの首筋にキスを刻んでいたトニーが、思い出したように口を開いた。
「会合も明日で終わりだ。夜にはパーティーがあるんだ。なぁ、ペッパー。一緒に来てくれないか?」
思いもしない提案に、ペッパーは立ち上がったが、入浴中で何も着ていないのだ。恥ずかしそうに胸を抑えるとトニーの膝の上に向かい合わせで座り込んだ。
「え?!いいの?」
目をぱちくりさせているペッパー。それもそのはず。マスコミの前に出ればペッパーの存在がバレてマスコミに付け回されると、トニーは卒業するまでペッパーを公の場に出さないと常々言っているのだから。
「あぁ。君さえ迷惑でなければ…。それに、明日は内輪の会だからマスコミはいない」
ニヤリと笑ったトニーにペッパーは飛びついた。
「うん!行く!どうしよう…何着て行こう…」
頭を抱え悩むペッパーを愉快そうに見ていたトニーだが、ペッパーを抱きかかえるとそのまま寝室へ向かった。

翌日、帰宅したペッパーはリビングに大きな箱があることに気付いた。箱にはメッセージカードが付いており、カードを開いたペッパーは歓声を上げた。
『18時に迎えに来る。気に入ってくれればいいが…』
箱を開けると、マーメードラインのグレーのドレスにジュエリーに靴、そしてバッグと一式揃っているではないか。
「素敵!」
早速着てみると、サイズもぴったり。
「トニーって、何で私の事をこんなに分かってるのかなぁ…」
まだ学生の身のペッパーは、貰うばかりで返すことができない。ありったけの愛をあげることしかできないと言ったら、トニーは「それがいいんだ。それが一番だよ」と笑って答えていたことを思い出したペッパーは、髪をアップにするとメイクをし始めた。

迎えに来たトニーと向かったのは、市内にある高級ホテル。
ホテルのラウンジを貸し切って行われているパーティーは、トニーが内輪だと言ってように、こじんまりとしたものだった。
見るからにお偉いさんに挨拶するトニーの横でペッパーはニコニコと笑顔でいるように努めていた。
「おや、こちらのお嬢さんは?妹さんかい?」
「い、いえ…」
否定しようとしたトニーとペッパーだが、相手は話を聞いていない。
「トニーくんは素晴らしい男だ。うちに年頃の孫がいるんだ。君の写真を見て君のことが気に入っていてね。結婚してやってくれ」
いかにも昔気質の頑固そうな老人。他の人間には一切話をしないのにトニーのことを気に入っているようで、トニーとばかり話をしている。そしてとうとう孫と結婚しろとまで言い出した。
トニーはもちろん、彼の両親であるハワードとマリアもその気はないのは分かっている。だが、世間体というものがあるだろう。妹ではないと否定できないペッパーは思わず俯いてしまった。
ペッパーの様子をチラっと見たトニーは、安心させるように手をギュっと握りしめた。
「申し訳ありませんが、そのお話はお断りさせて頂きます」
ムッとした表情をした老人だが、トニーは顔色を変えない。
「あ、紹介が遅れました。彼女は俺の婚約者です。ですから、結婚相手は間に合ってます」
何か言いたげな老人に一礼すると、トニーはペッパーの手を引張っり別の集団へと向かった。
見覚えのある後ろ姿にトニーは
「親父」
と、声をかけた。振り返ったのはトニーの父親であるハワード。ペッパーに気づいたハワードは、腕を伸ばすとペッパーを抱きしめた。
「ヴァージニアさん、久しぶりだね」
「お父様!お久しぶりです」
去年のクリスマス以来なのだから、ほぼ一年ぶりの再会だ。
「来月のクリスマスは、ドイツに行こうと思ってるんだ。古城を貸し切ってね。君のご両親にはもう連絡しているから。マリアも楽しみにしているんだ」
楽しそうに話す父親と恋人を嬉しそうに見ていたトニーだが、父親に目配らせするとペッパーの手を引っ張った。
「じゃあ、親父。俺たちはこの辺で…」
「あぁ。頑張れよ」
父親に頑張れと言われたトニーは軽く睨みつけたが、ハワードは気にする風でもなく、二人に向かって手を振っている。
「どうしたの?」
状況が分からず首を傾げるペッパーだが、トニーは黙ってエレベーターに乗ると、最上階を目指した。

最上階のバーは人も少なく先ほどのラウンジとは違い静かだった。
「素敵な所ね」
初めて来るお洒落なバーをキョロキョロと見渡すペッパー。窓際の夜景が一望出来る席に通されると、トニーは
「適当に頼むぞ?」
と、何やら頼み始めた。

しばらくして、バーテンダーが直々にグラスを持ってやって来た。
「こちらはスターク様からポッツ様へプレゼントでございます」
ペッパーの目の前に置かれたのは、細長いグラス。持ち手は真っ赤なバラで飾られており、そしてグラスの中にはシャンパンと指輪。
「トニー…これ…」
目を見開いてグラスの中身とトニーを交互に見つめるペッパーの目には、次第に涙が溜まり始めた。
立ち上がったトニーは指輪を取り出すとペッパーのそばに跪いた。
「ペッパー、正式に伝えるのが遅くなってすまなかった。だけど、男として、自分の稼ぎで君を養えるようになるまで…と決めてたんだ。君ももうすぐ卒業だ。だからこの機会に言わせてくれ。ヴァージニアさん、俺と結婚してください。君は俺の全てだ。君なしの人生なんて、今までもそしてこれからも考えられない。だから、ずっと俺の傍にいてくれないか?」
言葉では何度もプロポーズされていた。だが、言葉だけではなく思い出とそして形に残る物を、それも最高のシチュエーションでトニーはプレゼントしてくれた。
ポロポロと大粒の涙を零しながら、ペッパーはトニーに向かって手を差し出した。
「トニー…わ、私…」
涙が出て言葉にすることができない。しゃくり上げながらトニーに抱きついたペッパーは、彼のジャケットをギュっと握りしめた。
「おい、ペッパー。返事は?一生に一回なんだぞ?ちゃんと聞かせてくれよ」
ペッパーの背中を撫でながら笑ったトニーに、ペッパーは涙でグチャグチャになった顔を向けた。
「私…あなたの傍を一生離れないから!」

「部屋を取ってあるんだ」
と、トニーが向かったのはスイートルーム。
「ペッパー、永遠に愛してる…」
ふかふかのベッドの上にペッパーをそっと下ろしたトニーは、一晩中愛の言葉を囁き続けた。

朝方まで愛し合っていた二人が目覚めたのは、太陽が南の空に昇りきった頃だった。
枕元の時計を見たペッパーは、慌てて飛び起きた。
「大変!トニー!もうお昼よ!」
慌てふためくペッパーだが、寝ぼけ眼のトニーは、彼女の腕を引っ張ると自分の腕の中に閉じ込めた。
「大丈夫…明後日までここは予約してる…」
「あ、明後日?!」
目を白黒させていたペッパーだが、すぐにトニーから与えられる愛に溺れていった。

結局、二人はベッドの中のみならず、リビングやジャグジー、シャワールームと様々な場所で三日間愛し続けた。次にこんなに長い間二人きりでいられるのは、おそらく半年後…ペッパーが卒業してから。共に暮らせるようになる日までの思いを全てぶつけるかのように、トニーは自分の思いを彼女の中に吐き出し続けたのだった。

28:141.痩せ我慢

高校生パロ。社会人トニー20歳 大学生ペッパー18歳。

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