16.不感症

 スターク・インダストリーズの言わばライバル会社であるハマー・インダストリーズにはジャスティンという跡取り息子がいた。とは言っても、SIの取引先はHIよりも多く、製造される武器に関しても優れているため、HIは常に二番手だった。ということで、いつもトニー・スタークと比べられる彼は少々劣等感を持っていた。それでも年が近いこともあってか、嫌がるトニーにハマーはいつもちょっかいを出してはつるんでいたのだった。

その日、とあるパーティーで出会った二人だが、早々に抜け出して帰ろうとするトニーを捕まえたハマーは、嫌がる彼に酒を飲ませていた。
「おい、トニー。最近付き合いが悪いじゃないか?そうか、彼女がいるんだよな?」
分かっているなら早く帰らせろと睨みつけたトニーが、ハマーは全く気にしていない。そればかりか、アルコールの強い酒をトニーに無理やり飲ませ続けた。
「せっかく久しぶりに会ったんだ。今日は楽しもう」
酔いが回り頭がフラフラし始めたトニーに、楽しげなハマーの声は聞こえていなかった。
「もう帰る…」
と立ち上がったトニーだが、足元がふらつきハマーに支えられるとそのまま意識を失った。

「気がついたか?」
薄っすらと目を開けたトニーにハマーは声を掛けたが、彼は自分がどこにいるかも分かっていないようだ。
「かえらないと……」
起き上がったトニーだが、眩暈が酷く再びベッドに倒れこんだ。
「待てよ。いい物が手に入った。少し付き合えよ」
そう言いながら、ハマーは咥えていた煙草をトニーに咥えさせた。一服すれば頭も多少はすっきりするか…と紫煙を吸い込んだトニーだが、単なる煙草ではないのだろうか。咳き込んだトニーだが、頭は靄がかかったようにますますぼんやりとしてきた。
「上物だろ?このクスリはぶっ飛ぶぞ?」
乾いたハマーの笑い声が響き渡るが、トニーは身体を動かすことも声を発することもできなかった。

「ねぇ?せっかくだから三人で楽しみましょ?」
突然目の前に現れた金髪の全裸の美女。一体このオンナは誰なんだ…と思考回路の停止した頭で考えるトニーだが、彼が動けないのをいいことに、オンナは服を脱がせると下腹部に顔を埋めた。
しばらく奮闘していたオンナだが、ズルっという音をたてて顔を上げた。
「あら?彼って不感症なの?」
不満げに口を尖らせたオンナの腰に手を添えたハマーは肩をすくめた。
「そんなはずない。こいつは何人ものオンナを虜にしてきたんだから。だが、感じないなら仕方ない。二人で楽しめばいいさ」

翌朝、目を覚ましたトニーは、自分の置かれている状況を見て青ざめた。
自分は何も身につけておらず、裸の美女が腹に顔を乗せて眠っているではないか。(ちなみにその横にはハマーがいた。)
酔っていたとはいえ、俺は他のオンナと…と、トニーは思わず顔を覆った。だが…。
「あなたは何もしてないわよ」
眠っていたはずのオンナの声に顔を上げると、オンナはトニーの胸元に指を滑らせながら笑みを浮かべた。
「私がどれだけ頑張ったと思ってるの?だけど、あなたは感じてくれなかったの。だから、ぐうぐうイビキをかいて寝ているあなたの横で、私たちは楽しませてもらったの」
クスっと笑った女は、ポカンと口を開けたままのトニーに跨ると頬にキスをした。
「もう…私のテクニックで感じなかった男はあなたが初めてよ。それに、誰かいい人がいるんでしょ?寝言で何度も名前を呼んでいたわ。その子を大事にしてあげて」
悪戯めいた笑みを浮かべたオンナはトニーの股間をぎゅっと握った。ひぃ!と小さく叫び声を上げたトニーは飛び起きると、身支度を整え慌てて部屋を飛び出した。

何とか家に辿りついたトニーは、玄関先に倒れこんだ。
頭痛に吐き気と完全に二日酔いだ。それに、ハマーに無理やり吸わされた煙草。あれはクスリだったのだろう。いつもの二日酔いよりもさらにひどい状況にしばらくその場でじっとしていたトニーだが、起き上がるとバスルームに駆け込んだ。

パーティーで遅くなると言われ先に眠っていたペッパーは、玄関から聞こえる物音に目を覚ました。
きっとトニーが帰って来たんだわ…と飛び起きたペッパーは玄関に向かったが、玄関はおろかリビングにも彼の姿は見当たらない。
「どこかしら…」
もしかしたら二日酔いで籠っているのかも…とバスルームへ向かったペッパーだが、そこでも物音は聞こえず、不思議に思いながらドアを開けた。
「と、トニー!」
青い顔をしたトニーはぐったりと壁にもたれ掛り座っていた。大汗をかき目は虚ろで震えている。
「大変…」
こんなに酷い状態の彼は見たことがない。ペッパーと暮らし始めてからのトニーは、滅多なことで飲みすぎることもなかったし、自分でも気を付けているのだから、おそらく誰かに飲まされたのだろう。早く介抱しなければと、トニーを抱えるように起こしたペッパーは寝室へと連れて行った。

水と薬を飲ませ寝かせるとトニーはそのままこんこんと眠り続け、夕方になりようやく目を覚ました。
食欲をそそる匂いに起き上がったトニーがキッチンへ向かうと、エプロンを着けたペッパーが夕食を作っていた。
「目が覚めた?気分はどう?」
トニーに気付いたペッパーはお皿に料理を盛り付けながら振り返った。
「あぁ、もう大丈夫。ゴメン、心配かけた」
椅子に座ったトニーが水を飲んでいると、ペッパーは目の前にお皿を置いた。中にはペッパー特製のスープ。体調が悪い時、必ず作ってくれる栄養満点の彼女お得意のスープだ。
「もう、どうしてあんなになるまで飲んだのよ」
スープを食べながら頬を膨らませているペッパーに、トニーは頭を下げた。
「俺は嫌だと言ったのにハマーの奴が…。…言い訳みたいだな。結局飲んだのは俺なのに…。すまない。もうこんなことはしない」
何度も謝りながらも空腹だったのだろう、お代わりをするほど食べたトニーがソファーに座り身体を伸ばしていると、片付け終わったペッパーが腰を下ろした。
「あんなあなたの姿を見たのって初めてかも…」
ふふっと笑い身体を摺り寄せてきたペッパーを膝の上に乗せたトニーは、首筋を中心に赤い花を散らし始めた。
貪るようにキスを繰り返していた二人だが、顔を赤らめたペッパーが急にもじもじとし始めた。
「…トニー…」
何を恥ずかしそうにしているんだと思いきや、どうやらスウェット越しに熱い塊が当たっているらしい。
「ペッパーにしか反応しない…か」
ぼそっと呟いたトニーだったが、何か言おうとしているペッパーに気付くと、彼女の口を塞ぎその場に押し倒したのだった。

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