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The best thing my dad ever made.【おまけ】

昔は誕生日当日にド派手はパーティーを開き祝ってもらっていたが、結婚してからは家族だけで祝うようになっていた。それでも11年前のあの出来事以降は、宇宙を救ったヒーローであり、スターク・インダストリーズの会長であるトニー・スタークの誕生日を是非祝わせてくれと、会社主催のパーティーがその週末に開かれるようになっていた。トニー自身は勘弁してくれと毎年頼んでいるにも関わらず…。
ということで、今年もトニー・スターク誕生日パーティーが盛大に開催された。ここ数年は少しだけ大人しめだったのに、今年はやたら派手だった。というのも、半年前事件に巻き込まれ重傷を負ったトニーの快気祝いも兼ねていたのだ。
最近人気の俳優や女優、人気アーティストのライブなどなど、一体どれだけ派手なのかと、さすがのトニーも頭を抱えた。
「ハニー、いくらなんでも派手すぎるんじゃないか?」
隣に座っているペッパーに向かってしかめ面をしてみたが、彼女は慌てて首を振った。
「知らなかったのよ。毎年企画部に任せてるから…。こんなに派手になるって分かっていたら、止めてたわよ」
頬を膨らませたペッパーの様子からすると、本当に知らなかったようだ。
が、モーガンは両親とは反対に喜んでいた。というのも、ゲストの1人は、モーガンが大好きな映画シリーズの主演男優だったのだ。大ヒットしている映画ということもあり、彼は今、ハリウッドで一番人気のある俳優だった。パーティーの客は、こんな機会はもう二度とないかもしれないと、彼の元に向かっているが、モーガンは恥ずかしくて近づくこともできなかった。
「モーガン、せっかくだからお話ししてきたら?」
モジモジしている娘にペッパーは声を掛けたが、トニーはあんな奴のどこがいいんだと言わんばかりに、眉間に皺を寄せた。が、可愛い一人娘は彼の大ファンなのだから、ここは自分がどうにかしようと、モーガンの手を掴んだトニーは、立ち上がるとその俳優の元へと向かった。
「えっ?!パパ?!!」
心の準備ができていないと慌てふためくモーガンだが、私も実はファンなのよね…と、母親まで付いてきているではないか。そうこうしているうちに、トニーは俳優に声を掛けた。
「お誕生日おめでとうございます、スタークさん。この度はご招待、ありがとうございます」
白い歯が眩しい笑顔を向けた俳優に、どことなく若い頃のキャプテン・アメリカに…もちろん、ロジャースの方だが…似ているな…と思ったトニーだが、一言二言礼を言うと、娘を引っ張りだした。
「ところで、うちの娘が君の大ファンなんだ」
トニーの言葉に、俳優はモーガンを見つめた。
「も、モーガンです」
真っ赤な顔をしたモーガンに、俳優は笑いかけた。
「モーガンさん、よかったらお話ししませんか?」
「は、はい!!」

バルコニーに向かう2人を見送りながら、ペッパーはトニーに告げた。
「あらあら、モーガンったら嬉しそうね」
が、トニーはありえない程眉間に皺を寄せているではないか。
「どうしたの?」
首を傾げる妻を、トニーはジロリと睨みつけた。
「あいつは要注意人物だ」
「え?」
一体どういうことなのだろうか。ポカンとしているペッパーにトニーは頬を膨らませた。
「分かるんだ。あいつは大昔の私と一緒だ」
「つまり?」
「女癖が悪い。ロジャースの方のキャプテンの若い頃に顔は似ているが、あいつはキャプテンとは違って、クソ真面目ではなさそうだ」
どうしてそういう発想になるのだろうか…と、ペッパーは溜息を吐いた。
「トニーったら、モーガンはファンだから、ただお話ししてるだけよ」
だが、ふんっと盛大に鼻を鳴らしたトニーは、大きな目を見開いて、2人のいるバルコニーの方に目をやった。
「モーガンに指一本でも触れてみろ。あの完璧な白い歯をへし折ってやる」
どこかで聞いたことがあるセリフに、ペッパーが頭を抱えていると、頬を赤く染めたモーガンが興奮気味に駆け寄ってきた。
「お話しできた?」
嬉しそうな娘の素振りに、ペッパーは笑みを浮かべた。
「う、うん!写真も一緒に撮ってもらったの!それからね、今度の映画のレッドカーペットに招待されちゃった!」
すると、トニーはほら見ろというようにペッパーを睨みつけた。が…。
「パパとママも一緒にどうぞって!今度の映画、ヒーローものだから、パパが来てくれたらみんな喜びますって!」
娘の言葉に、トニーはやれやれというように大きく息を吐いた。
「どうしたの?」
必死で笑いを堪えている母親と、気まずそうにソッポを向いている父親に、自分が離れている間に何かあったのかと、モーガンは首を傾げた。
「あなたがお嫁に行く時は、パパは大騒ぎして大変ねって思ったの」
モーガンは不思議そうな顔で両親を見つめていたが、不貞腐れている父親の機嫌を取るように抱きついた。するとトニーがデレっと鼻の下を伸ばした。
そんな父と娘の姿を見つめながら、モーガンが結婚…いや、恋人を連れて来る時のことを想像したペッパーは、先が思いやられるわね…と、一人考えていたとか…。

甘い夜のお話(R-18)

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The best thing my dad ever made.⑫【END】

半年後、トニーは退院した。
すぐに新しい義手を作り始めるのかと思いきや、父親がラボに籠る気配は全くない。そればかりか、父親はいつまで経っても、自分が作った義手を使い続けているのだ。
そこで些か心配になったモーガンはある日、父親に尋ねた。
「パパ、ずっとその義手を使うつもりなの?」
すると、父親はふんっと鼻を鳴らした。
「当たり前だ。モーガンがパパのために作ってくれたんだぞ?調子が悪くなるまでは使うつもりだ」
嬉しくて仕方なかったが、さすがにそのデザインはどうなのかと思ったモーガンは、今度は大人しめなデザインの義手を作った。入院中、父親から教えてもらった技術や知識を生かして、改良もしてみた。

「パパ、第二弾が出来たの」
と、モーガンがトニーをラボに呼び出したのは、それから数週間後の、奇しくもトニーの誕生日だった。
「お誕生日おめでとう、パパ」
そう言いながら差し出された箱には、モーガンの字で『大好きなパパへ』と書かれていた。
早速開けてみると、今度の義手は至って普通のデザインだった。内心ホッとしながら嵌めてみると、自分が作った物と遜色ないほど素晴らしい出来だった。
「第一弾よりもさらに動きがいい」
指を動かしながら満足げに頷いている父親に、モーガンは首を振った。
「パパが教えてくれたおかげだよ。私なんかまだパパの足元にも及ばないわ。だって、パパは今まで凄いものを沢山作ってきたんだから…」
娘の言葉にトニーは首を振った。
「確かにパパは色々な物を作ってきたが…」
と、トニーが言葉を切った。彼は遠い昔、ホログラム越しに伝えられた亡き父の言葉をふいに思い出したのだ。

『私が作った最高のものはお前だ、トニー』
愛情を表現することに関しては不器用だった父親…ハワード・スターク。愛しているとかそう言った類の言葉は、一度も掛けてもらった記憶はない。当時は父親の気持ちが分からなかった。だが、あの時…時を超えて受け取ったメッセージには、父親の愛が込められていた。
あれから自分も父親になり、言葉に出さずとも伝わる思いがあることも実感した。11年前、タイムスリップした先で出会った父親は、確かに自分が産まれることを楽しみにしてくれていた。父親と直接触れ合ったことで…父親の温もりを感じたことで、父親の愛を再確認することもできた。

そして今…。
(あぁ…そうか。親父もこんな気持ちだったんだ…)
あの映像を見た時は、ただ単に父親も自分のことを愛してくれていたのだと思った。だが、今なら分かる。モーガンの父親として15年間歩んできた今なら、あの時父親がどんな思いで、あの言葉を未来の自分に残してくれていたのか…。『愛している』と言う言葉以上に、あの一言には父親の底知れぬ愛情が詰まっていたのだ。

何度か瞬きをしたトニーは、娘の手を取った。そして自分そっくりの瞳を見つめたトニーは、深呼吸をした。
「パパが作った最高傑作はお前だ、モーガン・H・スターク」

父親の言葉に、モーガンの目からポロリと涙が零れ落ちた。
「パパ……」
嬉しかった。嬉しくて仕方なかった。
父親は昔から大っぴらげに愛情を表現してくれていた。事ある事に『産まれてきてくれてありがとう』とか『モーガンがパパの娘でよかった』とか言われ続けていたので、自分が父親からいかに愛されているかは重々承知していた。
だが、父親の言葉は、最高の褒め言葉だった。その一言には、父親の自分に対する気持ちが全て入っているのだから…。

モーガンは父親に抱きついた。シクシク泣き続ける娘を抱きしめたトニーは、ポンポンっと背中を撫でた。娘の温もりにトニーは再び考えた。もしかしたら父親…ハワードも、こうやって直接伝えたかったのかもしれない。だが当時の自分は幼かったため、ビデオメッセージを残したのだろう。その後、伝えようと思えばそういう機会はあったのかもしれないが、不器用な父親故に、お互いの気持ちがすれ違い、結局は分かり合えないまま永遠の別れを迎えてしまった。何十年も経った後、父親の気持ちに触れ、話をしなかったことを酷く後悔した。そのため、自分の娘には同じような思いをさせたくないと、ありったけの愛を直接伝えてきた。
だからモーガンは分かってくれたのだ。先程の一言に込めた思いを全て…。だから今のこうやって号泣しているのだろうから…。

感極まったトニーの目から涙が零れ落ちた。すると、父親の涙に気づいたモーガンが顔を上げた。
「パパ、泣いてるの?!」
照れ臭くなったトニーは、涙を拭うとフンっと鼻を鳴らしたが、ここは素直になった方がいいと思い直した。
「モーガンがパパの気持ちを分かってくれて嬉しいんだ。義手の出来も素晴らしいが、モーガンが世界一最高の娘で、パパは嬉しいんだ」
するとモーガンは大粒の涙を流しながら、ニッコリ笑った。
「パパは世界一のパパだよ。パパが私のパパでよかった」

と、そこへペッパーがやって来た。抱き合い泣いている父と娘を見たペッパーは、何かあったのかと飛び上がった。
「どうしたの?!」
「モーガンが最高の誕生日プレゼントをくれたんだ」
袖口で涙を拭ったトニーは、娘の頬を拭くと、不思議そうな顔をしている妻を見つめた。
「ところでミセス・スターク。君からのプレゼントはないのか?」
泣いていた理由は2人きりになれば話してくれるだろう…と考えたペッパーは、話題を変えようとしている夫に合わせるように肩を竦めた。
「勿論あるわよ。私があなたの誕生日を忘れたことがある?」
「何十年と一緒にいるが、君は一度も忘れたことはない」
真顔で頷いたトニーに、ペッパーは目をくるりと回してみせた。
「そう言えば、あなたは私の誕生日を覚えてなかったわよね」
と、モーガンが飛び上がった。
「嘘?!!パパったら、ママの誕生日を覚えてなかったの?」
自分が知っている限りでは、父親は毎年母親の誕生日に向けて超念入りな準備をしているのに、覚えていなかったことがあるのかと、モーガンは目を白黒させ始めた。そんな娘をチラリと見たトニーは、ため息をついた。
「おい、モーグーナ。大昔の話だ。ママと付き合い始める前の話なんだぞ?ハニー、何十年も前のことを蒸し返さないでくれ」
しかめ面をしているトニーに、ペッパーはからかうような笑みを浮かべると、頬にキスをした。
「そうね、恋人になってからのあなたは、私のことを全て覚えてくれているわ」
するとトニーは妻の腰を引き寄せると、唇にキスをした。
「で、プレゼントは?」
「色々準備してるわよ。でもその前に、ケーキを作ってるの。あなたのために作った特別なケーキを…」
ふふっと笑ったペッパーはトニーの左手を繋いだ。
「さぁ、パパの誕生日パーティーをしましょ?」
「うん!」
立ち上がったモーガンは、父親の右手を繋いだ。
妻と娘に手を引っ張られ立ち上がったトニーは、2人の大切な女性と共にラボを後にした。

【END】
おまけ

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The best thing my dad ever made.⑪

その日から早速、モーガンは父親のラボに籠った。父親が作っていた義手の設計図を元にしているが、デザインは一新してみた。きっとパパはこういうデザインが似合うだろうと、モーガンは必死で考えた。それから、少しだけ改良もしてみた。

1週間経った。トニーは順調に回復しており、まだ起き上がれないが、大好きなチーズバーガーも食べることができるようになっていた。
そこでモーガンは、チーズバーガーとドーナツを買うと、完成した義手を持ち、父親の元に向かった。

「パパ、出来たわよ」
鼻歌を歌いながら箱を開けたモーガンだが…。中にはやけに可愛らしい色合いで、しかもカラフルな…いかにも10代の女の子が好きそうな色合いの義手が入っていた。
トニーは一瞬ドン引きしてしまった。こんな派手なのをこれから付けなければならないのかと…。
だが、モーガンは期待に満ちた瞳で自分を見つめているではないか。
気づかれないように溜息を付いたトニーは、これも10代の娘を持った父親の務めかもしれないと思い直すと、娘に告げた。
「モーガン、早速試したいから、起こしてくれ」
「うん」
父親の身体を少しだけ起こしたモーガンは、背中に枕を入れた。そしてパジャマの上を脱ぐのを手伝った。が、包帯の巻かれた父親の身体は傷だらけで、モーガンは胸が痛んだ。
パパはいつまで傷つけられなくてはならないのだろう…。ヒーローからはとっくに引退しているのに、どうしていつまでも辛い目に遭わなければならないのだろう…と。
そして心に決めた。これからは私がパパとママを守ると…。

義手を箱から出したモーガンは、父親の身体の右側に装着した。義手はピッタリだった。黙って指を動かしている父親に、モーガンは不安げに尋ねた。
「どう?」
するとトニーは、真剣な表情で大きく頷いた。
「さすがパパの娘だ。動きもスムーズだし、完璧だ」
自分が作った物に比べると動きは鈍いが、少しだけ軽くなっており、義手の出来栄えに、トニーは内心舌を巻いていた。
やたら派手なデザインであることを除けば、義手はほぼ完璧だった。自分が書いた設計図やデータがあるにしろ、15歳の娘がたった一人で初めて作った義手に、トニーは娘の底知れぬ才能を誇らしく思った。
「よかった」
目標であり尊敬してやまない父親に完璧と言われたのだ。安心したように息を吐いたモーガンは、嬉しそうにニコニコ笑い出した。

と、そこへペッパーが買い物から戻って来た。
「あら?新しい義手?」
トニーの右腕に装着された義手に気づいたペッパーが、開口一番そう口に出した。
「あぁ、そうだ」
頷いたトニーが『モーガンが作ってくれた』と言う前に、ペッパーはプッと吹き出した。
「それにしてもあなたにしては可愛らしい色合いだし、派手すぎない?」
母親の言葉にモーガンが口を尖らせた。あ…っと口を押さえたペッパーに、トニーは眉を吊り上げた。
「おい、ハニー。こんな派手な義手が似合うのは、私しかいないだろ?」
流石のトニー・スタークでも、可愛らしいデザインの義手は正直ミスマッチなのだが、せっかく娘が作ってくれたとトニーも思っているのだろう…と、ペッパーも神妙な顔をして頷いた。
「そうね。あなたはそれくらい派手な方が似合ってるわ」
が、モーガンはまだ口を尖らせている。
確かに60近い父親にこの色合いは大丈夫なのかと自分でも思った。だが、退院すれば父親は自分で義手を作るだろうから、この義手はそれまでの仮の物だ。
『あたしがパパの右のおててになってあげる』
小さすぎて覚えていないが、父親が右腕を切断した時、そう言って父親を励ましたらしい。その思いは11年経った今でも変わっていない。だから、せめて入院中、ずっとそばで支えているという思いを伝えたくて、敢えてこのデザインにしたのだ。その思いを伝えるべきかモーガンが迷っていると、トニーは真新しい義手を撫でた。
「確かに前の義手よりは派手だが、モーガンがパパのために考えて作ってくれたことが、パパは何より嬉しいんだ」
父親の言葉に、モーガンは上目遣いで見つめた。
「ホント?」
「当たり前だ。まさかモーガンが作ってくれた物を使える日が来るなんて、夢にも思ってなかったさ。生きていてよかった」
そう言いながら笑ったトニーは心底嬉しそうで、父親の笑みにようやくモーガンは安心した。

⑫へ・・・

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The best thing my dad ever made.⑩

1週間経ち、トニーの容態が安定してきたため、NYの病院に移ることになった。搬送後もトニーは麻酔で眠ったままだったが、3日後には麻酔から覚醒させることになった。
そして数時間後、トニーの瞼がピクっと動いた。
「トニー……」
手を握りしめたペッパーが呼びかけると、トニーはゆっくりと目を開けた。
「気がついた?」
「ぺ…ぱ……」
視線を彷徨わせていたトニーだが、妻を見つけると嬉しそうに目を細めた。
「あなたの追跡装置のおかげで、助かったの。犯人たちも捕まったわ。だから安心して」
頷いたトニーは、ぼんやりする頭を覚醒させようと小さく首を振った。誰が助けに来てくれたのかと尋ねようとしたが、口の中がカラカラで、上手く言葉が出てこない。するとペッパーはストローで水を飲ませてくれた。
「ローディとピーターが助けに来てくれたの。それからモーガンも…」
娘の名前にトニーは少しだけ目を見開いた。
「あの子が作っていたアーマーが、役に立ったのよ。モーガンはやっぱりあなたの娘ね」
瞬きをしたトニーは、娘の姿を探すかのように視線を動かした。
「モーガンは寝てるわ」
ソファの上で丸くなって眠っている娘のそばに向かったペッパーは、彼女の肩を揺さぶった。
「モーガン、パパが目を覚ましたわよ」
「あと5分……」
寝ぼけた声で答えるモーガンを起こそうと、ペッパーは先程より強めに肩を揺さぶった。
「モーガン、起きて」
するとモーガンは、大欠伸をしながら起き上がった。まだ半分眠っているのか、目を擦っている娘の顔をペッパーは覗き込んだ。
「パパが起きたわよ」
ピタッと動きを止めたモーガンは、物凄い勢いで立ち上がると、ベッドのそばに駆け寄った。
「パパ!!」
左手を握りしめたモーガンは、トニーが笑みを浮かべているのを見ると、ポロポロと涙を零し始めた。そして、父親に抱きつくと小さな子供のように泣き始めた。
抱きつかれた瞬間、身体中が痛み、悲鳴を上げそうになったトニーだが、痛みよりも娘が腕の中にいる喜びの方が勝っていたので、左腕をゆっくり動かすと、泣き続ける娘の背中を撫でた。

***

翌日になると、トニーは話ができるようになった。
着替えを取りに家に帰っていたペッパーとモーガンが戻ってくると、主治医が状態を説明するとペッパーに告げた。そこでモーガンは先に病室に向かった。

トニーは目を覚ましていた。
「パパ、おはよ」
「おはよう…」
掠れた声だったが、昨日よりもしっかりとした声に、モーガンは安心した。
そこで、アーマーのことを聞いてみようかと思った。だが、父親はまだ話すのも辛そうなのだから、聞いていいものかモーガンが迷っていると、トニーが口を開いた。
「モーガン、ありがとう…。お前が…助けに…来てくれたんだろ?」
助けただなんてとんでもないと、モーガンは慌てて首を振った。
「私はただローディおじさんたちに付いて行っただけよ」
が、トニーは嬉しそうに目を細めた。
「だが…ペッパーが…喜んでいた。お前がそばにいてくれて…心強かったと……」
父親はどこか誇らしげだった。そこでモーガンは、父親に改めてアーマーのことを話すことにした。
「ねぇ、パパ。アーマーを作っていたこと、黙っててごめんね。それから…気づいてたのに、気づかないふりをしてくれててありがと。私ね、昔からずっとパパって凄いなって思ってたけど、自分でアーマーを組み立ててみて、改めて思ったの。パパって本当に凄いって。パパがこっそりヒントを出してくれたけど、私にはパパみたいなアーマーを作るのはまだ無理だった。こうしたいって色々アイデアは浮かんでくるんだけど、どうやったらできるのか、分からないことだらけだった。だからね、私、もっともっと沢山勉強しなきゃって気づいた。それから、パパにもっと色んなことを教えてもらわなきゃって…。勿論ママにも。ママの言葉を思い出したの。ローディおじさんたちに付いてパパたちを助けに行くべきか迷った時に…。ママ、よく言ってるでしょ?『迷った時は自分の心に従え』って。迷ってた私の背中を押してくれたのは、ママの言葉だった。私の目標はパパとママみたいになること…。小さい頃からそう思ってたけど、今回のことで、もっと思うようになったわ」
娘の言葉を黙って聞いていたトニーだったが、
「そうか…」
と一言呟くと、嬉しそうに笑みを浮かべた。

モーガンは小さい頃から『大きくなったら、パパとママみたいになる』とずっと言っていた。
今回の件で実感した。こうやって自分たちの思いは娘が受け継いでくれるのだと…。嬉しかった。決して完璧な親ではないが、自分たちの背中を見て娘は育ってくれたことが…。

そこでトニーは、娘に頼み事をすることにした。きっと彼女が喜んで引き受けてくれるであろう頼み事を…。
「なぁ…頼みがある。パパの右腕…モーガンが…作ってくれないか?」
するとモーガンが椅子の上で飛び上がった。まさかそんな重大なミッションを任せられると思ってもいなかったモーガンは、目を輝かせた。
「いいの?」
するとトニーは、大真面目な顔をして頷いた。
「頼むぞ、ミス・スターク」

⑪へ・・・

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The best thing my dad ever made.⑨

2人はロンドンにある病院に運ばれた。トニーはすぐに手術室に運ばれ、ペッパーも診察を受けた。
ローディとピーターは犯人たちの正体を掴んだと、ハッピーの操縦するジェットで出かけ、病院にはモーガンが一人残っていた。
廊下の硬い椅子にポツンと座ったモーガンは、震える手を膝の上で握りしめた。
母親は大丈夫だ。精神的にはかなり参っているだろうが…。だが、父親は…。救出した時には既に心肺停止状態だった。病院へ搬送する飛行機の中でも…。手術は難航しているのか、手術室にはひっきりなしに医師たちが出入りしている。が、誰も何も教えてくれない。それだけ状況は厳しいということなのだろうか…。
「パパ……」
膝を抱えたモーガンは、涙を拭った。
11年前も、父親は何度呼びかけてもずっと眠ったままだった。先程、飛行機の中で触れた父親の左手は、11年前と同じく、冷たく反応がなかった。
「パパ…お願い……頑張って……」
モーガンには祈ることしかできなかった。

「スタークさん、どうぞ」
ペッパーを診察した医師に声を掛けられ、モーガンは立ち上がった。
「母は大丈夫ですか?」
すると医師は、モーガンを安心させるように笑顔で頷いた。
「お母様は大丈夫ですよ。脱水状態になっているので、点滴中です」
父親のことが心配でたまらなかったが、まずは母親の無事を確認しようと、何度か深呼吸をしたモーガンは、病室に入った。

娘の姿を見たペッパーは、開口一番尋ねた。
「トニーは…パパは?」
「まだ手術中よ」
モーガンも詳しいことは知らないため、そう答えると、
「そう…」
と呟いた母親は、悲しそうに顔を歪めた。
椅子に腰掛けたモーガンは、そんな母親の手をそっと握りしめた。するとペッパーは、その手を握り返すと、娘に顔を向けた。
「モーガン、ありがとう」
母親に礼を言われ、モーガンは首を振った。
「私は何もしてないわ。ママが追跡装置を起動してくれたから、居場所が分かったの」
するとペッパーは、もう片方の手を重ね、娘の手を包み込んだ。
「そんなことないわ。助け出された時、あなたの顔を見た瞬間、ママはすごく安心できたの。あの場にあなたがいてくれて、本当にありがたかったわ。それにね、パパのおかげよ。ママのネックレスに追跡装置を仕込んでいたのも、装置を起動してくれたのも、トニーだから…」
あの閉じ込められていた時を思い出したペッパーの手が震え始めた。
「ママは…何の役にも立たなかったわ。パパが…トニーが目の前で苦しんでいるのに……何もできなかった…」
ポツリポツリと涙が溢れ落ちた。母親の苦しみがヒシヒシと伝わってきたモーガンは、自分も泣きたくて堪らなかったが、グッと涙を堪えた。
「ママがいたから、パパは追跡装置を起動できたのよ。それにママがそばにいてくれたから、パパは頑張れたんだと思うわ。ママ、パパは大丈夫よ。パパはアイアンマンよ。パパは強いんだから。11年前のあの時だって、パパは頑張ってくれたもの。だから大丈夫」
目に涙を浮かべながらも、気丈にも励まそうとしてくれている娘に、ペッパーの心は少しだけ軽くなった。
そこでペッパーは、話題を変えようと、明るめの声で告げた。
「そうだわ。モーガン。ママに隠してたことがあるわよね?」
悪戯めいた笑みを浮かべたペッパーに、モーガンは気不味そうに瞬きした。
「アーマーのこと…よね?ごめんなさい。パパにもママにも秘密にしてて…」
モジモジとしたモーガンは、伏目がちに言葉を続けた。
「アーマーを作ってるって、パパとママに言ったら、反対されると思ったの。だって、パパはママにはアーマーを作ったけど、私には作ってくれないでしょ?きっと危険だからダメだって怒られると思ったの。でも、私、パパみたいになりたいの。アイアンマンになりたいとかじゃないの。パパみたいに、世界の役に立つものを作りたい。だからまずはアーマーを作ってみようって…」
ゴニョゴニョと言い訳する娘の姿は父親そっくりで、ペッパーは思わずクスッと笑ったが、真実を知った時の娘の反応を想像した彼女は、必死で笑いを堪えようと、コホンと咳払いをした。
「知ってたわよ。あなたがアーマーをこっそり作っていることは」
思わぬ言葉に、モーガンは椅子の上で飛び上がった。
「どうして?!!完璧に隠してるって思ってたのに!」
想像通りの反応に、ペッパーは声を出して笑った。
「パパはとっくに気づいてたわよ。あなたがアーマーを作り始めたその日から。ママもパパから聞いたの。モーガンがアーマー作りを始めたって…」
クスクス笑ったペッパーは、呆然としている娘にウインクをした。
「すぐに止めさせた方がいいかしら…ってママは言ってみたのよ。でもね、パパは何て言ったと思う?モーガンのやりたいようにやらせてみようって。もしアーマーが完成しても、戦いの場には絶対に向かわせない。危険な目には絶対に合わせないから、モーガンの好きにさせてやってくれって…」
優しい瞳で娘を見つめたペッパーは、トニーのことを思い返した。
「パパはずっとチェックしていたわよ。もっとこうすればいいのに…って、ママにいつもブツブツ言っていたの。直接モーガンに言えばって言ったら、あの子が助けを求めてくるまでは口を挟まないと決めたって言ってたわ」
まさか父親にバレていたなんて…。F.R.I.D.A.Y.が何も言わなかったのも、父親が口止めしていたのだろう。だが、モーガンには思い当たる節があった。父親のアーマーの設計図を分析すると、やけに分かりやすく解説が付いていたのだ。それは父親が陰ながら助けてくれていたから…。父親は黙ってずっと支えてくれていたのだ。

「そうなんだ」
神妙な顔で頷いた娘に、ペッパーは一際優しい笑みを向けた。
「でも、おかげでママたちは助かったわ。あなたがアーマーを作っていたおかげね。パパもきっとあなたのこと、誇りに思うわ…」
「うん…」
母親に抱きついたモーガンは、祈った。
パパが無事に戻ってきますように…と。

***

それから半日後。
ようやくトニーの手術が終わり、トニーはICUに運ばれた。手術は成功したと告げられ、ペッパーとモーガンはようやく安心することができた。
全身包帯だらけの父親と対面したモーガンは、またあの時の父親を思い出した。が、左手をそっと握ると、父親の手は温かかった。11年前とは違い、温かかった。
(パパは大丈夫…。きっと元気に目を覚ましてくれる…)
そう確信したモーガンは、母親と共に父親に寄り添い続けた。
翌日、ローディとピーターが犯人たちを捕まえたと報告に来た。そしてトニーの付き添いをハッピーが交代してくれることになり、ペッパーとモーガンは病院近くのホテルで暫しの休息を取ることにした。
シャワーを浴び戻ってくると、母親がルームサービスを頼んでくれていた。
「お腹空いたでしょ?」
「うん」
正直、空腹感は覚えていなかったが、いざ食べ始めるとやはり相当空腹だったらしく、2人とも黙々と食べ続けた。
食べ終わったモーガンは、ソファにコロンと横になった。母親と話をしようと思っていたのに、疲れ切っていたモーガンは、そのまま眠ってしまった。
「お疲れ様…」
グッスリと眠っているモーガンの頬を撫でたペッパーは毛布をかけると、小さい頃のように頭にそっとキスをした。

⑩へ・・・

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