The best thing my dad ever made.⑫【END】

半年後、トニーは退院した。
すぐに新しい義手を作り始めるのかと思いきや、父親がラボに籠る気配は全くない。そればかりか、父親はいつまで経っても、自分が作った義手を使い続けているのだ。
そこで些か心配になったモーガンはある日、父親に尋ねた。
「パパ、ずっとその義手を使うつもりなの?」
すると、父親はふんっと鼻を鳴らした。
「当たり前だ。モーガンがパパのために作ってくれたんだぞ?調子が悪くなるまでは使うつもりだ」
嬉しくて仕方なかったが、さすがにそのデザインはどうなのかと思ったモーガンは、今度は大人しめなデザインの義手を作った。入院中、父親から教えてもらった技術や知識を生かして、改良もしてみた。

「パパ、第二弾が出来たの」
と、モーガンがトニーをラボに呼び出したのは、それから数週間後の、奇しくもトニーの誕生日だった。
「お誕生日おめでとう、パパ」
そう言いながら差し出された箱には、モーガンの字で『大好きなパパへ』と書かれていた。
早速開けてみると、今度の義手は至って普通のデザインだった。内心ホッとしながら嵌めてみると、自分が作った物と遜色ないほど素晴らしい出来だった。
「第一弾よりもさらに動きがいい」
指を動かしながら満足げに頷いている父親に、モーガンは首を振った。
「パパが教えてくれたおかげだよ。私なんかまだパパの足元にも及ばないわ。だって、パパは今まで凄いものを沢山作ってきたんだから…」
娘の言葉にトニーは首を振った。
「確かにパパは色々な物を作ってきたが…」
と、トニーが言葉を切った。彼は遠い昔、ホログラム越しに伝えられた亡き父の言葉をふいに思い出したのだ。

『私が作った最高のものはお前だ、トニー』
愛情を表現することに関しては不器用だった父親…ハワード・スターク。愛しているとかそう言った類の言葉は、一度も掛けてもらった記憶はない。当時は父親の気持ちが分からなかった。だが、あの時…時を超えて受け取ったメッセージには、父親の愛が込められていた。
あれから自分も父親になり、言葉に出さずとも伝わる思いがあることも実感した。11年前、タイムスリップした先で出会った父親は、確かに自分が産まれることを楽しみにしてくれていた。父親と直接触れ合ったことで…父親の温もりを感じたことで、父親の愛を再確認することもできた。

そして今…。
(あぁ…そうか。親父もこんな気持ちだったんだ…)
あの映像を見た時は、ただ単に父親も自分のことを愛してくれていたのだと思った。だが、今なら分かる。モーガンの父親として15年間歩んできた今なら、あの時父親がどんな思いで、あの言葉を未来の自分に残してくれていたのか…。『愛している』と言う言葉以上に、あの一言には父親の底知れぬ愛情が詰まっていたのだ。

何度か瞬きをしたトニーは、娘の手を取った。そして自分そっくりの瞳を見つめたトニーは、深呼吸をした。
「パパが作った最高傑作はお前だ、モーガン・H・スターク」

父親の言葉に、モーガンの目からポロリと涙が零れ落ちた。
「パパ……」
嬉しかった。嬉しくて仕方なかった。
父親は昔から大っぴらげに愛情を表現してくれていた。事ある事に『産まれてきてくれてありがとう』とか『モーガンがパパの娘でよかった』とか言われ続けていたので、自分が父親からいかに愛されているかは重々承知していた。
だが、父親の言葉は、最高の褒め言葉だった。その一言には、父親の自分に対する気持ちが全て入っているのだから…。

モーガンは父親に抱きついた。シクシク泣き続ける娘を抱きしめたトニーは、ポンポンっと背中を撫でた。娘の温もりにトニーは再び考えた。もしかしたら父親…ハワードも、こうやって直接伝えたかったのかもしれない。だが当時の自分は幼かったため、ビデオメッセージを残したのだろう。その後、伝えようと思えばそういう機会はあったのかもしれないが、不器用な父親故に、お互いの気持ちがすれ違い、結局は分かり合えないまま永遠の別れを迎えてしまった。何十年も経った後、父親の気持ちに触れ、話をしなかったことを酷く後悔した。そのため、自分の娘には同じような思いをさせたくないと、ありったけの愛を直接伝えてきた。
だからモーガンは分かってくれたのだ。先程の一言に込めた思いを全て…。だから今のこうやって号泣しているのだろうから…。

感極まったトニーの目から涙が零れ落ちた。すると、父親の涙に気づいたモーガンが顔を上げた。
「パパ、泣いてるの?!」
照れ臭くなったトニーは、涙を拭うとフンっと鼻を鳴らしたが、ここは素直になった方がいいと思い直した。
「モーガンがパパの気持ちを分かってくれて嬉しいんだ。義手の出来も素晴らしいが、モーガンが世界一最高の娘で、パパは嬉しいんだ」
するとモーガンは大粒の涙を流しながら、ニッコリ笑った。
「パパは世界一のパパだよ。パパが私のパパでよかった」

と、そこへペッパーがやって来た。抱き合い泣いている父と娘を見たペッパーは、何かあったのかと飛び上がった。
「どうしたの?!」
「モーガンが最高の誕生日プレゼントをくれたんだ」
袖口で涙を拭ったトニーは、娘の頬を拭くと、不思議そうな顔をしている妻を見つめた。
「ところでミセス・スターク。君からのプレゼントはないのか?」
泣いていた理由は2人きりになれば話してくれるだろう…と考えたペッパーは、話題を変えようとしている夫に合わせるように肩を竦めた。
「勿論あるわよ。私があなたの誕生日を忘れたことがある?」
「何十年と一緒にいるが、君は一度も忘れたことはない」
真顔で頷いたトニーに、ペッパーは目をくるりと回してみせた。
「そう言えば、あなたは私の誕生日を覚えてなかったわよね」
と、モーガンが飛び上がった。
「嘘?!!パパったら、ママの誕生日を覚えてなかったの?」
自分が知っている限りでは、父親は毎年母親の誕生日に向けて超念入りな準備をしているのに、覚えていなかったことがあるのかと、モーガンは目を白黒させ始めた。そんな娘をチラリと見たトニーは、ため息をついた。
「おい、モーグーナ。大昔の話だ。ママと付き合い始める前の話なんだぞ?ハニー、何十年も前のことを蒸し返さないでくれ」
しかめ面をしているトニーに、ペッパーはからかうような笑みを浮かべると、頬にキスをした。
「そうね、恋人になってからのあなたは、私のことを全て覚えてくれているわ」
するとトニーは妻の腰を引き寄せると、唇にキスをした。
「で、プレゼントは?」
「色々準備してるわよ。でもその前に、ケーキを作ってるの。あなたのために作った特別なケーキを…」
ふふっと笑ったペッパーはトニーの左手を繋いだ。
「さぁ、パパの誕生日パーティーをしましょ?」
「うん!」
立ち上がったモーガンは、父親の右手を繋いだ。
妻と娘に手を引っ張られ立ち上がったトニーは、2人の大切な女性と共にラボを後にした。

【END】
おまけ

最初にいいねと言ってみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。